「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」(2022)

 深淵をのぞいたような心地になった。これは心をえぐってくるようなホラー映画だ。これを書いている今も震えが止まらない。


 女子高生のミアは一年前に母親を失っており、母の死について何かを隠している父親を憎んでいる。幼なじみのジェイド、ライリー姉弟やその母とのなかは良好。そんな折、「憑依」という行為に出会う。


 噂の〝降霊会〟に招かれて、ミアは「憑依」に出会う。使われるのは、切断された霊媒師の手を衛生保存エンバーミングしたというその〝左手〟。それを握り、「話したまえ(トーク・トゥ・ミー)」、「入るを許す(レット・ユー・イン)」と唱えると霊に憑依される。そして、憑依されている間はブッ飛んだ感覚を得られる。ただし、90秒を越えてはいけない。完全に霊に体を乗っ取られてしまうのだ。


 ミアと仲間たちは「憑依」に夢中になり、厳しいジェイドの母親の目をかいくぐって、繰り返す。そのおかげで、ミアの人生は楽しくなる。しかし、幼いライリーが「憑依」をやりたいと言ってからすべてが壊れる。なんとライリーが出会った幽霊は××だったのだ……。


 本作の「憑依」は、間違いなく「麻薬」のメタファーだろう。妙に秘密めかしたところ、大人の目をかいくぐって行われるところが、いかにもそれらしく見える。霊魂が体内に入っている間は、自分が自分じゃなくなる感覚を味わい、それが得も言われぬ快楽になるのだ。ミアは仲間たちとカジュアルに「憑依」を繰り返し、めちゃくちゃハイになって盛り上がる。しかし、そこには罠が潜んでいたのである。


 本作のねらいは「麻薬の危険性を啓発する」といったものではなく、「依存症」そのものへの警告だ。麻薬的なものは一時的には気分を和らげてくれる。誰しも生きていれば苦しいこともあるし、喪失を経験すれば普通じゃいられなくなる。誘惑へと手が伸びるのもいたしかたないところがある。だが、のめり込んだ先に待っているのは地獄ということもあるのだ。


 監督は、ダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟。なんとYouTuber出身。降霊会のシーンでは誰しもが当たり前のようにスマートフォンのレンズをかざすという光景が見られ、これはいかにも現代的な感覚に思える。かと思えば、ヒッチコックの「めまい」を彷彿とさせるカットが挿入される。新世代の監督ならではの、新感覚の映像が堪能できる。


 目新しさばかりではない。ホラーとしてしっかりと怖い。唐突に現れる霊にはきっとびっくりさせられるだろうし、闇にうずくまる幽霊がぬうっと起き上がってくるところは絶叫してしまうだろう。YouTubeの動画編集で磨かれたであろう監督の手腕にいつの間にか虜にさせられることを請け合う。


 恐怖と快楽――その先にミアが何を見たのか、見届けてほしい。

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