「生きる LIVING」(2022)
黒澤明の名作「生きる」の英国リメイク作品で、脚本はノーベル賞作家のカズオ・イシグロが担当している。死に際していかに振る舞うべきか、どのような心持ちであるべきかを示した感動作となっている。
市民課の課長を務める公務員のウィリアムズ。役所の職員として真面目に働いていた彼はある日、医師からガンで余命もって半年であることを告げられる。
残りの人生があとわずかだと知り、ウィリアムズは混乱状態に落ちいる。会社にもいく気になれず、同居する息子たちにも打ち明ける決心がつかない。
そうして放浪的に時間を過ごすうちに、人々との得難い交流をする。魅力的な若い女性スミス。無頼ながらも優しいサザーランド。
そして生きるとは何かということに重要な気づきを得る。人生について考え直した彼が最後にとった行動とは何か。そこに意義はあったのか。大事なことを問いかける映画になっている。
人生が有限であることは誰もが心得ていることではあるけれども、目の前に迫った時には誰もが動揺するだろう。そして、その瞬間はあらゆる人に訪れる。その時にどんな心持ちでいればよいか、あるいはその時が来るまでにどんな生き方をしたらよいか、本作は教えてくれる。
本作の舞台は1953年のイギリスで、どこかノスタルジーを感じるような街並みや景色が広がる。
どうして本作はこの時代に舞台を設定したのだろうか?
おそらく、この物語は現代に設定したら成り立なくなるからだろう。健康の検診は充実しているし、医療も発展している。有給を取るのも気軽になっている。
また、秘密を抱えてぐっと飲みこむという人物が存在していられたのは、きっと1953年を最後に姿を消してしまったのだと思う。なにせ、その後はコミュニケーションの重要さが説かれる時代に突入するのだから。
脚本を担当したカズオ・イシグロは名作「日のなごり」でも「秘密を抱えてぐっと飲みこむという人物」を描いている。多くを語らず、秘密を抱えた男。カズオ・イシグロはこうしたテーマを抱えているようだ。そうやって失われていく世代への追悼をしているのだろうか。
時代性・地域性を丹念に考慮すれば、実際は違う話なのかも知れない。それでも、この映画から受け取った感動だけは間違いないことを最後に伝えたい。
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