「ゴジラ-1.0」(2023)

 地震・雷・火事・ゴジラ――天災としてのゴジラが帰ってきた。海の向こうよりやってきて、戦後の復旧もおぼつかない東京の街に大破壊をもたらす。ゴジラとの戦いを通して描かれるのは、自信を失った男・敷島の尊厳を取り戻す物語である。


 監督は「四丁目の夕日」シリーズ、「STAND BY ME ドラえもん」の山崎貴。ヒューマニティーあふれる作風で知られ、公開前は、はたしてゴジラに合うのだろうかと不安視する声をネットで見かけたりもしたが、フタを開けてみれば大好評。海の向こうでも話題を呼び、ついにはオスカー像まで獲得するにいたった。


 物語は、南国の島に主人公・敷島が軍用機で乗りつけてくるシーンからはじまる。この敷島という男、どこか様子がおかしい。どうやら特攻から逃げ出してきたようなのである。この島にもがせまってくるのだが、敷島は手が震えて攻撃の手を加えることができない。整備兵の橘から酷くなじられ、傷つく。この経験はその後敷島にトラウマを残すことになる。


 空襲により瓦礫がれきの山と化した実家に戻り、敷島は戦後の混乱に知り合った典子と赤ん坊の明子とともに擬似的な親子生活をはじめる。典子とは、不思議なまでにプラトニックな関係として描かれる。

 一方、海の向こうのビキニ環礁では核実験が行われていた。これがとんでもない怪物を作り上げてしまう。

 時の経過とともに、生活の基盤を築きあげる敷島と典子。敷島は仕事仲間の秋津・水島・野田と知り合い、友達づきあいをする。典子も仕事を得る。明子すくすく育つ。万事うまく運んでいるかのように見えたが、災難が訪れたのはその矢先のできごとだった――無論、ゴジラの登場である。


 ――本作のゴジラはとにかく強い、デカい、固い。ただの銃弾ではびくともしない。さらに、不死身と言っていいくらいの再生能力を持っている。もちろん、口から光線を出す。しかも、その破壊力たるやすさまじい。その時に背中の背びれがひとつひとつ隆起していくのだが、その姿はカッコいいのひとこと。このアクションシークエンスは本作の白眉のひとつであろう。


 ゴジラは一度きりの襲撃で終わってはくれず、必ずまたやってくる。こんな最強で無敵なゴジラとどうやって戦えばいいのか?

 人間はなんとかするのである。

 科学知識や工業技術のすいを集め、人間たちが知恵を出し合う様子は、開闢かいびゃく以来自然災害の脅威に抗ってきた人類の姿を象徴しているかのようだ。ここはワクワクするシーンのひとつになるだろう。


 また、敷島が特攻で失った尊厳を取り戻すために、どんな行動を取るのかに注目していただきたい。その決定に一躍買ったとある人物の行動は、優しくて人間味にあふれている。山崎監督の作品に初めて触れたのだが、これがヒューマニズムというものなのだろう。

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