「The Innocents (イノセンツ)」2021)

 タイトルの通り、イノセント=無垢な少年少女を主人公にしたノルウェー映画である。まさにこのタイトルどおりの映画だ。無垢さとは善悪の区別がついていない状態をいう。猫の背中をなでて愛でることもするが、同じ手で猫を殺害することもしてしまう無垢さのことである。

 無垢な年齢の少年少女たちが、人を操ったり、ものを破壊したり、人の思考を読む能力に目覚めてしまうことから、静かな団地に火種が宿る。思考能力も情動もまだ育ちきっていない少年少女たちにそんな恐ろしい能力が芽生えてしまったら……?

 本作は、大友克洋の『童夢』に強い影響を受けているらしく、オマージュを捧げたシーンがあるらしい。また、冒頭の団地に引っ越してくるシーンは『千と千尋の神隠し』よく似ている。日本のソフトパワーの底力を感じてしまう。


 団地に引っ越してきた9歳の少女のイーダ。自閉症の姉アナ。両親は、援助を必要とするアナの方にばかり両親がかまってしまうので、イーダは常に寂しがっている状態だ。

 団地のベンという少年とイーダは仲良くなる。イーダはベンとさまざまないたずらをするのだが、その中でベンはイーダに念動力テレキネシスを披露してみせる。イーダも念動力を真似しようとする。

 一方で、姉のアナは少女のアイシャと仲良くなる。アイシャも超能力の持ち主であり、強い共感能力テレパシーを持っている。他人とコミュニケーションの取れないアナの心をよく理解し、一緒に遊んでよろこばせる。四人は仲良くなる。

 そんな中、四人の関係にヒビが入ってしまう。悪口を言われて怒ったベンが念動力を発揮してアイシャを傷つけたのだ。アナはベンに対して強い念動力を発揮し、二人の超能力が暴走する。きしみを上げる森の木々。波打つ水たまりの水面……。この事件を機に、平穏だった団地は静かな恐怖に襲われてしまう……。


 超能力を扱った映画は数多くあるが、本作での超能力の登場は劇的ではなく、少年少女にとって「なんでもないこと」のひとつとして描かれる。ある程度常識が出てくれば、超能力など絵空事でしかないと分かるはずだが、イノセントな少年少女にはそれが分からない。分からないが使えてしまう。分からないがゆえに感情の赴くままに使ってしまう。

 無力な子どもであれば、大人たちのいうことを聞くしかなくなるが、超能力をもった子どもならどんなことが起きてしまうのか。子どもを縛ろうとする親はどうなってしまうのか。そして超能力を持った子ども同士が対立したとき、何が起こってしまうのか……。

 終始リアルなトーンを崩さず、静かに静かに日常が侵食されていく。子どもたちの無邪気さを壊すことなく、善悪の区別がつかないとはどういうことなのかを教えてくれる。引いては、大人の起こす犯罪についても、ある種のイノセントさが関係しているのではないかということを考えさせてくれるのである。

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