きまず~いドライブ
昼と夜では外の雰囲気が一気に変化する。
真っ暗な窓の外では建物や街灯の光がやけに目立つ。
ビュンと光の線を作って対向車が去って行く。
物音もすれ違う車の音ばかりで、妙に静かだ。
運転席に正也を、助手席に金森を乗せた車内ではラジオも音楽もかけていないため、酷く沈黙が目立つ。
『せめて、後部座席に乗ればよかったかも。でも、どうぞって助手席のドアを開けられたら避けられないって』
よく知らない他人と二人きりで車に乗るのは結構キツイ。
しかも友人の兄であり独特な間合いを持つ正也が同乗者なので、気まずさもひとしおだ。
だが、無音が痛いからといって中途半端に話しかけ、会話が弾まなかった挙句に再び沈黙が作られるのが一番辛いだろう。
金森は密かに腹を痛めた。
「俺の顔を見つめて、どうしたんだ? 金森響さん」
横目で金森の方を見たのか、あるいは人の視線に敏感な質なのか。
ずっとフロントガラスの方を見つめていた正也だが、金森の何とも言えない視線に気がついていたらしく、正面を向いたまま問いかけた。
「えっと、赤崎のお兄さん? お兄さん? は、赤崎に似てるなぁ、と」
適当に出した言葉だったが、実際、赤崎と正也は似ている。
よく見れば異なった顔立ちをしているが、キュッと口を結んだ時の真面目そうな表情や横顔、静かな雰囲気がそっくりだ。
また、どこか変わった性格をしているところも兄弟そろってソックリである。
まあ、正也の方は天然であり、赤崎の方は八割ほどが中二病によるキャラ付けという違いはあるが。
「ふむ、兄弟だからな。似るさ。それにしても、赤崎のお兄さん……ああ、そうか、名乗っていなかったからか。俺は赤崎正也だ。なんと呼んでくれても構わないが、お兄さんという響きは悪くないな。お兄ちゃんでもいい。ふむ、お兄ちゃん? 結構いいな。よし、家族になろう。妹として迎え入れるよ」
シレッと、とんでもないことを言ってくれる。
だが、正也の表情には相変わらず無の感情しか浮かんでおらず、冗談か本気かの判別が一切つけられない。
「え!? えっと、冗談ですよね?」
そういうの良くないですよ、アハハ~、と愛想笑いを浮かべる金森に対し、正也は急にキリッとした目つきになり、
「割と本気だ。家族になろう」
と、再度繰り返す。
ここだけ聞けば、女子高生を車内という密閉空間に閉じ込めて口説き落とそうとしている危険な大人だ。
防犯ブザーと催涙スプレーが必須である。
「ええ……」
なんとも反応しがたい言葉に金森はすっかり困り果ててしまったが、正也の方は決して真剣な雰囲気を崩さない。
「俺には恋人がいないから、よく分からないが、恋人は人を幸せにすると聞いた。あんなに楽しそうな怜の声を聞いたのは久しぶりで、怜は金森響さんのことを好きなんだと思った。それで、金森響さんも怜のことを好きなら、凄く幸せな事だと思う」
確かに赤崎は金森に対して明らかに好意を持っている。
まあ、それが恋愛的なものであるのか、あるいは友愛的なものであるのかについては、議論の余地があるが。
「反応に困ります」
金森が素直に感想を口にすれば、
「そうか、すまない」
と、正也はあっさり謝罪をした。
『何かなぁ。悪い人じゃないんだけど、とにかく変な人だ』
この会話を最後に二人は何となく口を噤み、金森はボーッと窓の外を眺めて時を過ごした。
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