部屋荒らし
何やら不穏な物音がする。
ビリビリと布が裂かれる音や何かがドタドタと辺りを駆け回るような音だ。
嫌な予感と共に赤崎怜は目を覚ました。
カーテンの隙間から零れる強烈な朝日を頼りに室内を確認する。
すると、赤崎お気に入りのモッチリふわふわなクッションの上に堂々と寝転がり、細長いクッションを前足でしっかりとホールドして後ろ足で蹴りまくっているブラッドナイトが見えた。
ひたすら噛まれ、蹴り続けられた影響か、昨日までは新品だったはずの四角いクッションは薄汚れてボロボロになり、いくつも穴が開いていた。
また、大きく破れた個所からは大胆に綿がはみ出しており、クッションは元の形状を失っていた。
加えて、室内では千切られた紙やティッシュペーパーが散乱しており、床には本棚から突き落とされたマンガやライトノベル、参考書が空しく横たわっている。
だが、綺麗に整理整頓された部屋を荒らし、現在のような惨状を作り上げた張本人であるブラッドナイトは、一切の反省が感じられないキラキラとした丸い瞳でクッションだったものを見つめ、牙と後ろ足でいたぶり続けた。
まるで小さな悪魔だ。
なお、ブラッドナイトは好奇心たっぷりに動く髭や丸い猫目、三角のふわふわとした耳を持っているが、同時に「赤」という奇抜な色合いをした毛皮も持っており、背中から蝙蝠の羽を生やしたりもしていることから、猫と言い切るには不安の残る姿をしている。
それもそのはず。
ブラッドナイトは猫に酷似しているが、猫ではない。
マボロシというなんとも形容しがたい不思議な存在であり、特殊能力を持つ清川により「赤崎の相棒」として確立された存在だ。
存在を定義づけられてからは基本的に赤崎と行動を共にしており、気まぐれにパトロールや生活をサポートしている。
また、ブラッドナイトのようなマボロシやナリカケは、赤崎や金森響のような一部の人間しか見ることができない。
そのため、賃貸であり動物の飼育が禁止されている赤崎のアパートでも、こっそり住まわせることができた。
加えて、ブラッドナイトの本質は猫ではないため、猫以上の優れた思考能力を持っており、人間を相手にするようなスムーズな意思疎通が可能だ。
睡眠を愛する気まぐれな性格をしており、行動や思考も猫と被ることがあるため、実際の猫とどこまで異なる存在であるのかを考えるには限界があるが、少なくとも一般の猫よりはるかに賢く、聞き分けが良いことは確かだ。
家に来たばかりの頃は、それこそ借りた猫のように大人しく赤崎の部屋で生活を送っていたし、現在も家が賃貸であることを考慮して壁や床、備え付けの家具などには決して手を出さない。
アパートの住人どころか赤崎の兄にすら存在を疑われていないのは、全てブラッドナイトの器用さと配慮の賜物である。
そして、その代わりに赤崎から与えられたクッションなどの玩具をズタボロにし、部屋を荒らし、夜中は眠っている彼の腹をトランポリンのように使って遊ぶことで日頃のストレスを発散しているのだ。
いくら可愛い相棒とはいえ、あまりに暴れられては赤崎の身がもたない。
「ブラッドナイト、お前はまた……ああ! だからそれを止めろと!!」
見慣れた惨状を眺める赤崎は気だるげに頭を掻きながら大あくびをしていたのだが、ブラッドナイトが細いクッションをくわえて部屋中を駆け回り始めたのを見て、慌ててベッドから飛び出した。
クッションをくわえたまま自分を捕まえようとしてくる赤崎の肩に飛び乗って、スルリと棚の上にも乗り、ブンブンと首を振る。
「ニャー!!!」
綿まみれになった部屋で、やってやったぞ! と言わんばかりに勝どきを上げるブラッドナイトを見て、赤崎は膝から崩れ落ちた。
ここ最近、赤崎の朝は騒がしい。
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