怪しい警察官

 例の日以降、金森の日々は平凡そのものへと戻った。

 九月というものは、中間テストや体育祭といった大きなイベントが押し込まれた十月に備えるための休息の期間であり、基本的に暇な月だ。

 放課後は相変わらず清川や赤崎たちと共に過ごし、定期的に博士の自宅へ遊びに行ったりバイトに勤しんだりしている。

 困ったことと言えば、赤崎が「心霊スポット巡り」と「幻想世界の二層目探検」の二択を迫ってくることだが、強気な金森が、

「絶対に行かないわよ! 特に心霊スポットは駄目!!」

 と、キッパリ拒否しているから問題が無い。

 多分……

 ともかく、金森は今まで通りの平和なのんびりライフを送って来た。

 そのため、家に警察が張っているなどあり得ないことなのだ。

 絶対に。

 そうだというのに、帰宅する金森の家の前には暑苦しい長袖の制服を着た警官らしき男性が立っていて、たまに辺りを見回していた。

『は!? 警察!? 何よアレ! 私、悪い事なんかしてないし被害者にもなってませんけど!?』

 近所で事故や事件が起こって警察が情報収集に来るというのは、あり得ない話ではないかもしれない。

 だが、警察の仕事というものは激務なのだ。

 重要参考人ならばともかく、少し話を聞きたい程度の一般市民Aに割く時間など持ち合わせてはいない。

 留守だったのならば一度引き返して改めて家にやって来るか、あるいは他の住民に聞き込みをして終わりだろう。

 それに、金森の記憶違いでなければ彼女の母親は本日、特に予定を入れていない。

 急な買い物にでも出ていない限り家にいるはずなのだ。

 そうであるのにもかかわらず金森の家の前で張っているということは、確実に警察官は「金森響」に用があるのだろう。

 意外と小心者な金森の腹が痛む。

 しかし、だからと言ってまごついているわけにもいかない。

『私にはやましい所なんか一つも無いんだから堂々とすりゃ良いのよ! むしろ、あんなに堂々と居座られちゃ迷惑だわ!』

 警察には、ご近所さんの目という概念が存在しないのだろうか。

 ただでさえ近くには性格の悪いご婦人と老人が住んでいるのだ。

 このまま放置を擦れば確実に金森は近所から非行少年扱いされる。

 自分自身が嫌な気分を味わうのもそうだが、母親が嫌味を言われている姿を想像するとジクジクと胸が痛んだ。

 そして同時に沸々と怒りが湧いた。

 フンと胸を張り、腹に力を込めて警察の元へ向かう。

「こんにちは」

 金森がニコリと笑って声をかけると、警官の男性も彼女の方を振り返ってニコリと笑う。

 帽子で隠れてしまってよく見えないが、髪は艶やかな黒で瞳も綺麗な黒に染まっている。

 年齢は三十手前といったところだろうか。

 鍛えているらしく筋肉の多いガッシリとした体つきをしているが、温和な笑顔や何故かこぢんまりとして見える体つきのおかげで、第一印象はクマではなく優しいお兄さんだ。

 教育番組で子どもたちと一緒に歌って踊りそうな好青年ぶりである。

『なんだろう。初めて会った人なのに誰かに似てるというか、妙な既視感が……』

 脳の隅と心臓がモヤつくが違和感の正体は不明だ。

 デジャブのようなものを感じて金森はコテンと首を傾げた。

『まあ、でも、気のせいかもね。最近デジャブというか既視感を覚えることが多かったから、それで脳がバグってるんだわ』

 一人で苦笑いを浮かべていると、警官が名刺代わりに素早く警察手帳を開いて見せた。

「僕は警官の灰田次郎です。金森響さんですよね。少しお伺いしたいことがありまして、家に入れてもらえませんか?」

 灰田は声が大きく身長も高い。

 そもそも制服をキッチリときた警官という存在そのものが周囲から浮きやすく目立ちやすい。

 そんな彼が大きな声で金森に話しかけ、おまけに警察手帳まで見せれば一気にご近所さんからの衆目を浴びることになる。

 人目を気にしていた金森にとっては結構キツイ。

 窓から人が見ている気がしてじっとりと背中が脂汗に塗れた。

『コイツ、狙ったわね』

 おそらく、近所迷惑や衆目を浴びることを恐れ、テンパった金森が家の中へ招き入れることを狙って警察手帳を見せつけ、わざと大声を出したのだろう。

 一度でも焦って相手の要求をのめば、その後の会話の主導権も相手に握られることになる。

 やってくれたものだ。

 温和で真面目そうな姿の灰田は嫌に威圧的なだ。

 飴と鞭をいっぺんに使って惑わすような得体のしれない雰囲気を醸し出している。

『嫌な感じがするわね。裏があるような、人の中身を覗き込んでねっとり分析するようなイヤらしさがある。亜矢さんくらい胡散臭いのよ。まあ、亜矢さんは本当は良い人っぽいけど。でも、コイツは信用しない方が良いわね。本当に警察かすら分からないわけだし』

 普段パニックを起こしがちで何かあるとすぐに赤崎を頼る金森だが、一人きりで逆境に立たされた時は意外と冷静だ。

 変わらず背中に流れる汗で体温を冷やし、熱くなる脳を落ち着かせる。

 灰田の瞳をじっと見つめたが、帽子の日陰で隠されている上にニコニコと細まっていて、よく見えなかった。

 余裕の笑みを浮かべて手帳を見せつけ続ける灰田に金森は心の中で思い切り舌打ちをする。

「嫌です。ここじゃ聞けない話なんですか? それに、私たち一般市民からしたら警察手帳なんて見せられても本物か分かりませんし。そんな風にして家に入りたがるって、お兄さん詐欺師か強盗なんですか? 胡散臭い人間は家には入れられません。帰ってください」

 高校生など、まだまだ世間知らずだ。

 普段、金森なんかよりもずっとシッカリしている子ですら圧倒的な権力を前に混乱せずにはいられないだろう。

 警察どころか大人に威圧的に出られたら怯えてしまう。

 そのため、灰田は金森に強い言葉で断られることなど想像すらしていなかった。

 毅然とした金森の態度に灰田が目を丸くする。

「えっと、でも、家に入れて欲しいんだけれど」

「駄目です。せめて要件を話してください」

 警戒心を隠さぬ瞳でキッと睨みつければ、手帳をひけらかしたままで、

「でも、響さんだって困らない? 警察と家の前で話すの嫌じゃないの?」

 と、苦笑いを浮かべている。

 灰田の威圧的な態度は薄くて安価な金メッキだ。

 たじろいで素を見せれば、そこから一気に剥がれ落ちてボロボロになる。

 困ったようにヘラヘラと笑う灰田を金森は鼻で笑った。

「コレのおかげで私はどうしたって目立つんです。しょうもない悪評が立つことにもなれちゃいましたから平気ですよ」

 金森が摘まみ上げるのは彼女自身の金髪だ。

 色鮮やかな金ではなく少しくすんだ金なので光の当たり方によっては茶髪に見えることもあるが、それでも金髪は金髪だ。

 小、中学校ではもちろん高校でも目立って仕方がない金森の金髪に、やれ不良だ校則違反だと陰口を叩く者が少なくなかった。

 何なら赤崎も金森の金髪に威嚇され、なかなか話しかけられずにモジモジした挙句、睨まれて涙目になった生徒の一人だ。

 金森は髪の色や姿を理由に自分自身の人間性や素行を決めつけられることを酷く嫌う。

 悪評の一つや二つだって、本当はどうでもよくなんかない。

 決めつけられるたびにハラワタが煮えくり返りそうになってガッと吠え続けた。

 幼少期は何度もケンカをして、親や教師とも口論をした。

 しかし、だからと言って悪評を恐れ、灰田の言いなりになるのかというと、それはまた別の話だ。

 悪評もそうだが、金森が最も嫌うものは理不尽だ。

 近所から悪くみられることよりも、権力をひけらかす大人の言いなりになる方が嫌だった。

 家には絶対に入れてもらえないことを悟ったのだろう。

 何故か灰田の方がガックリと項垂れて、

「う、実は僕がどうでもよくなかったりするんだけれど、しょうがないか。それなら、ここで少し話を聞かせてほしいな」

 と、キョロキョロと瞳を泳がせている。

「まあ、良いですけど、手短にお願いしますね」

 気が強い金森は、幼少期は中々に生意気な子供として通っていたが、月日が経ち、年齢が上がるにつれて精神や態度も落ち着き始めていた。

 そのため、基本的に金森は無礼ではない。

 だが、そうであるにもかかわらず灰田に対して警戒心を露わにし、いっそふてぶてしいとまで思えるような態度をとり続けているのは、金森が全身鏡のような対応を心がけているからではない。

 未だに金森を丸め込もうと狙う灰田へ甘い態度を見せると、一気につけこまれてロクな目に遭わないということを肌で感じていたからだ。

 馬鹿にされると噛みつく金森だが、彼女は自身の頭が別に良くないこともお人好しである事も自覚している。

 だからこそ、一度でも本気で危険だと感じた人物は、その人物が信用に値する者だと確信するまでは絶対に警戒を解かない。

 言葉一つを選ぶのにだって普段の彼女では考えられないほど慎重になる。

 灰田が会話の主導権を握ろうと隙を伺うように、金森の方も隙あらば会話を打ち切って追い返してやろうと考えていた。

 それが、決して頭の良くない金森にとれる最大の防御だった。

「そんなに疑わなくてもいいのに。でも、一警察官としては高校生が警戒心を持って大人に接することができるって言うのは喜ぶべきなのかな?」

 金森は相槌の一つも打たない。

 巣穴に引っ込んで暗がりから外を睨む獣のような態度に灰田が苦笑を溢した。

「響さんは鈴木律っていう、君くらいの年齢の姿をした女の子を知っているかい? こう、頭に巻き角が生えている、女子高生や綺麗なお姉さんが大好きな……」

 灰田が身振り手振りを使って鈴木の特徴を述べる。

 内容はかなり詳細で、明らかに鈴木と接したことがあるような様子だった。

『律は警察の幻想世界対策課ってところに所属してるって言ってたわね。それなら、律の話を聞いてウチに来たのかしら?』

 赤崎や博士、そして自分自身など、金森の身の回りにはマボロシを認識し、幻想世界にかかわることができる者が集まっている。

 そのため、十人いれば一人くらいは……といったように能力者を身近な存在に感じがちだが、実際に中学生以上で強い能力を持っている者は一万人に一人もいない。

 本来、金森たちは非常に稀有な存在なのだ。

 カクリツやマボロシについて問いたいのであれば、「金森響」に執着したのも分からないではない。

 しかし、それでも金森のとった行動は無視だった。

 鈴木律を知っているか否か。

 肯定も否定もせずに腕を組んでジッと灰田を見つめる。

 彼女の冷ややかな瞳が、

「で、要件は?」

 と、鋭く問うていた。

「相槌くらい打ってくれてもいいのに……分かったよ。要件は鈴木律の協力者についてだ。彼女の仕事内容は知っているだろう?」

 鈴木律は人間とカクリツのハーフだ。

 うっかり幻想世界に迷い込んだ導き手の男性がカクリツの女性に一目惚れし、紆余曲折あって結ばれた後に生まれたのが鈴木である。

 寿命や生活の関係から父親がカクリツに転じたのは鈴木が生まれた後の事だ。

 そのため、律はカクリツと人間の血を両方ずつ持っている。

 血の濃さには個人差があるが、大抵の場合はカクリツの血の方が濃く、鈴木のように人外じみた姿をしていることが多い。

 加えて、カクリツやハーフが幻想世界へ赴くためには「導き手」に類似した別の能力「来訪者」が必要になる。

 人間にも幻想世界の住人にも一定数「導き手」の能力を持つ者はいるが、「来訪者」を持つ者はかなり珍しい。

 また、仮に現実世界へ行けたとしても案内や生活の手助けをしてくれる者が欠如しているため、基本的にハーフはカクリツ同様、幻想世界で生活している。

 だが、ハーフたちの中には親の影響で現実世界に憧れ、強い興味を抱く者が少なくない。

 鈴木なんかも父親の話と彼が持ち込んだ数冊の漫画、加えて幻想世界内で流通している現実世界がモチーフの漫画等を読んで憧れ、可能であれば現実世界で暮らしてみたいと考えていた。

 現実世界に住む者が異世界に夢を見るようなノリである。

 この現実世界に親しみを持っていて人間に友好的なカクリツ、あるいはハーフというものが警察にとってはかなり役立つ。

 何せ、人間にとっては幻想世界に関わる全ての事柄が未知であるのに対して、市民が幻想世界に紛れ込んでしまう神隠し事件やマボロシ、カクリツが関わるカルト的な犯罪などが結構あるのだ。

 幻想世界について詳しく、向こうで自由に行動できる存在が喉から手が出るほどに欲しかった。

 そのため、警察は一部のハーフやカクリツに警察官よりは少なくなるが給与を渡し、彼らの素行次第では現実世界でも生活できるよう調整することを約束して協力を要請している。

 鈴木が『幻想世界対策課』に所属しているのには、このような裏話があったのだ。

 さて、そんな鈴木の仕事は状況に応じて変化するため、細かな業務内容は多岐に渡るが、実際に主な仕事として行っているのは幻想世界に迷い込んだ人間の保護及び帰還の手助けと幽霊の成仏の補助、そしてバケモノ化した悪霊の駆除だ。

 鈴木は導き手ではないため迷子の帰還は警察の職員を通して行っていた。

 しかし、十数前に鈴木は幻想世界で協力者を手に入れたらしく、迷子を海辺の洞窟の前から帰すようになっていた。

「僕は、その協力者が何者であるのかを知りたいんだ。律ちゃんを通しての間接的な関係とはいえ、警察が関わる以上、素性はシッカリと把握しておかなくちゃいけないから。迷子として律ちゃんに助けられた金森さんなら協力者を見たよね。どんな人だったのか教えて欲しいんだけれど」

 困ったように頬を掻いて人当たりの良い笑顔を浮かべた。

 灰田の言葉自体は筋が通っている。

 市民の安全が大きく関わる事柄だ。

 協力者が信用にたる人物であるのか、警察はきちんと把握する義務がある。

 だが、それでも、彼の言葉には疑いの余地があった。

「お兄さん、隠してることがありますよね」

 ギロリと睨みがちになって問えば、「えっ?」と鈴木が言葉を詰まらせた。

「律が協力者を見つけたのは十年以上前の話です。律はセクハラが大好きな変態ですが、仕事自体はキチンとしている。あの子が協力者の話を警察にしていない訳が無いし、人間の受け渡しの関係でも協力者の存在を隠し通せる訳が無いんです。それなのに何年も協力者の素性を把握していないだなんて、ある訳が無いでしょう。怠慢にもほどがあります。それに、もしも協力者について把握していなかったとしても私じゃなくて律に聞けばいいんです。それをわざわざ私の所に来て聞くって、おかしな話ですよね」

 長文を話す口内はカラカラに乾いている。

 形の無い違和感を言葉にして具現化すれば余計に灰田が怪しくて堪らなくなり、人の姿をした得体のしれない化け物のように感じて恐怖を感じた。

 博士、という単語や彼の特徴を最小限言わぬように気をつけながら鈍い脳を回し、慎重に発言する。

 ガサツな金森には結構キツイ精細な作業だ。

 かなり疲れて冷や汗がダラダラと流れたが、震えそうな足をしっかりと大地に押し付けて両手を握り締めた。

「お兄さんは律に協力者を明かしてもらえない立場にあるか、協力者について後ろめたいことがあるはずです。だから私の所に来て、それっぽい言葉を並べ立てたんでしょう。ですが、律が教えなかったことを私が教えるわけにはいきません。それしか要件がないならば帰ってください。警察を呼びますよ」

 金森は声が大きく度胸がある。

 この場で大声を出して叫ぶことも可能だった。

 ポケットに忍ばせたスマートフォンのアラームを大音量で流して威嚇しようと試みていると、灰田が「僕は本当に警察なんだけどな……」と苦笑いを浮かべる。

「あ~あ、参ったなぁ。そっか、そうだよね。うん。はぁ……女の子は、もうちょっとおバカな方が愛嬌があると思うけどな」

「お兄さん、最低ですね」

 睨む瞳に侮蔑を込めて低い声で唸るように言えば、灰田は小さくため息を吐く。

「悪かったよ。ムシャクシャして言ったのは、そうだ。はぁ……」

 何度も溜息を吐く灰田からは幸せが逃げたい放題している。

 心なしか背中にも負のオーラを背負っているのだが、何故か同情する気にはなれなかった。

「協力者のことは、ごく個人的な理由で調べてるんだ。僕も『幻想世界対策課』なのに全然情報を教えてもらえないし、律君や佐倉さんにも『協力者が嫌がってるんで』って言われちゃったからさ」

 観念したらしい灰田が薄く笑えば、金森が、

「お兄さん、最低ですね」

 と、間髪入れずに吐き捨てる。

「分かっているから二度も言わないでくれよ! 傷つくなぁ」

 大袈裟にガックリと項垂れた灰田は下から金森を覗き込んでヘラヘラと笑っている。

「そうは見えませんけど」

「大人は隠すのが上手いんだよ。じゃあね。あ~あ、制服も手帳も私的に使っちゃったから、絶対怒られるよ」

 自身の目的が達成されないと分かった以上、金森は用済みだ。

 少し前まではテコでも動かない雰囲気を醸し出していた灰田だが、アッサリと彼女に背を向けるとサクサクと歩き出した。

『私的利用って、それ、怒られるだけじゃすまないんじゃないの? まあ、どうでもいいけど。それにしても疲れたわね、すっごく眠い……けど、忘れないうちにやっとかないといけないわよね』

 金森はポケットからスマートフォンを取り出すと、メッセージアプリ「MOTIN」を起動させて赤崎、清川とのグループトークを引っ張り出した。

『さっき、博士について嗅ぎ回る警官を名乗る不審者がウチにきたから、赤崎も藍も気をつけてね。博士について教えないのもそうだし、なんか胡散臭い嫌なやつだったから、見かけたらスルーして逃げるくらいでいいと思う』

 今日も清川は博士の元へ赴いているのだろう。

 幻想世界では電波が通じないので彼女からの既読や返信はない。

 その代わり、通知が届いた瞬間に既読をつけ、爆速で返信を送る万年ボッチの寂しがり屋こと赤崎が数分と待たずして既読をつけた。

『博士について嗅ぎ回る人物だと!? そいつの背格好はどんなだった? 名前は? いや、名前は偽名かもしれんがな。やはり博士や幻想世界をめぐる大抗争が』

 ありえないほどの長文がダラダラと続いている。

 金森は思わず舌打ちをした。

 やはり、幻想世界の二層目にはマフィアがいるとか、カルト的な団体が現実世界を支配しようと目論んで実現性の薄い会議を開いているとか、黄金に輝く巨大魚がヌシとして君臨している池があるだとかいった情報を与えられたのが良くなかったのだろう。

 博士の家に遊びに行くと高確率で暇を持て余した鈴木が合流するのだが、彼女から幻想世界の二層目について詳しく聞いて以来、赤崎はずっとこの調子なのだ。

 ただでさえ妄想でお祭り騒ぎな赤崎の脳内が更なるフィーバー状態に突入した。

 金森はスクロールで妄想を一気に飛ばし、

『うるさい! いいから、とにかく気を付けてってだけ! なんか人当たりの良さそうな日本人男性よ。見れば分かる! それに、アイツが話しかけてくる時は律の協力者の話題を持って来るから』

 とだけ送りつけ、スマートフォンを閉じた。

 誤字脱字がいっぱいの長文妄想劇で金森のスマートフォンが激しく通知を鳴り散らかす。

 金森は無言で電源を切るとグッタリして家に帰り、リビングの畳に寝転がって、そのまま眠った。

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