ゲームスタート⑨

 闘技(特殊中ボス戦)に際し、勇者は固定。パーティーから1人相棒を選ぶ。回復魔法で援護を任せてもいいだろうし、直接攻撃に特化しても面白い。注意が必要なのは商人と盗賊。闘技に勝利した際に相手がルナを落とすことはないので、味方に商人がいてもルナが増えることはない。またアルカレスト王、アルベルト王共にアイテムを盗むことはできない。従って商人や盗賊を相棒にしても旨みはない。また闘技と言ってもイベント上そうなっているだけ。2対2で戦うということ以外、ルールは通常戦闘と同じ。要らぬ実況がつくことぐらいだろうか。

 今回の勇者は、相棒に僧侶を選んだ。勇者が攻撃に専念し、僧侶が回復を担当するという図式を思い描いているようだ。加えてダメージが大きければ道具に頼ったり、勇者も回復魔法を唱えることができる。攻撃面以上にガードに重きを置いた選抜と言える。対する王様コンビであるが、守備能力にたけた兄のアルカレスト、攻撃特化型の弟アルベルト。攻守の役割がはっきりしている点は両陣営共通だが、実際闘技に突入するとそのスタイルの違いに、闘技場は一層の盛り上がりを見せるのだった。

 「まずは東門よりアルカレスト、アルベルトの入場でーーーす!」

継承は略さない方がいいのでは、という突っ込みを一息で吹き飛ばしそうな大歓声が闘技場を超えて、国中を覆いつくした。この一体感はどこから生まれるのかと思ったら、なんとこの闘技の為に戦争は一時休戦だという。アルカレスト、アルベルト両王、民から大きな信頼を得ている。支持率なんて9割超え。度が過ぎて危険領域であるということは置いておいて、闘技一戦を理由に休戦できるのならば、戦争なんぞやめてしまえばいいのに。自然と込み上げてくる感情は、それができれば苦労しないの一言で駆逐されてしまう。それとこれとは別の様だ。また観客席も特にアルカレスト側とアルベルト側に区分けされてはいなかった。本当に戦争中か疑いたくなる光景だった。

 続いて西門より、勇者と僧侶の入場だ。すると2人の姿が見えた途端、容赦ない罵声が浴びせられた。勇者達にとっては完全にアウェイの環境。どう見ても仲良しだろうというくらいに会場が一体になっていた。その輪に加われば老若男女、国籍問わず盛り上がること請け合いだ。実況者含め、全てが勇者達の敵だった。

 特殊な中ボス戦の開始。漆黒の剣を装備する弟、アルベルトが主に攻撃を担当する。武器の威力も然ることながら、使い手自身も実力者である。生っ粋の剣士タイプで魔法を唱えることはできないが、通常攻撃に加えて固有アビリティである『亜流剣技』を使ってくる。アルベルトの剣技は2種類で、『絡(から)め手(て)』と『勇(いさ)み足(あし)』。どちらも攻撃力を大幅アップさせるような必殺技ではないが、前者は攻撃と同時に対象の素早さをダウンさせる。もう1つは、そのターンの行動順を最後にする代わりに次のターンの行動順をトップに持ってくる特殊技。剣技ではない気もするが、使い方によって、場面によってはなかなか重宝する技である。別に攻撃をしなくてもいいのだ。敵の攻撃を受け切った後で回復アイテムを使い、次のターンに真っ先に攻撃する、なんて作戦もありだ。

 一方の兄アルカレストは守備が専門だ。攻撃力はアルベルトより数段落ちるが、アビリティ『無色盾(むしきだて)』に加えて回復魔法も唱えることができた。ただし如何せん、このアビリティは多数の敵を相手にする場面でこそ真価を発揮する。さらに発動条件や効果が他のアビリティと比べて特徴的。ツボにはまった時にはその恩恵を満喫できる一方で、相性が悪いとなかなか効果が目に見えない。

 『赤盾』は自分の防御力を50パーセントダウンさせて敵全体へ攻撃可能。『黒盾』は自分の防御力を50パーセントアップさせ、敵の全ての攻撃を自分に向けさせる。そして『白盾』。50パーセントの確率で敵の攻撃を自分に向けさせ、受けたダメージの30パーセントの確率で受けたダメージを回復する。訊いているだけでもややこしいが、実際の戦闘画面で効果が連続で発動すると、もう何がどうなっているのかさっぱりということも多々ある。

 ちなみに、これらの特技は老いた2人が現在も使用可能な特技だということを追記しておく。現役時代であればさらに多様で高度な特技を繰り出し、世界を駆け回っていた。強かった。どうしてこんなに細々(こまごま)と、王様とは言え中ボスの技の説明を、と疑問に思うかもしれない。そして勘の働くものならもしやと気付いているだろう。その通り。アルカレストの特技『無色盾』と、アルベルトの特技である『亜流剣技』は引き継ぐことができる。どうやって?その条件はもちろん、闘技に勝利すること。


 老いてなおその力、衰えを知らず―とは、さすがにいかない。アルカレストとアルベルトが世界を飛び回っていたのは30年近くも昔の話。今だに剣を握っているのが不思議である。そして力も技も俊敏性も、現役時代のそれは見る影もない。時の流れには逆らえないという現実。そしてそれでも強いという真実。

 先手を取った勇者が斬りかかり、それをアルカレストがきっちりと盾で受け止めた。ダメージはあるが、些細なモノ。続いて僧侶の行動順だが、防御姿勢で様子を伺う。慎重な立ち上がりを選んだ。静かな闘技開始。水を打ったように会場も釈然としているのは、やはりアウェイの辛い所である。まだ罵声を浴びせられない分、ましではあるが。そんな闘技場がアルベルトの攻撃で一変する。勇者に一閃、僧侶に一太刀。まさかの2回攻撃だった。一撃の攻撃力はそれ程でもないが、いささか面倒な展開になっていた。アルベルトが攻撃すれば2人共にダメージを受ける可能性が高い。回復のタイミングを間違えられない・・・という風に身構える場面だろうか。

 続いてのアルカレストは大歓声の中、防御姿勢のまま動かなかった。様子見か、それともやることがなかったのか。

「どうじゃアルベルト。手応えは?」

「我ながら貧弱な剣撃で情けない限りです。多少はどうにかなるものと踏んでいたのですが、もはや剣が重くて扱えません。剣に振り回されている感すらあります。標的を勇者に絞ります。」

「あい、分かった。背中は預けよ。」

2人の会話から、かつて共に戦った経験があること、そして今なお仲の良い兄弟であるということが推測できた。

「兄者。魔法はまだ唱えられるのですか?」

「回復魔法ならば少々。」

「相も変わらず器用貧乏のご様子で。」

「ふむ、否定はせぬよ。」

「あまりご無理なさらぬよう。」

「お主もな。」

2ターン目、開始。

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