ためるな、危険④


 新大陸の港町『ベルクライフ』。初めてこの地を訪れた勇者達は、思わず心を奪われてしまうという。戦場(いくさば)からまるで天国に送られてきたかのように。鬱金光(うつこんこう)という釣鐘型をした赤、白、黄の花が冒険者達を迎えてくれるのだ。歩道沿いに、お店の入口に、公園の花壇に、民家の庭に窓に、可愛らしい花々が揺れていた。さらには綺麗な花売りまで歩いている。勇者が購入した所でステータスが上がる訳でもなく、道具欄がひとつ埋まるだけなのだが、一輪くらい持っていても罰は当たらないだろう。花売りも「お花はいかがですか」と勧めてくれる。気候は穏やか、吹く風は肌に心地良い。石造りの歩道に、建築物はそのほとんどが木造。戦いとかモンスターとか、武器とは防具等とは無縁なのではと思わせる、平穏な港町だった。

 港町ベルクライフの役割は拠点であり、中継地点。ベルクライフから大賢者の待つシャビエスタ山までの道のりは長く険しい。中程度の広さを誇る洞窟を2つ連続で突破した先にシャビエスタ山があり、大賢者に会う為にはさらにその山を踏破しなくてはならない。ポイントは連続ということ。シャビエスタ山も含めて合計3つのダンジョンをクリアしなくてはならない。1つ目の洞窟を抜けるとすぐ目の前に第2の洞窟があり、さらにそこを抜けた先にシャビエスタ山がそびえたっているのだ。道中、村や町は愚か、宿屋もなし。難易度を高くしている原因はここだ。回復手段がない。正確に言えば、マジックポイントの回復ができないのだ。進むか引き返すかは勇者の決断次第である。ここに到達するレベルのパーティーであれば、少なくとも勇者が転送魔法を唱えられるはずなので、その分のMPさえ切らさなければ安全かつ瞬時に引き返すことは可能。ベルクライフでアイテムや装備など、細心の準備が要求される。

 ちなみにベルクライフにカジノや闘技場といった娯楽施設はない。憩いの場は情報収集の場も兼ねる酒場だけ。アルカレストやアルベルトと比べて人口はうんと少なく、落ち着いた雰囲気を持つ田舎町。平和という言葉がしっくりくる港町であった。残念ながら劇的なステータスあプを望める装備品は売っていないが、その分道具屋の品揃えは期待ができる。回復アイテムを中心に、初めて目にするものもあるはずだ。ちなみにこの世界の特徴のひとつとして挙げられるのが、マジックポイントの重要性。MPの回復手段が少ないのだ。宿屋で休めば全回復するが、ここでベルクライフでもMPを回復するアイテムは売っていない。その代わりにはならないが、ヒットポイントの回復や、戦闘中に使用することで様々な効果を得られるアイテムに目移りするだろう。中でも道具屋の隅に置いてある『あんちょこ』は、この後のダンジョンで意外な活躍を見せるかもしれない。

 さて、品揃えに関してだが、ステータス異常を治すアイテムが一通り手に入る。毒、眠り、麻痺、沈黙に石化。毒なら『毒消し草』、眠りならば『目覚めの粉』というように、全ての状態異常に対応できるアイテムが揃っている。ただし残念なのは、それひとつで全てのステータス異常に対応できる『万能薬』の登場はもう少し先であること。ヒットポイントの回復アイテムもひとりのHPを30回復させる薬草だけではない(ここまでストーリーが進むと、もはや薬草の回復量では役に立たない)。回復量100の『高級薬草』。加えてベルクライフ店の目玉商品である『賢者の雫』。その効果はパーティー全員のHPを100回復してくれる。1個3000ルナと破格だが、戦闘中に回復が間に合わない時の切り札となろう。他にも一時的にステータスをアップさせたり、敵から確実に逃走できたり、エンカウント率を下げたりと、アイテム所持数制限とルナを睨みながら購入を検討するといい。

 僧侶やその上級職であるヒーラーであれば、低級範囲回復魔法を覚えている頃合い。ただしその消費MPは18。ヒーラーの最大マジックポイントが80から120程度だから、考えなしに乱発することはできない。解毒魔法も習得しているはずなので、魔法で治癒できるステータス異常は魔法で、ヒットポイントはアイテムで、というのも作戦のひとつだろう。他にも1度訪れたことのある街へ一瞬で戻れる『風見鶏の翼』があると、たとえマジックポイントを切らしてしまっても、ダンジョンのど真ん中でほぼ詰みという状況が避けられよう。ただし、ひねくれ大魔王が黙っているはずがない。適材適所と言えぬこともないが―『メイジシーフ』というモンスター。アイテムに加え、マジックポイントも盗みにくる嫌な敵である。

 シャビエスタ山へ向けた第一の関門が『アンリの洞窟』。これまでとは毛並みの違うダンジョンである。出口に中ボスはいない。その代わりに待つのは、ちょっとしたなぞなぞの様なもの。魔王の遊び心と言えば聞こえはいいが、間違えた代償は面倒くさい。

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