ためるな、危険③
この神父だけが強い訳ではなかった。原則、どこの教会の神父も尋常ではない強さを持つ。もっと言えば、神父だけではない。武器屋も防具屋も道具屋も宿屋の主人も、皆押し並べて高い戦闘能力を持っていた。勇者等が変な気を起こして金やアイテムを強奪しようとした所で、ちょっと鍛錬した位の勇者では返り討ちに遭うのがオチ。レベルで言えば50、60でも歯が立たないだろう。さらに、勇者一行のレベルが高くて互角、もしくは劣勢が予測される際には仲間を呼んだり、強力な装備を身に付けたり、幻獣を召喚したり、場合によってはマリア像が動き出したり。馬鹿が悪さをできないようになっていた。何でそんなに強いのかと言うと、それは敷地内のみで力の解放が許されているから。ま、元々強かったということもあるのだが。魔王はこのことを華に知らせていなかった。何故か。訊かれなかったからというのが事実で、華の探している人物の手掛かりとなってしまうから、というのが本音。
下界の遥か西北西に位置する絶島。そこに暮らすひとりの若者。正確にはそこで働く青年。名を如月 淳と言う。元々は道具屋を営んでいたがそこから武器屋、万事屋を経て、現在は運び屋として世界中を飛び回っていた。
如月が前任者から引き継いだ運び屋という仕事。その資格というか、仕事をする上で必要不可欠な能力は転送魔法。世界各地の武器や、防具や、道具屋から発注が寄せられる。各店舗は必要なモノと必要な数を運び屋に注文することで、勇者達に販売するアイテムを揃えていた。かつては如月も運び屋に発注をする側の人間だった。毎日、発注票に必要なモノと数を記入して商品を仕入れ、店内に陳列していた。空から降ってきて商品を収め、また飛んで去っていく。最初に見た時は目玉が飛び出るほど驚愕した如月だったが、今は彼がその職を引き継いでいた。
運び屋の暮らす島、クーザ―。一言で言えば、巨大な物流倉庫である。世界各地に点在する鍛冶屋、錬金術師から如月が仕入れた武器、防具、道具がこのクーザ―の倉庫に集められる。何ならカジノの景品も。物量で見れば各店舗の比ではない。そんな大量のアイテムがどうやって送られてくるかって?そんなの、転送陣を使うに決まっている。
運び屋、如月の1日は発注票の確認から始まる。各店舗から受け取った発注票に沿って、運ぶアイテムを揃えていく。物は倉庫に仰さんストックしてあるのだが、店舗に運ぶ際の転送陣はない。各店舗までの移動は転送魔法を唱え、運搬には馬車を使う。馬のいない荷馬車を。ごくごく普通の荷馬車。よって一度に運ぶことのできる分量は発注数やアイテムの嵩張り具合にもよるが、4、5店舗分がいい所。如月の回る店の数は30プラスアルファ。アルファは例えばカジノで、景品アイテムの注文が入ることがある。およそ3時間で配達業務は完了。午前中の内に済ましていしまい、お昼ご飯というのがお決まりの流れだった。
道具屋の商品は軽量で小さいモノがほとんど。例えば薬草や毒消し草。10個でも20個でもカゴに入れて片手で持ち運べるため、注意点としては数え間違いくらいだろう。落として割れるようなものが少ないというのも地味に有り難い。雑に取り扱うということではなくて、手元が狂った時でも大丈夫、気を遣う必要がないということが精神を和やかにしてくれるのだ。やはり力仕事となるのは武器と防具。銅の剣に鋼の鎧、鉄の盾・・・名前を訊くだけで両腕がぐんと重くなる。こいつらを倉庫から馬車に運ぶのは重労働だ。重いは場所を取るはで苦労する。
でたらめに積むだけでは碌々(ろくろく)たる運び屋に成り下がってしまう。村や町への移動は転送魔法を使って一瞬で済むのだが、荷馬車自体は普通の大きさ。如月のマジックポイントの都合もある為(如月はさしてMPの最大値が高くない)、徒に往復を繰り返すと底をついていしまう。何をどこに置けばたくさん積めるのか。どういう順番で店を回るから、どれを手前に寄せるのか。この辺の小さな積み重ねが荷下ろしの時に効いてくる。ちなみに倉庫は1号館から号館まであって、1号館当たりの大きさは教会と同じくらい。転送陣が複数設置されている4号館には、注文した商品が送られてくる荷受け専用の倉庫。そして残りの1、2、3号館が道具、防具、武器の倉庫であり、前任者から引き継いだものである。
運び屋としての仕事はひとまず順調。倉庫が手狭になってきた感はあるものの、現在改善計画推進中である。1号館の道具館は余裕がある一方で、2、3号館の防具館、武器館はギリギリに近い。スペースにあまりゆとりがない。ちょっと油断したり、注意が行き届かなかったりすると、倉庫に収まりきらなくなってしまう。恐怖とまではいかないが、気の抜けない日々を奮闘中であった。たまにある特別な注文。数が多かったり、ゼロが1個もしくは2個増える高価なモノだったり。こういう時もやはり緊張感が高まる。そして想像するのだ、あそこの店からの注文だと勇者のレベルはこれくらい。魔王城まではまだまだ遠いが、順調にストーリーを進めているようだ、と。それと直接は業務と関係ないのだが、後継者が欲しかった。辞めたいとか仕事が嫌になったということではなく、今のままでは動くことができない。クーザ―を離れることができない。
本編を進めよう。アルカレスト・アルベルト戦争を経て、転職の館の存在を確かめた勇者一行。ジョブチェンジで基本職から上級職へ。ステータスの上昇はもちろん、アビリティが増えたり上級魔法を覚えられるようになったり、さらに上のジョブへの足掛かりとなったり。条件を満たしていればすぐに転職するパーティーも多いだろうが、転職の館で情報収集すると以下のような話も聞ける。
「転職はいつでもできるわ。まずは新大陸の開拓をしてみてはどうかしら。」
「戦士系の転職でも『聖戦士』と『狂戦士』のように特徴が分かれる職業もあるから気を付けるように。」
「魔導士系のジョブは早目の転職をお勧めするよ。最大マジックポイントが上がるし、新しい魔法も覚えられるし。」
「賢者に転職するには『賢者の書』が必要だ。」
「シャビエスタ山には大賢者が住んでいるらしい。」
「転職とは天職を探す旅なり。」
風や炎、氷の様な属性を持つ攻撃魔法を得意とする魔法使い。ヒットポイントを回復したり、味方のステータスをアップさせたりと、回復や補助魔法を主軸とする僧侶。そして魔法使いと僧侶の覚える両方の魔法を習得できる賢者。まさに一人二役。そりゃ皆、賢者への転職を希望する。ただし、覚えた魔法を犠牲にして強力な攻撃魔法を獲得していく魔導士や、幻獣を呼び出して戦わせる召喚士というジョブがあることを考えると、賢者と言えど魔導士系最上位のジョブという訳ではない。魔導士、召喚士、さらには大賢者等のジョブへの通過点。勇者達の次の目的は重要アイテム『賢者の書』を手に入れることと、新大陸の開拓である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます