強く気高き者③
いきなり余談からで恐縮だが、フィオを加えた3人で旅をしていく中ですぐ、如月に衝撃が走る。それは、ラビがしっかりとお姉さんになったということ。フィオに話を合わせ、フィオの面倒を見てくれる。場合によっては、そこら辺のモンスターよりもずっと厄介なモンスターが常に一緒だなんてことも覚悟していた。フィオが加わってからのラビはつまらない文句やわがままも言わなくなったし、フィオの見本となれるような行動を心掛けているようだった。可愛い妹ができた、そんな心情なのかもしれない。如月にとっては実にありがたい、好都合に違いないのだが、何がラビをそうさせたのだろうか。フィオが勇者様だから、なんて思いはラビに限ってはありえない。子供の素直な、自然な成長なのだろうか。
何はともあれ、まずは最初の町でフィオの装備を整える所からスタートである。本来は武器、防具の買い方を学び、装備方法を学び、ステータスの変化を確認して、というのが一般的な最初の一歩になる。けれどもそこは、最終決戦経験者が2人もいるパーティー。そんな一歩はとっくの昔にクリア済みかつ、フィオの装備品も如月がしっかりと準備していた。フィオのレベルは1に違いないが、優秀な装備品によって大幅なステータスアップを実現できる。通常の店売り武器であれば攻撃力が5とか10上がるのだが、それが50とか100上昇する。いわゆる「強くてニューゲーム」のスタート。と、なるはずだった。
ちなみに如月とラビの装備品であるが、最強とは言えねども、その強さに疑いなし。直接攻撃は苦手な両者、魔法や特技でその真価を発揮するだが、まぁ、序盤については打撃でも十分すぎるダメージは出せるはずである。
2人の装備を見ていこうか。まずは大魔導士のラビ。『魔法の法衣』に『魔導のネックレス』、そして武器は『漆黒の杖』。法力に重きを置いた装備であることは言うまでもない。一方の如月も『魔界の法衣』に『蛍の守り』、武器は『覇者の短剣』と、重装備は装備不可。剣や槍、斧など、直接攻撃に期待できる武器も扱えない。ラビのジョブは大魔導士で、攻撃魔法を得意とする。マジックポイントの最大値も高く、今のラビのレベルであれば魔法の乱発も可能である。如月は万屋。アイテムの効果を最大限に引き出すことが可能であり、モノによっては封印された効果を引き出すことができるようだ。そこに万能、ジェネラリストの勇者が加われば向かうところ敵無し、好きの見当たらないパーティーが完成するはずだった。
「さて。まずは武器からいくか。」
そう前置きをしてから、如月がアイテム名を呟くと、そのアイテムが如月の手に召喚された。
「うわぁ・・・手品みたいっ。」
如月の特技のひとつ。今や如月が所持可能なアイテム数は、他のジョブの3倍以上を誇る。見慣れたラビはともかく、フィオからすれば自分の常識に収まらなくて当然。マジックに見えることだろう。
「そうだな。まぁ、手品みたいなもんさ。種と仕掛けはないけどな。」
やや得意気に如月が取り出した武器は『ライトブリンガー』。光をもたらす者。まさに勇者に相応(ふさわ)しい片手剣である。無論、通常であればスタート時から手に入る代物ではない。「おっ・・・」武器に流し目を送るラビの表情がそれを物語っていた。
「どうだフィオ。持った感じは?」
感触を尋ねる如月。一方のフィオはというと
「う~ん・・・重くて持ち上がらないや。」
塚を握って剣先を上げようとしているのだが、刃が地面から離れない。
「あれ、そうか。無理しなくていいぞ。次の武器も用意してあるから。」
勇者にしては珍しく片手剣、両手剣が装備できないタイプの様だ。珍しいが全くいないということではなく、道具屋時代、剣以外の武器を装備している勇者もちらほら見掛けてきた。だから準備は万端だった。
「さ、フィオ。こっちの武器はどうだろう?」
お次に試すは『ドラゴンランス』。長い槍をやっとこさ持ち上げたフィオだったが右へふらふら、左へふらふら。危なっかしくて見ていられなかった。槍もダメらしい。若干、如月に焦りの色が滲む。
「じゃ、じゃ、じゃあ、こいつはどうだ。」
3つ目は『ルーンアックス』。が、この斧に関しては柄を持ち上げることすら叶わなかった。やや離れた位置から拝見していたラビはもうおかしくて仕方ない。どうにかここまで堪えていたが、とうとうクックック・・・と息が漏れ始めてしまった。さて如月先生、どうしましょうか。
「フィオ、まさか・・・」
如月が何とも言えない表情で最後の武器の召喚を行う。その顔は失意に埋もれてはいなかった。こうだったら面白いけれど無理だよなと、半ば諦めていた未来がひょっこり叶いそう。そんな期待感に満ちていた。
万事屋が取り出したるは『月の杖(ムーンロッド)』。
「珍しい魔導士タイプの勇者なのかな。滅多にいないタイプというか、直接会うのは初めてだ。」
これまで道具屋として何十人、何百人の勇者を見てきた如月だったが、いずれも剣や槍、斧を装備していた。いわゆる戦士タイプだった。如月がブツブツ言っている後ろでムーンロッドを手にしたフィオ。さすがに持てないということはない。見た目にも美しい杖が気に入ったようでヒョイ、ヒョイと振ってみるフィオ。3度目・・・・・・ポン!
「イデーーー!」
如月のお尻に何かが当たった。愉快で仕方ないラビは、腹を抱えて笑い転げていた。
「やっぱりフィオは魔導士タイプなんだな、うん。」
お尻を擦りながら納得する如月。突然の発動に目をパチクリ、驚きを隠せないフィオ。興味津々に杖の先を覗き込んでいる。一方のラビは笑いながら如月に尋ねるのだった。
「で、フィオの魔法属性は何だった?身をもって体験済みの如月様ならお分かりだろう・・・クックック・・・」
恨めしそうにラビを見ながら如月が答える。
「おそらくは―まだはっきり確定という訳ではないけれども―多分、無属性。属性なしだと思う。」
「ほ~。そりゃまた貴重だな。」
ラビの笑いが収まった。
「淳ちゃん、お尻大丈夫?」
「平気、平気。さ、これでよしっと。」
フィオの装備が完了した。ムーンロッド、風の羽衣、白いキャップ帽。ロッドと羽衣は秀逸な装備品に違いないが、帽子は、普通の・・・如月の趣味だろうか。やはり勇者には見えなかった。かと言って魔導士に見えるかと言われるとそれも難しい。年齢のせいもあるが、仮装した子供という所に落ち着いてしまう。とても華が警戒する勇者には当てはまらなかった。それでも、魔王討伐を目指す1組の勇者一行が歩き出した。
まずは情報取集ということで、最初の町を探索する。町民に話し掛けたり、勝手に民家へ侵入したり、タンスを調べたり、壺を割ったり。なんてことをしながらウロウロする。クゴートの里から一歩も外に出たことのないフィオにとっては、目に映る全てが新鮮だった。あれは何、これは何といちいち聞いてくるフィオに、ラビは嫌な顔一つせず、丁寧に対応するのだった。
「さて。そろそろ外を歩いてみるか。」
一通りの探索を終え、いよいよ戦闘だ。緒戦というのはやはり緊張感が高く、また敗北のリスクも高い、一般的には。一般的でない如月とラビにとっては居眠りしながらでも負けない敵で興味は敵にないのだが、フィオはもうドキドキだ。装備品、護衛共に申し分ないので危険性は皆無とはいえ、やはり不安は拭えない。
「ねぇねぇ淳ちゃん、モンスターが出てきたら私はどうすればいいの?」
「そうだな。最初は『攻撃』してみようか。」
スライムが現れた。オオコウモリが2匹現れた。如月とラビは様子を伺う。フィオは2人の方を振り返ったりしながら、ひょいと杖を振った。すると杖の先から白っぽいエネルギーの塊が放たれた―如月のお尻を襲った奴と同じ―それがスライムにポンと当たって倒してしまった(ということは、如月のお尻はとっても頑丈ということになる)。与えたダメージは25。レベル1としては確かに高いが、装備品を考えれば飛び上がって驚く程ではなかった。これがフィオの通常攻撃の様だ。フィオの後方で顔を見合わせる如月とラビ。ほぉ~、なかなか・・・という表情をしていた。スライムを倒したフィオがにこりと微笑みながらも、幾らか戸惑いつつ振り返る。頷く2人。頷き返すフィオ。ほのぼのする戦いであった。
ここで保護者みたいな如月とラビの攻撃について少しだけ。如月はナイフによる直接攻撃でラビは低級魔法をMPの消費無しで唱えることができる。2人に比べればフィオのそれはまだまだ攻撃力は低く、心許ない。だがそんなことは関係なく、フィオは実に楽しそうに戦った。本人からしたら、戦っているという感覚はないのかもしれないが、傍から見ても活き々と戦闘を繰り返した。杖をひょいと振って、ぱっとエネルギー球を出して、ぽんとモンスターを倒す。そこに勇ましさは感じられなかった。これでは勇者ではなく、優者だな。そんなことを感じる如月。そして今の世界に必要とされているのは優者なのかもしれないな、と。
勇者が多くなりすぎてしまった。勇ましきことを善しとする風潮が常識の衣をまとってしまった。そしてその衣を◯がすことが悪だという思い込みにほとんどの者が逆らえなかった。弱者のレッテルを張られた。時代の流れがどうにか救いの手を差し伸べてくれはしたが、沢山の犠牲の下に時代が動いたことは目を背けてはならない事実である。
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