強く、気高き者④
最初の関門は、誘いの祠。ギガントベアの親子が住むダンジョンである。この祠に向かうまでにフィオはレベル5となっていた。魔導士系の勇者らしく魔法も覚えた。対象のヒットポイントをおよそ50回復させる『ヒール』。敵全体に無属性のエネルギー球をぶつける『スパーク』。どちらも低級魔法に違いないのだが、本来であれば序盤から回復及び全体攻撃魔法が使えるのは、戦局を有利に導く。これからの成長、フィオの特技に期待したい所なのだが、忘れてはならないことがひとつ。得てして勇者の特技は使えない。出だしだけ期待させておいて、というパターンは否めない。
「私もラビちゃんみたいな、火の魔法を使いたいな~。」
「属性魔法より無属性の方が便利だぞ。どんな敵でも安定したダメージが与えられるからな。」
珍しくラビが適切な助言を授けていた。
「でも、水のモンスターにはたくさんダメージを与えられるんでしょ。」
「でもな~。火炎耐性のある敵にはほとんどダメージが通らないし、火炎吸収の敵にはお手上げだからな。やっぱり無属性の方が無難だと私は思うぞ。」
「そっか~。」
すぐ側で訊いている如月も、ラビの意見に賛成だった。そしてラビの解説に納得した様子のフィオ。自身の無属性魔法に幾らかでも自信を持つ理由ができていれば好都合。ここでも如月は感心してしまった。それは、ラビが自慢気に「ま、私は無属性魔法も唱えられるけどな」などと宣わなかったこと。本当にラビなのかと疑ってしまいたくなる。
「じゃあ、淳ちゃんの属性はな~に?」
勇者フィオ、まずは魔法の属性に興味をお持ちの様だ。質はひとまず置いておいて、質問が飛んでくることは歓迎である。
「俺のは雷属性だ。とはいっても俺はあんまり魔法が得意じゃないから、雷よりも電気に近いんだけれどな。」
「へぇ~、雷か・・・今度見せて欲しい・・・ねぇねぇ、属性って他にはどんなのがあるの?全部で何種類あるの?」
フィオの頭の回転が速いのか、この時分の子供が皆そうなのか、自分の感想を述べている最中に次の疑問が溢れてきて、それを忘れないよう、我慢できずに質問してくることがしばしばあった。
「実は正確には分からないんだ。」
如月が把握しているだけで属性は10種類あった。火、水、土、風、雷に光、闇、聖、邪、そして無属性。如月も上記の全てを目にしたことがある訳ではなかったが、これらの属性はおそらく使い手が存在する。単一属性の使い手もいれば複数の属性を扱う者もいる。後者の方が戦闘に幅が出て有利な気もするが、一概にそうとも言えないことを後あと3人は身をもって学習するわけだが、先述の通り例えば、ラビは火属性と無属性を扱える。また火や雷などは基本属性と呼ばれ、光や聖属性は希少属性と称される。これらの魔法や特技はやはり勇者が使い手である場合がほとんどで、反対に闇や邪属性は敵さんが多い。
「俺が知っている属性はこんなもんかな。他にもあるとは思うんだけれど、それは―」
と、ここでモンスターと遭遇。向こうからすれば、なんとも緊張感の欠けた勇者達に見えたかもしれない。現れたのはキラービー2匹に盗賊1人。どちらも素早さの高い敵である。あくまで序盤の敵としては、であるが。
「フィオ、魔法を唱えてごらん。スパークで敵全体を攻撃だ。」
「うん、やってみる。」
ちょっとずつ戦闘にも慣れ始めたフィオ。だがここでフィオより素早く動くものが一人。盗賊だ。すっとフィオに近付いたかと思うとすぐに離れ、攻撃するでもなく逃げていった。
「・・・・・・あー!!お財布取られたー!スパーク!!」
冷静なのかパニックに陥っているのか、とりあえずドーンとキラービー2匹は倒したが、盗賊には当たらず。そして、ドーンを合図に如月が盗賊を追い駆け走り出した。
「まてー!今止まったら許してやるから―そんなに入ってないぞ~。コラー!」
逃げる盗賊、追う如月。もちろん「怒らないから」の類の説得に応じる盗人はいない。鬼ごっこが始まり、すぐに2人は見えなくなってしまった。ということでしばし休憩のフィオとラビ。
壁際の隅に座って休む勇者と大魔導士。動かなければ敵とエンカウントする心配もない。するとラビが徐(おもむろ)に、いつも肩から提げているポシェットからお菓子を取り出した。
「飴玉、グミ、チョコレート。マシュマロにビスケット。フィオ、好きなものを選んでいいぞ。」
ラビお姉さん、しっかりと地面にハンカチを敷いてその上にお菓子を並べた。
「うわ~、ありがとう。ラビちゃんのかばん、魔法のバッグみたい。」
「フィオも大人になったらお菓子を持ち歩くようになるんだぞ。」
「え、そうなの?」
フィオはグミを選んだ。
「そうさ。大人の女の人は、いつもお菓子を持ち歩かなくちゃいけないんだ―私はマシュマロにしよ。」
ラビの持論が一体誰に仕込まれたものなのかは知らないが、如月が盗賊を追い駆けている間、2人には丁度良いおやつタイムになった。
「ラビちゃんは昔、淳ちゃんと冒険していたんでしょう。」
「まぁな。そんな昔でもない、ついこの間のことだけれど。」
「その時は魔王と戦ったの?」
「ああ。」
「やっつけた?」
「う~ん・・・引き分け、かな。」
―まて~、コラー!!財布を返せ~―
「淳ちゃんも戦ったの?」
「もちろん。あいつも一緒に戦ったぞ。」
「何か想像できないなぁ。淳ちゃんも強いの?ラビちゃんみたいに凄い魔法が使えるの?」
フィオは道具屋の如月しか知らなかった。
「如月は頭を使って戦うんだ。」
―いい加減に・・・しろ~い。500ルナしか・・・・・・入って―
「頭を使って戦うって?」
敵の弱点や次のターンの行動を調べたり、味方をパワーアップしたり敵をパワーダウンさせたり。私も見たことのない道具を沢山知っているし、沢山持っているぞ。ほら、フィオの武器を選ぶときに手品みたいなことをやったろ。あれも如月の能力のひとつだ。
「そっか~。さっすが道具屋さん。」
―と~ま~れ~・・・いい加減にしろ~・・・―とここで、見かねたラビが杖を振った。ポンと放たれた火の玉が盗賊の足元に挟まり、盗賊をすっ転ばせた。その手から財布が零れ、追いかけてきた如月が倒れながら確保することで、この鬼ごっこに終止符が打たれた。
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