強く、気高き者➅
フィオの通常攻撃ではほとんどダメージが与えられない。如月もギガントベアからの攻撃を一手に引き受ける為、防御に専念。よってボスへの攻撃はラビの魔法頼みということになる。1ターンを詠唱準備に費やし、2度目のラビのターン。
「大地に眠る紅蓮の精霊に告ぐ。その封印を解き放ち、我に従え。『レッド・カカオ』!」
力を貸してもらう精霊に対してなんとも高圧的な文言と共に、ラビらしい名称の魔法を発動した。すると、ギガントベアの足元から幾本もの火柱が立ち昇り、あっという間にボスの姿はその影に隠れてしまった。さらにボスを囲んだ火柱はギガントベアに引き寄せられるように1本の巨大な火柱へと合流した途端、一瞬の閃光と共に大爆発を起こし、その役目を終えた。ボス部屋はしばらくの間、真っ白な煙に包まれた。
一口に魔導士と言っても様々な系統が存在する。それを如月に知らしめたラビ。自慢を兼ねた自己紹介と言えよう。精霊召喚魔法。その特徴は攻撃特化。法力は全魔法の中でも最上位に属しており、加えて、精霊の力を借りる為か消費MPが少なくて済むという点も利用価値が高い。マジックポイントの最大値が高い大魔導士であるから、よほどのことがない限りマジックポイントが枯渇するということはあるまい。で、その代償はと言うと、時間を要するということである。ターンを消費する。今回の魔法であれば発動前に1ターン、そして発動後に1ターン、全くの無防備状態となってしまうのだった。ちなみにラビを見ている限りは信じがたいことだが、召喚魔法の術者というのは非常に稀有な存在である。世に10人と言われる精霊召喚士と、世に3人と言われる幻獣召喚士。その内の1人がラビなのである。
さて、レッド・カカオでギガントベアに与えたダメージは916。一瞬で灰と化する程の火炎攻撃ではあったが、そこはイベントバトル。煙が晴れるとギガントベアがうずくまっていて、それを守るようにブラウンベアが現れ、勇者達に向かって威嚇を始めた。
「やれやれ・・・緒戦から連戦か、小癪な。それならもう一度吹き飛ばしてやる。」
ラビが再度詠唱に取り掛かるのを「待って」と止めたのはフィオだった。
「あの熊さん達、親子だよ。お母さんを守ろうとしているみたい。」
そう言いながら、フィオは熊たちの方へ歩き出してしまった。
「おい、フィオ。危ないぞ、戻って来い。」
「平気だから、淳ちゃんとラビちゃんはそこで待ってて。2人が来ると怖がっちゃうから。」
フィオに恐怖心がないとは思えなかった。如月が目の前でぶっ飛ばされているのだから、巨大な熊に足が竦んで当たり前。けれどもフィオは、実に堂々と中ボスの眼前に立つのだった。
5分程の談笑を終えて帰ってきたフィオだったが、如月とラビの格好を見て、思わず吹き出してしまった。
「どうしたの2人共?」
如月は両の手に短剣を構え。回復薬の瓶らしき物を口に咥えていた。その隣でラビは右手に杖を持ち、左手でビスケットの袋を握りしめていた。如月とラビの表情は必死というか、どこかおかしな顔をしていてフィオは思わず吹き出してしまったのだった。フィオが何事もなく戻ってきたことで平常心を取り戻した2人であったが、そんな彼等の前方でギガント、ブラウン親子は静かに去っていった。
「熊さん達はここがお家で、静かに暮らしたいだけなんだって。」
さらっと報告するフィオと受ける如月。
「そうか・・・なぁ、フィオ。ひとつ質問してもいいか。」
「いいよ。」
「フィオは動物の言葉が分かるのか?」
「え?」
「え?」
「え?」
隣で訊いていたラビ含め、同じように驚きの反応を示す。
「淳ちゃんは喋れないの?」
「俺もラビも・・・って言うか、普通は動物と話はできないんだが。
「え~っ、本当?クゴートの人はみんな動物とお話しできるよ。」
嘘や冗談の類ではないようだ。話が思ってもみない方向へ飛んで行ってしまった。
祠を抜ける前に片付けておきたい事案が唐突に降ってきた。
「繰り返しになってすまないが、フィオは動物と喋れるんだな。」
「うん。」
「どんな動物とでも話せるのか?」
「う~ん・・・どうかな。今まで喋ったことがあるのは猫、犬、馬、すずめとかだよ。熊さんは初めてだったけど、ちゃんと通じたよ。」
「そっか。でもフィオ。やっぱりモンスターは危ないから次から不用意に近付くのはなしにしような。」
フィオのというか、クゴート人の思ってもみない特殊能力が発覚した。魔王討伐に直接役立つことはないかもしれないが、今回みたいな思わぬ活躍を見せることもあろう。フィオに頼めば情報が得られる機会もありそうだ。他の冒険者や人間の知り得ない手掛かりが掴めれば儲けものだ。
「熊は他に何か言っていたか?」
今度はラビが質問した。
「えっとね~。本当は私達にアイテムをくれるはずだったんだけれど、なんか、ライオンが持っていっちゃったって言ってたよ。」
「ん?」
ラビと如月、2人の頭にハテナマークが浮かんだ。文字通りに事実として受け入れて良いものかどうか。イベント上のストーリーとしてはちょっと無理があるまいか。
「なぁ、フィオ。ライオンって、動物のライオンのことか?」
自分でも意味不明な問いを繰り出す如月。
「動物以外にライオンっているの?」
「いるのか?如月。」
「・・・いないと思います。」
誘いの祠、クリアである。
続いて3人を待ち受けるイベントは、アルカレスト・アルベルト戦争。祠を抜け、アルカレストに到着した3人。ストーリーを進めるにはまず王様の待つ城へ向かわなくてはならないのだが、まずは城下町を観光だ。商店街を歩く一行。町を見て、露店を見て、遠くからでも大きく映る城を見て、人の多さと賑わいにフィオが興奮するのは分かる。目に映る全てが初めてのものばかりなのだから如月だって十分理解できるし、笑って応対するに十分な心のゆとりがあるのだが、想定外というか視界の外から右ストレートが飛んできたというか、熱が隣の子にまで感染(うつ)ってしまったようで、もう1人の小娘まで一緒に盛大にはしゃぎ始めてしまったから、保護者如月は目を回す寸前だった。
「うわ~、淳ちゃん。見てみて。わたあめだって~。ふわふわだ~。私食べたことないんだ~。いいな~。食べたいな~。」
「おい如月、ソフトクリームが売っているじゃないか。私は抹茶を食べるぞ。いや、待て。クッキーバニラも捨て難い。なにっ、ダブルもできるのか!」
「今日泊まる宿を探さないといけないから。ほら2人共、行くぞ。このままじゃ野宿だぞっ。」
「野宿?ねぇねぇラビちゃん、野宿って?」
「キャンプのことだ。テントを張って星を見ながら寝るんだ。運が良ければ流れ星も見られるんだぞ。」
「うわ~、キャンプか~。流れ星か~。いいな~。」
どこからそんなロマンチックな話に発展したのか。そこで考えた如月。
「あーーー!」
突然、如月が天を見上げ、空を指さした。ラビとフィオも顔を上げ、一瞬魂が空に飛んだ瞬間を如月は見逃さない。フィオとラビの右手と左手をすっと掴み、強硬策で商店街を突破するのだった。けれども運の悪いことに、抜けた先がカジノ。状況は悪化の一途を辿ってしまった。
「ねぇねぇ、ラビちゃん。カジノって楽しいの?」
「色々なゲームで遊べる所だ。なになに・・・アルカレストのカジノでできるゲームがカードゲームにスロットマシン、麻雀だってさ。」
一体どういうラインナップだという突っ込みたい気持ちを全力で抑え込んで、如月が2人の説得に入る。
「それじゃあさ、宿を見つけて予約を取ったら少しだけ遊びに来よう。な、だからまずは宿探しからだ。」
「は~い。」
「いいだろう。」
首輪を2つ御所望の如月だった。道具屋に売ってなかろうか。
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