強く、気高き者⑧

 5連敗すれば10分で終了。ボロ負けを機にカジノを嫌いになってくれれば、という如月の目論見は見事に外れた。

 フィオとラビのカードは2枚とも表、ディーラーのカードは1枚表の状態で配布され、まずは自分達がカードをもう一枚貰うか、そのままかを決める。その後ディーラーが3枚目以降のカードを引くかそのままかを決め、最後に互いの手の内を見せ合う。ディーラーよりも合計値が21に近ければ2人の勝ちである。ちなみに「ブラックジャック」が成立するのは2枚の合計が21になった時のみ。これは3枚合計21よりも強い。そして21を超えてしまったらバースト。その時点で負け。ディーラーとプレイヤー両方がバーストした際はプレイヤーの負け。このゲームの選択は単純。カードを引くか引かないか。現状の合計値で勝負するか、バーストのリスクを背負ってもう1枚引くか。ということだから、2人で相談しながらゲームをするよりもひとりずつやった方が迷わないしけんかにもならないし後悔しないという如月の助言は考慮されず、フィオ、ラビコンビで席に着いた。

 ブラックジャックの醍醐味は次のカードを引くか引かないか。2人で決めようとすれば意見が割れるのが落ちである。すぐにメダル500枚を使い切って終わると踏んでいた如月。まずはけんかしながら終わらないこと。次におかわりのおねだりがないことを祈りながらやや離れたリフレッシュシートから2人の様子を眺めていた。その椅子はマッサージチェアになっていて、それはそれは気持ちのいいのなんの。それと振動も眠気を誘った。如月はあっという間に夢の中へ飲み込まれてしまうのだった。確かに相談し、意見が分かれ、挙句に負けたとなれば仲にひびが入るかもしれない。だがしかしである。2人で出した答えが正解だった場合、絆はより深まろう。メダルも増えよう。加えてカジノにどっぷりだろう。


 ぷかぷか、ぷかぷか・・・・・・とても気持ちいい。海の上の様だ。船に揺られながら釣りをしている如月。釣果はどうかというと、上々。如月の背後にある巨大な水槽は多種多様な魚達で一杯だった。今だって竿を入れた途端に魚が食らいつく。こういうのを入れ食い状態というのだろうか。のんびり釣りを楽しむ如月にまた当たり。だが今度は様子が異なる。重い。糸を巻き必死に抗う。やがてどりゃ~と吊り上げたら全身10メートルの巨大イカだった―という所で目が覚めた。

 「おい、如月っ。」

「淳ちゃん、起きて!」

「・・・ん、ああ。ごめん。寝ちゃったか。終わったか、ブラックジャック・・・・・・」

メダル500枚から始まったブラックジャック。如月が居眠りしている間に、それは2000枚まで増えていた。目を疑う如月。寝惚けているのかと思った。が、どうやら夢ではないらしい。その2000枚をカジノに預け、3人は宿に向かった。戦利品は、途中の雑貨屋で買ったトランプ。

 夕食後、宿の一室でカードを広げる3人。如月がディーラーでブラックジャックが始まるかと思いきや、ラビは「ババ抜きやるぞ」。


 カジノのゲーム項目にババ抜きはない、一応。情報収集も兼ねて酒場に出向こうかと考えていた如月だったが、2人でババ抜きをしても詰まらなかろうと、付き合うことにした。ガキんちょ2人が寝てからでもいいか、と。ところがそのババ抜きで熱くなったのは他でもない、如月だった。その訳は、あまりにラビが強かったから。

 「また私が1抜けだな。」

最後のペアを場に捨て、ラビがこの日8度目のトップ。さすがに全てのゲームが1位という訳ではないものの、ビリはなし。そして断トツに成績に悪い如月。もはやラビのイカサマを疑うレベルだった。

「ブラックジャックだろうとババ抜きだろうと、大なり小なりコツはある。」

あまりに弱い如月にラビ大先生が助言を下さるようだ。

「コツって言ったって、ババ抜きに強いも弱いも―」

「例えば如月。お前、手持ちのカード、左から順番に数字を並べているだろう。規則正しく正確に。」

「!」

「ご丁寧に数字のヒントを与えているようなものだ、バカ者が。」

さらに続けるラビ。

「それからフィオ。フィオは数字のカードを引いた時は一通り手持ちのカードを確認するのに、ジョーカーを引いた時はすぐに手持ちに入れる癖があるみたいだな。ポーカーフェイスはいいことなのだが、ジョーカーの位置が丸分かりだぞ。一回シャッフルしたり、カードを引いた時の動作を同じにした方がいいかもしれないな。」

フィオは尊敬の眼差しでウンと頷き、如月は開いた口が塞がらない。そして、自分に厳しく、フィオに優しいラビ先生の依怙贔屓を痛感していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る