強く、気高き者⑨

 翌日、アルカレスト城を訪れた3人。フィオの感想通り大きく、立派には違いないアルカレスト城。けれども如月には疲弊の色が見て取れた。絨毯(じゅうたん)は色褪せ、廊下の隅には埃が目立ち、城内の兵士は人数が少ない上に、鎧の輝きは失われていた。戦時下ということが大きな理由だろうが、それ以外の原因も探るべきと知る如月だった。


 さて、ここは謁見の間。アルカレスト王から依頼があるのだが、ひとまず保留にしておいてアルベルト城へ向かう―

「はい、分かりました。アルベルト王を倒し―」

「ちょいちょい、ちょい待ちフィオ。アルカレスト王、少しお時間を頂きます。考えさせて頂きます。」

フィオの口を掌で塞ぎながら如月が王の依頼に答えた。正直で真っ直ぐなフィオ。人のお願いはすぐに訊いてあげるという心掛けは素晴らしいのだが、裏があるのが大人の世界。裏を疑うのが大人の思考。訊こえと印象は悪いが、真実に辿り着く確かな方法のひとつである。

 「王様が困っていたなら、助けてあげればいいのに。」

「フィオの言う通りだぞ、如月。」

「フッフッフ・・・・・・君達子供はまだまだ世間を知らんのだよ。」

なんて冗談半分のやりとりをしながらアルベルト城に到着した一行。アルベルト王とも話をしてイベントを進めるのだが、ちょっとばかり困ったことになる。そう、闘技イベントだ。


 「え、2人・・・ですか?」

「はい、大会の決まりですので。勇者様と、パートナーの方をお1人選んで頂きます。」

「勇者以外の2人で出場することはできませんか?」

「はい、勇者様お一人での参戦は可能ですが、勇者様を外してのパーティー編成では、今大会には参加頂けません。」

アルカレスト・アルベルト戦争時の闘技イベントは、強制的に2対2の戦いとなり、さらに勇者は絶対参戦。

「分かりました。一度出直してきます。」

そう言って、いったん闘技場から引き返す如月達。とりあえず、昼食を食べに行くことにした。


 アルベルト城下町のファミリーレストランにて昼食。フィオとラビにはお子様定食を注文しておいたので多少は時間が稼げるだろう。2対2の戦闘は想定していなかった。いずれは勇者単独のイベントもあろうとは思っていた如月だったが、こんなにも早くやってくるとは。厳しいのは3人共に魔導タイプということ。いや、如月に関しては魔道タイプという定義にすら語弊がある。フィオの参戦は確定なので、残りの一枠に如月が入るか、はたまたラビか。戦闘能力、殊に攻撃面を考慮すればフィオの力となれるのはラビだ。観客席から指示を出し、見守り、二人に戦ってもらう・・・のか。目の前でオムライスに刺さった国旗を取り換えっこしている2人だけに戦わせるのか。見守る?傍観の間違いだろう。やはり自分が、己の体で、守り抜けるか。無事に闘技を終えられるのか。これまでの違和感が、如月の強くてニューゲームという自信を揺るがしていた。 その日の闘技は参加せず。昼食後そのまま宿に戻った。


 道具の使用は禁止されていない。その夜、できる限りのアイテムを召喚し闘技に備える如月。やはりフィオと組むのは自分だ、と。勇者を守るのは大人の仕事。何を迷っていたのか。ラビに何を負わせようとしていたのか。危うく自己嫌悪で吐き気を催す所だった。

 『守護獣の石(ガーディアンストーン)』。数ターンの間、受けるダメージを大幅に減少する。かなり貴重なアイテムで如月も2個しか持っていないが、出し惜しみをする気はなかった。敵がそれだけの実力者であれば序盤とは言え止むを得ない。『虹色の風』。敵の魔法攻撃を1度だけ跳ね返すことができる。敵も魔導士タイプだった際に有効な道具だ。『高級薬草』。大きくヒットポイントを回復する。情けない話ではあるが、回復は薬草頼みだ。そしてもちろん『好戦花』。自信を盾にする。絶対に折れることが許されぬ盾である。

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