ゲームスタート➅

 話を本筋に戻す。アルベルト城に到着してまず目を引くのが巨大な闘技場だ。2人の闘士が戦いを繰り広げ、その勝者を当てる。日に10戦行われる試合で9戦以上当てると賞金が得られるという、いわゆる賭博場だ。さっそく中にと行きたい所だが、勇者達が初めて訪れた際には立ち入り禁止となっていて、利用できないようになっていた。隣国と戦争中なのだから当然と言えば当然か。となるとカジノを一部とはいえ開放しているアルカレストは何を考えているのだか。

 アルベルト城下町での情報収集。内容は似たり寄ったりなのだが、不思議なことがひとつあった。戦争を長期に渡って継続する両国王を悪く言う民がほとんど見られなかった。自国の王だけならまだしも、敵国の王に対しても敬意を表した発言が多かった。

 一通り城下町を探索し、門兵に話し掛けると、簡単に王様の下へ通してもらえる。警戒レベルが戦時中とは思えないほどの最低レベルだった。勇者が王の暗殺を計画していたら一発アウトである。通された謁見の間でアルベルト王と話をして分かること、それは、アルカレスト王、アルベルト王共に立派な国王であるということだ。全ては民の為に。王など飾りに過ぎない。民を導く目印として飾りが必要だからここに座しているだけ。そして仲間を裏切ることだけは絶対に許さない。そんな両国が戦争を止められない、その理由すら満足に教えられぬまま選択を迫られる勇者一行。ただその選択肢自体は単純だ。アルカレストかアルベルトか。そして第3の選択が―





 才能なのか運なのか、偶然なのか天職なのか。同じ勇者でも、戦士でも魔法使いでも、同じレベルだからと言ってステータスが全く同じ、というわけではなかった。手の施しようがない位にダメというキャラクターはさすがにいないが、ゲームの難易度に影響を及ぼす程の差はある。ステータスに差がついたり、魔法を覚えるレベルが違ったり、残念ながら最高位の魔法を覚えなかったり等々。さらに、ここが一番注意すべき点なのだが、レベルの上限も異なる。レベル50が最大値の勇者もいれば99まで、すなわちステータスがレベル99まで上がり続ける者もいた。強き者は上を目指し、戦えなくなったものは潔く諦めることになるだろう。そうそう、手の施しようがない位にダメという勇者はいないと言ったが、稀に手の付けられない勇者は現れる。


 扉がノックされ

「魔王様、華ですが。」

「どうぞ~。」

朝寝坊以外で華が魔王の部屋を訪れるのは珍しかった。

「突然申し訳ありません。お時間宜しいですか?」

深々と下げた頭を上げた途端に後悔する華だった。

「大丈夫ですよ・・・ほら、スイカが・・・揃った!」

コインを入れて、せっせとバーを叩いていた。

「遊んでいる訳じゃないんですよ。カジノにスロットがあるんですけれど、そのシミュレーションをちょっとね。」

華の方に顔を向けることもなく、スロットに夢中だった。

「あの、少しだけ息抜きの手を止めて頂いて・・・・・・フィオ、という女性をご存知でしょうか?」

「フィオさん、ですか?いや~・・・知らないですね。おかしいな、美人の名前は一度会ったら忘れないのですが。」

「もうすぐ10才になる女の子です。」

「会ったことないですね。将来美人さんになりそうだったら紹介して下さい。」

「そうならないことを祈りますが―」

この一言に初めて手を止め、華の方を向いた魔王。話を訊く気になった様子だ。

 フィオという女の子だが、点在する『旅立ちの村』のひとつの出身で、もっと幼いころから幾人もの勇者やその仲間達にあってきた。中には毎日一緒に遊んでくれた冒険者もいたようだ。そんなフィオだが、まさか自分が勇者になどとは夢にも思わなかったであろう。それだけではない。上限レベル99。勇者の枠組みに収まる逸材ではなかった。一言で言うなれば、格が違う。そうそう。ちなみに勇者も一般職の一種だということを伝え忘れていた。勇者の上級職も当然存在する。世界を救うならば攻めてそこら辺には辿り着かないとお話にならない。

 フィオ。まだ10才に満たない女の子には違いないが、魔族にとっては早めに刈り取るに越したことはない存在。だが、幸いまだ若い。若すぎる。独りでは力を使い熟すことも、仲間を募ることもできない。現状世界に何ら影響を与えうる存在ではない。

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