ゲームスタート⑦
「それでは、フィオについては経過観察ということで宜しいですね。」
「そうですね。本当にどなたか知りませんし・・・」
早速バーを叩き出す魔王。リールを回しながら話題を追加した。
「どうです?ルナは回っていますか?」
「はい、順調かと思われます。勇者の落とすルナの額が明らかに増えました。モンスターのステータスを強化した分、武器と防具には気を遣わなくてはなりません。薬草にもかなり長い間お世話になるかもしれません。宿にも何度も泊まるでしょう。そして全滅するパーティーも多い。全滅したら持っていたルナの9割が教会に入る。ルナがくるくると回っていますよ。」
「まぁ、スタートとしては上出来ですね。」
満足そうな魔王であった。
勇者達はモンスターを倒すことでルナを稼ぎ、そのルナを使って武器を買い、防具を整え、道具を補充し、宿屋に泊まる。全滅しても教会で復活することが可能だが、その際には所持しているルナの9割を失う。この世界ではこうして、町や村にルナを落とし、人々の生活を支えていた。よって勇者一行がルナを貯め込むことは悪である。勇者達が町を利用することは勝手だが、ルナを落としてもらわなければ意味がない。別に勇者がいようがいまいが、モンスター達は町の中まで襲ってくることはない。だから勇者がルナを使わなくてはならない状況を演出する必要がある。そうすることで、世界の経済を回す。これが魔王の重大な責務だった。武器、防具をメインとしたアイテムの売買、希少アイテムを餌としたギャンブル、教会での所持金回収など。
イベントアイテム『アルカレスト王の書簡』を受け取り、一癖も二癖もあるモンスターを蹴散らし、アルベルト王に謁見する勇者達。しかしその場で手紙は破り捨てられる。読むまでもない、と。
「勇者殿にご足労をかけてすまぬとは思うが、それとこれとは話が別。我が国の返答は否。休戦には応じられぬ。我々が望むのはもはや対等な関係ではなく、明確な上と下。先に休戦協定を破棄したのは兄者、アルカレスト。我々が折れることはありえぬ。アルカレスト国へ戻り、そう伝えるがよい。」
と、まぁ、ここまでが一本道。ここから勇者に選択を委ねる分岐となる。はいかいいえ、もしくは複数の選択肢の中から選んだルートによって、その後の展開が変化する。選択によって詰むということはさすがにないが、難易度の多少の上下はよくあることだ。
「ところで、アルカレストに雇われし勇者よ―」
そう言ってアルベルト王が軽く右手を挙げると、謁見のまで控えていた数名の兵士達が勇者一行を取り囲んだ。槍の刃先を勇者達に向けて臨戦態勢である。
「兄者ではなく、我々アルベルト国の為に働く気はないか。報酬はアルカレストの倍出そう。」
ありふれた誘い文句と古風な脅しで裏切りを呼び込まんとする。ここで勇者に与えられる選択肢は以下の3択だった。
①それはできません。我々はアルカレスト王の依頼を受けて参りました。アルベルト国の敵です。
②いいでしょう。ただし報酬は高くつきますよ。
③時間を頂けますか。どちら側につくか、それともこの戦争から手を引くか。即答はできません。
アルカレストかアルベルトか、それとも保留か。アルカレストの言い分はこうだ。休戦中にアルベルト兵が裏切った。一方のアルベルトの言い分はこう。休戦中にアルカレスト兵が裏切った。これでは戦争が長期化するはずである。まるで子供のけんかだった。自分達は悪くない、向こうが全部悪いのだ。相手が謝ってくるまで許さない。
第三者からしたらどうでもいいような御国の事情よりも気になるのは3択の正解。どの選択肢でもストーリーは進んでいくが、正解は3番目の保留ということになる。正解とはどういうことか。それは最も得が多く、損が少ないということだ。もっと言うと、得られるものを全部手に入れることができて、失うものがないということ。
アルカレスト側について休戦に成功するとアルベルトの闘技場が使用不可となり、アルベルト側で共闘すればアルカレストのカジノで遊ぶことができなくなる。実はどちらの陣営にも兵士に化けたモンスターが潜んでいて、そのモンスターを倒すことでイベントクリアとなる。その際に褒美としてのルナと、『漆黒の剣』、もしくは『白銀の盾』が与えられる。どちらにもつかなかった場合、カジノも闘技場も利用できるし、剣も盾も手に入る。
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