ゲームスタート⑧


 「大半のパーティーが保留を選ぶかもしれませんね。」

フィオの報告を終えた華が魔王の隣に座ってスクリーンを眺める。フィオに関しての確認を終えて部屋を出ようとすると、まぁ、まぁ、まぁと引き留められた。その後に出してくれたインスタントコーヒーだから、まだ湯気が出ていた。

「俺も鬼じゃないからね、魔王だけど―RPGの基本は情報収集。城下町で話を訊いていれば、即断即決は避けた方が良さそうだというのは薄々感じられるはずです。

魔王の言う通り、観察中のパーティーも保留とした。誤解しないで欲しいのは、事ある毎に魔王がヒントを散りばめるのは親切心からではない。意図した道をある程度は歩いてもらわないと後々面倒だというだけ。今回アルカレストとアルベルトによる戦争の選択肢の正解は保留。剣と盾の両方を獲得できるのは3つ目の選択肢のみ。ただし大変だぞ。そして何より、見る側からしたら一番面白い。

 「魔王様、保留が正解というのは分かりましたが、それでは戦争を終わらせることはできないのでは?結局はいずれかの陣営につくことになるのですか?」

華から質問が飛んだ。どうやら選択肢後の結末を華には隠しているようだ。ということは、直に中ボス戦か。

「この後アルカレストに戻り、王様に話し掛けるとイベントが進行します。勇者がひとつの勝負を持ち掛けるのですが―」

「勝負・・・ですか。」

「ええ、勇者がアルカレスト、アルベルト両王に勝ったら即時終戦という条件で、2対2の戦いをしてもらいます。舞台はアルベルト国の闘技場です。」




 「まさかアルベルトと共闘する日が再びやってくるとはな・・・やはり甲冑に身を通すと年甲斐もなく血が騒ぎよる。」

「兄者、あまり無理なさらぬよう。もう若くないのですから・・・」

「それは主も同じであろう。どうじゃ、鍛錬は積んでおったのか?」

「はい、無理のない程度にですが。一応は戦争中ですので、万が一に備えねばなりませんので・・・・・・」

「全く―形式上の戦争中というのも大変じゃわい。おちおちカジノへ行くこともできんわい。」

「平時だとしてもお控え下さい。」

「うちの大臣と同じことを言いよる。」

「それはさぞかし有能な大臣様なのでしょう。」

「抜かせっ。」

「兄者、手は抜きませぬぞ。」

「無論。相手が誰であろうと負けるつもりは毛頭ない。」

と、いうことである。仲は良さそうだ。


 「大変長らくお待たせ致しましたーーー!!本日のメインイベント、特別闘技を開催いたしまーーす!」

熟(こな)れた実況者が煽り始めた。

「まさかこんな日がやってくるとはっ。なんと、ナント、何と!アルカレスト、アルベルト両王が緊急参戦だーー!!」

会場も負けず劣らず大いに盛り上がる。そりゃそうだ、自国の王が自ら剣を取り戦う。それを目の前で観戦できる上に掛けの対象となるのだから、静粛にという方が無理な話である。

「しかも相手はまさかの勇者様!どちらが勝つのか!?勝つべきなのか!?勇者は果たして強いのか!?我等の王は強いのか!?その疑問の全てに今日、この場でお答えしましょう!!」

もう打ち首上等のテンションだ。闘技場は発火寸前の熱気を帯びていた。

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