ゲームスタート⑤

 さて、アルカレスト城に到着するとさっそくイベントが発生する。王の依頼は敵対する『アルベルト城』を降伏させることだった。戦争の勝利をアルカレストにもたらすこと。説得するも、占領するも、壊滅するもよし。手段は問わない。とにかくアルベルトを陥落させた暁には、次の目的地への通行許可証を与えるという。

 基本通り、城内の兵士や城下町の人々に話を訊いていくと、争いの原因や現状がどことなく見えてくる。

アルカレスト王とアルベルト王は兄弟で、半ば兄弟げんかの様相を呈した戦争が5年近く続いていた。戦力が互角の為、均衡が崩れず長期化している。何度か停戦協定が結ばれたが、その度に裏切り者が現れる。どちらの王も勇者に同行していた経験があり、その力は兵力100人分に勝るとも劣らないとの噂。火のない所に煙は立たない。100パーセントの真実かどうかは疑わしいが、全くの誇張ということでもなさそうだ。

 華曰く、随分と面倒なイベントを用意した物ですね。言われるまでもなく魔王自身もそれを痛感していて、ちょっとだけ後悔していたりした。序盤にこの手のイベントは引き摺(ず)ると。AとBのどちらを選び、どちらを捨てるか。片方を活かし、もう一方を殺す。その選択を勇者に委ねるのだ。結果次第ではかなり後味の悪い区切りを迎え、最後まで心のどこかに引っ掛かってしまう。重めのストーリー分岐は早すぎた。もっと気楽な択一から始めても良かった(ということで、実は急遽救済処置を施した魔王だったのだが)。ただし、自らの主張を曲げることはできない。勇者たるもの、力と共に知恵も持ち合わせていなければならない。馬鹿は勇者になってはいけないというのが、現魔王の持論だった。

 アルカレスト王から依頼を受けると、アルベルト城の場所が明らかになる。距離はあるが、道程はほぼ1本道なので迷うことはない。依頼を受けたその足でアルベルト城を目指すのもいいだろう。アルカレスト城で有り金叩いて装備を可能な限り強いモノに代えて、行ける所まで行ってみるかと。ただしアルベルト城到達の適正レベルは13。アルカレスト場周辺でレベルを上げながら、ここいらのモンスターの特徴を掴むのが無難。初の中ボスをクリアしたからと言って、意気揚々と突き進めばあっさり全滅。至極簡単に打ちのめされるだろう。訪れたことのある町や村に一瞬で戻れる瞬間移動魔法を勇者が覚えるのは、どんなに早くてもレベル11。先を急いで無策無難に前進し。辿り着けず戻ることもできなくなって全滅では笑い話にもならない。だからレベル13を目安にアルカレスト城周辺でルナと経験値を稼ぐことが鉄則となる。


 ところで、アルカレスト城及びアルベルト城付近のモンスターは、華からもお褒めの言葉があった通り人気が高い。誰からの人気が?という話は置いておいて、その一部を紹介しておく。まずは華から話の上がった万能タイプの『ロストアーマー』。攻守に優れヒットポイントも高い。魔法は使えないが、ヒールスライムをお供に連れることでHPを回復する嫌らしい敵だ。人気の高い理由はその能力値と外見。銀色の西洋甲冑に身を包んだナイト。誘いの祠までを第一部とするならば、第二部を代表するモンスターである。ちなみに盗賊のスキルで盗めるレアアイテムは『雷の槍』。手に入れることができれば心強い。この近辺の武器火力としては最強である。

 小型のドラゴンも出現する。口から日の息を吐く『ミニサラマンダー』。ダメージはそこまで大きくないものの、手痛い全体攻撃である。単体であれば脅威はないが、複数で襲われた際は注意が必要だ。全体攻撃の連発は一瞬でパーティーをボロボロにする。

 『シェルミキサー』は亀の甲羅を背負った蟹のモンスターで、物理耐性が見た目通り高い高い。戦士だろうと勇者だろうと武道家だろうと、なかなかダメージが通らない。そこで魔法攻撃が有効なのだが、ここで性格が出る。たまにマジックポイントをケチって直接攻撃で突っ張るパーティーを見掛けるが、思わぬ反撃を受けるかもしれない。そうそう、このシェルキャンサーのドロップアイテム『蟹の甲羅』は換金アイテムである。パーティーに商人がいないと10ルナでしか売却できないが、商人が交渉すると200ルナで売ることができる。

 間接的な攻撃を仕掛けてくる奴もいる。『ブラックキャット』。この近辺のモンスターとしては全体的なステータスが低いものの、唱える魔法が厄介。詠唱妨害魔法によって勇者達の魔法を封じてくる。もう一つの特徴としては集団行動が徹底されていること。最低でも3匹同時に現れる。ブラックキャット自体は勇者らの近接攻撃一発で倒せる。魔法を封じられても何ら問題なし。頭を悩ませるのは他のモンスターと一緒に現れた時。そして戦闘が長引きやすいのがシェルミキサーとの混合。運が悪いと魔法無しでシェルミキサーと戦うことになる。これはしんどい。逃走が選択肢として急浮上するのだ。

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