ゲームスタート⑩

勇者もまだレベルが低いとはいえ、特技の『覚醒』を使用可能。勇者の特技、オリジナルの技ということで否が応でも期待が高まるが、響きからすれば切り札としての活躍まで望む所だが、残念ながら現段階ではそこまで高い効果は発揮されない。勇者ってのは何でもできて、何もできない、というのは誰の言葉だったか。攻撃魔法も回復魔法も覚えるが、それぞれ魔法使いと僧侶には勝てない。攻撃力は戦士に及ばないし、スピードは武道家がずっと上。だめ押しとして、商人の様にルナを稼ぐ能力はないし、アイテムを盗める盗賊のスキルも持っていない。

 それでも武器攻撃だけでは効果的なダメージが与えられない。2ターン目、勇者の選択は―こちらの勇者のレベルは17。繰り返す、特技の覚醒はさして効果が期待できなかったりする。俗にいう「使えない」という奴だ。

 1つ目。『分析』。これは敵のヒットポイントとマジックポイントの最大値と現在値を知ることができるが、通用するのは雑魚モンスターのみ。さらにさらに、勇者一行はとある隠しイベントで『モンスター図鑑』なるものを手に入れられる。これは一度戦ったモンスターのステータスや特徴が自動で記録されていくという優れたアイテムだ。このモンスター図鑑を獲得した瞬間、分析の利用価値がほぼゼロとなってしまう。2つ目は『連撃』。装備している武器に関係なく2回攻撃が可能。敵1体に集中しても良し。2体に分散しても良し。ただし、1回の攻撃力は通常の2分の1。あれ、意味ないのか。3、『強撃』。マジックポイントを3消費して、1.2倍のダメージ。魔法攻撃や回復魔法の為にマジックポイントを温存した方が良さそうだ。

 勇者が選択したのは低級雷(いかずち)魔法。特技ではなかった。賢明な判断と言えよう。現段階で勇者が使える最も威力の高い魔法で、しかも敵全体を攻撃できる。攻撃、行動を変えれば相手の出方も変わる。勇者の全体魔法でどう動いてくるか。ということも踏まえて、既に兄アルカレストは手を打っていた。年の功、経験の差、そして知識量の違い。身を呈して弟の分の雷も受け切った。法術を放った勇者に動揺が走る。アルカレストが特技、無色盾の黒盾を発動。自分の防御力の50パーセントアップして全攻撃を受け切る。結果アルベルトは無傷。一方のアルカレストは71のダメージ。

「兄者!」

「騒ぐな、問題ない。あと2回は耐えられよう。まずは僧侶からだ。」

「はい。」

アルベルトの連続攻撃。防御姿勢で備えていた僧侶だったが、こちらも大きなダメージを受けた。アルベルトは宣言した勇者への攻撃から、兄の助言で矛先を切り替えた、あっさりと。

 兄が守り弟が攻めるという兄弟の連携に、増々盛り上がる闘技場。どちらが悪役化は一目瞭然だった。勇者が闘技に勝つことで戦争が終わるのだから、歓声を受けても全く不思議ではないはずなのだが、観衆全員敵だった。さて、その悪者の主役である勇者が魔法から直接攻撃に切り替えた。特技、覚醒より強撃。マジックポイントを3消費して通常時の1.2倍の攻撃力を得る。どうせアルベルトにダメージが通らぬのなら、という判断だった。また、回復の為にマジックポイントを温存しておきたかったのだろう。中級回復魔法の消費MPは6に対して、低級雷魔法は12。これで効果がいまいちとあらば攻め方を変えるしかない。まして強力な攻撃ができるのは勇者のみ。迷っている暇はなかった。3ターン目、勇者の強撃によるアルカレストのダメージは136。攻撃の切り替えが見事に成功した。

 ―このままではいずれ負ける―まずは自分が倒され、やがて弟アルベルト―そう判断したアルカレストの取った行動。それは自身の象徴でもある白銀の盾をアルベルトに託した。アルベルトの防御力と回避率が上昇し、さらに1ターンに30ポイント、自動でヒットポイントが回復する効果が一時的に発動した。防御面が大きく低下したアルカレストは次ターン、勇者の攻撃で戦線離脱。僧侶を真似て防御に徹し、回復魔法で体力をという選択肢もあったが、勝負を弟アルベルトに任せるのだった。

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