第10話 もはや俺、死んだんだが

「俺達の家って学校から近いよな」


「そうですね。歩いて15分ほどでしょうか」


「だな。で、この状況はどういうことなんだ?」


俺の左腕は現在、詩織によってホールディング中である。

利き腕であれば文句を言って外せるのだがそれすらも読まれて左腕である。

詩織はどこかご満悦で満足そうな顔をしていた。


「嫌ですか?」


「嫌ってわけじゃないけど確実に勘違いされるぞ?」


先ほども詩織と話していたように俺達の家は学校から近い。

つまりは周りにそれなりの数の生徒が同じように登校しているわけでかなりの視線を感じる。

詩織は入学したてなのに有名になりつつある美少女だし視線が痛すぎる。


「徹くんが私たちは『幼馴染』だと皆さんに説明してくださるんですよね?なら大丈夫ですよ」


「お、おう……」


やけに幼馴染の部分が強調されていたがいくら幼馴染といえど腕を組んでる場面を目撃されたら言い逃れは難しいのではないだろうか。

あとから俺に降り掛かってくるであろう試練に頭が痛くなってくる。


「俺だって口が上手いわけじゃないんだし誤解を解けなかったらどうするつもりなんだよ……」


「そのときはそのときです。それとも勘違いされて困る理由でもあるのですか?」


「大ありだ。もし詩織に好きな人が出来たら俺と付き合ってるって噂が流れてないほうがいいだろ?俺はそういうことを言ってんの」


後から後悔しても遅いのだ。

噂は広げるより失くすほうが圧倒的に難しいのだから。

そんなことで大変な思いをする詩織を見たくない。


「そ、そうやって私のことをすぐ心配してくださるんですね」


「当たり前だろ?それに俺はモテないからそういうのを気にする必要が無い」


「実際は泥棒猫はたくさんいるんですけどね……」


「ん?泥棒猫?」


「い、いえ!なんでもないです!」


割と普段の会話ではまず聞かないであろう単語が出てきた。

でも詩織がなんでもないと言うならば追及は諦めよう。

そこまで興味があるわけじゃないし詩織の様子を見るに教えてくれそうにない。

そうこうしている間に校門が見え始めてきた。


「さあ詩織、そろそろ離してくれ。流石に学校着いたら終了だ」


「教室までお願いします。徹くんにエスコートを頼みたいなぁ……なんて」


「駄目。学校では腕組むの禁止な」


「……徹くんのケチ。分かりました、離しますよ」


よかった……素直に応じてくれたか……

詩織は腕をスムーズに離し今度は手を握ってきた。

驚いて詩織の顔を見るとニッコリ笑って手をニギニギしてきた。


「えっと……離してくれるんじゃ……?」


「腕は離しましたよ?」


「そういう問題じゃないだろ……」


「お願いします♪」


「はぁ……今日だけだぞ……」


一日だけならまだ傷は浅い……はずだ。

ランニングもついてきてもらったわけだし今日は俺が折れよう。

登校中とは比べ物にならないくらい視線が集まってる気がするがこの際気にしたら負けだ。

しっかりと誤解を解いてある程度時間が経てば納まるだろう。


「ほら、靴履き替えるから離してくれ」


「むぅ……名残惜しいですが仕方ありません。離しますね」


靴を履き替えてからも手を繋ぐことが決定した。

どうやら詩織は本気で教室まで手を繋ぐ気のようだ。

手を繋いで俺を頼るくらい高校に入って新しいクラスが不安なのかな。

今まではそんなふうに思ったことは無かったけど周りにバレないよう押し殺していたのかもしれない。

詩織はそこまで人見知りじゃなかったような気もするがそんなときもあるだろう。と納得することにした。


「詩織……今まで不安だったんだな……これからは遠慮なく頼ってくれ」


「はい?頼らせて頂けるのは嬉しいですけどいきなりどうしたんですか?」


「手を繋ぎたくなるくらい高校での新生活が不安なんだろ?俺でよければいくらでも力になるよ」


「………………………」


詩織の呆れた表情と長い沈黙。

え?違うの?


「……なんとなく分かってました。素直に徹くんに伝わるはずがないって……」


「………なんかごめんなさい」


「いえ、徹くんが鈍感なのは昔から知ってますので気にしてません」


「うっ……そんなに言わなくても……」


詩織は拗ねてしまったようだ。

最近俺の不用意な発言で詩織を拗ねさせてしまっている。

今度詩織が俺の家に来るときに詩織が好きなケーキでも用意しておこうかな。


「……教室ですね」


「だな」


目の前には俺達の教室があった。

これで詩織との約束は果たせたわけだ。

めでたしめでたし。


「……あと少しだけ握らせてもらいますね」


「えっ!?あ、おいちょっと!?」


詩織にグイグイ引っ張られる。

女の子は大切にしろ、との母の教えが俺の抵抗の力を弱める。

そして───


「皆さん、おはようございます」


教室に連れ込まれ普段の何倍もの大きさで詩織が挨拶をした。

クラスメイトの視線が主に俺達の手へと集まる。


「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」


………俺、死んだかも。



───────────────────

10話書いて未だに部活無し。

だらけないようにしたいけどどうしても日常の部分が書きたい……!


意思の弱い砂乃をお許しください……そして☆とフォローをください……

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