最終話 もはや俺達は……

「詩織だよ。俺は詩織のことが好きだ」


「ふぇ……?」


「ずっとそばで支えてくれた。ずっと寄り添ってくれた。俺はそんな佐伯詩織のことが大好きだよ」


さっきまで言えなくてもどかしかったのに今回はさらっと口から出た。

人間腹をくくれば大抵のことはできるものだ。


「ほ、本当にですか……?」


「ああ、俺は本気だ。本気で佐伯詩織という一人の女の子が好きだって言ってる」


俺はしっかりと詩織の目を見て言う。

自分の気持ちは嘘じゃないと伝えるかのように。


「詩織は俺のことどう思ってる?」


俺が恐る恐る聞くと詩織はこっちに駆け寄ってきた。

そしてそのまま抱きつかれ詩織は顔を俺の胸にうずめる。


「そんなの……決まってるじゃないですか……」


詩織は顔を上げ俺を見てニッコリと笑う。


「大好きですよ……ずっとずっと……あなたが……徹くんが大好きです……」


「それじゃあ、俺と付き合ってくれる?」


「はい……!私は……10年以上ずっと……その言葉を待っていたんですから……!」


俺は詩織の背中にそっと手を回し抱きしめた。

詩織もそれに応えるかのようにさっきより強く抱きしめる。


重なった2つの影を月明かりが優しく照らしていた──


◇◆◇


晴れて恋人になった俺達はベンチに座り月を眺めていた。

お互い寄り添い合い手は指を絡めて繋いでいる。


「本当に夢みたいです……」


「待たせちゃってごめんね」


「本当ですよ……今まで徹くんに気づいてもらうために色々やってきたのに全然気づいてくれないんですから」


詩織はそう言って頬を膨らませる。

本当にその通りなので俺は苦笑いをすることしかできない。


「どうしたら許してくれる?」


「……私の好きなところを百個言ってくれたら許してあげます」


「そんなことでいいのか?」


「え?そんなことですか?結構難題を出したつもりなんですけど……」


舐めてもらっちゃ困るな。

俺と詩織は本当に長い付き合いなんだ。

詩織のいいところなんてそれこそいくらでも言えるさ。


「それじゃあ行くぞ?優しいところ、尽くしてくれるところ、料理上手なところ、努力家なところ──」


〜5分後〜


「意外と子供っぽいところ、運動上手なところ、健気なところ、あとは……」


「も、もう大丈夫です!これ以上は私が死んじゃいますから!」


いきなり詩織に止められたので何事かと思って詩織を見ると顔を真っ赤にし潤んだ瞳で俺を見ていた。

そこで俺は自分が暴走していたことに気づく。


「ご、ごめん。つい……」


「い、いえ……恥ずかしかったですけど……その、嬉しいですから」


そう言って詩織はモジモジする。

俺の彼女は世界一可愛いと今すぐ世界に伝えたい。

人間国宝に指定されてもいいくらいだ。


「でも、私だって負けませんよ。徹くんのいいところいっぱい言えます」


「言うじゃん。それなら今度勝負でもする?」


「いいですよ。望むところです」


そこまで言い合って俺達はつい笑みが溢れる。

こんな会話も彼氏彼女だからこそだ。

自分たちの関係が進んだことを改めて実感する。


「明日から、恋人らしいことたくさんしましょうね。それでたくさん思い出を作るんです」


「……ああ、そうだな。これから楽しみだ」


俺はこれからのことに思いを馳せる。

しかし一つやり忘れていることがあるのに気がついた。


「なあ、今やらないか?恋人らしいこと」


「どんなことですか?」


俺は詩織の頬に優しく手を添える。

自分の緊張を誤魔化すかのようにニコリと笑顔を作った。


「キス……してもいいかな?」


詩織は少し驚いたような顔をしていたけどその表情はすぐに笑顔に変わっていった。

そして首を縦に振る。


「大好きです……徹くん」


「ああ……俺もだ」


目をつぶり唇が重なり合う。

それは間違いなく、俺達が今日という日に一歩足を踏み出した証だった──



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