第22話 もはや俺は詩織のことが好きなんだが
「え……?」
目の前には顔を真っ赤にした詩織が立っている。
俺は手のひらで温かい感触のした場所を触り呆然とする。
「し、詩織……」
俺が呼びかけると詩織がハッとしたような顔をする。
「す、すみません!私ちょっとお手洗いに行ってきます」
そう言って詩織は走り去ってしまった。
俺はこの場に一人、取り残される。
(詩織に……キスされた……?)
驚きのあまり思考がぐちゃぐちゃになる。
混乱と驚きが頭の全てを占めていた。
(な、なんでキス……!?そうだ!海外には頬にくらいならキスは
当たり前の国もある!だからこれもきっとそうに……)
違いない、と思おうとしたけどそこで止まってしまった。
もし……ただの幼馴染であり親愛の証としてキスをされたのなら……それは嫌だと思ってしまう自分がいた。
でもどうしてそう思ってしまうのかがわからない。
それでもこの胸のモヤモヤは確かに存在していた。
(なんで……なんでこんなふうに思ってしまうんだ……)
「た、ただいま戻りました。徹くん」
俺が頭を抱えていると詩織が戻ってきた。
俺はどういう顔で詩織を見たらいいのかわからず恐る恐る振り返る。
すると詩織は少し気まずそうな顔をしながらはにかんでいた。
俺の心臓がドクンと跳ねる。
(な、なんでこんなにドキドキするんだよ……!相手は詩織だろ?家族みたいなものじゃないか……)
そう自分に言い聞かせるが胸の動悸は全く収まってくれない。
試合のときですらこんなにも心臓がうるさいと思うときは無かった。
(まさか俺……)
考えた末に行き着く一つの思い。
詩織の顔を見る度にキュッと心が締まるようなこの思いは……
(詩織のことが好きだったのか……)
◇◆◇
あれから色んなところを回ったが一度自分の気持ちを自覚してしまうと緊張がひどかった。
手を繋ぐだけで、笑顔を見るだけで、話しかけられるだけで心臓が跳ねるのにどこか嬉しくなってしまう。
(なんで今まで気づかなかったんだろうな……本当に俺は詩織にいつも言われてきたみたいに鈍感だ……)
今まで詩織とたくさんのことをしてきたがもし俺が自分の恋心を自覚していたら何かが変わっていたんだろうか。
でも今更過ぎたことを後悔しても何も変わらない。
大切なのはこれからどうするかだと野球をするうえで散々感じてきた。
(多分……詩織も好意を抱いてくれてるんだろうな……)
今思えば数え切れないほどのアピールをしてきたのだろう。
記憶にあるだけでも小学校高学年くらいからだ。
告白すればおそらく成功するだろう。
でも──
(もしそれが俺の勘違いだったら?幼馴染というこの心地良い関係を壊してしまうのが怖いんだ……)
今まで詩織にずっと支えられてきた。
ずっと一緒に過ごしてきた。
それを変えようとするのは勇気のいることであり恐怖を抱かせた。
それでも、この気持ちを自分の中だけで噛み砕くのは難しい。
気持ちを自覚した途端この気持ちは膨らむばかりだ。
告白しようとしてもどうしても言葉に詰まってしまう。
そして気づけば最寄り駅に降り家まで歩き始めていた。
「今日は楽しかったです。終わってしまうのが少し寂しいですね……」
「ああ……そうだな……」
詩織がつぶやいた言葉に俺も同意する。
結局まだ気持ちを伝えることが出来ていない。
あのキスの真意も聞けていない。
「あっ!徹くん見て下さい。月がとても綺麗に光っていますよ」
そう言って詩織は俺に優しく微笑みかける。
俺は顔が熱くなっていくのがわかった。
詩織が月を見ている姿はとても綺麗で目が離せなかった。
だめだ……ここで伝えなかったら絶対に後悔する……
勇気を出すならここしかないだろ!小杉徹!
「好きだ」
「私も月は好きです。綺麗ですよね」
「違う。そういうことじゃない。俺が言いたいのは……」
ここで一つ息を吸う。
これを伝えれば詩織の返事がどんなものであろうと俺達の関係性は確実に変わる。
それでも……俺は一歩先に進みたいと願った。
「詩織だよ。俺は詩織のことが好きだ」
「ふぇ……?」
「ずっとそばで支えてくれた。ずっと寄り添ってくれた。俺はそんな佐伯詩織のことが大好きだよ」
───────────────────────
次の話とあとがきをもってこのお話を終えたいと思います。
最終話は明日か来週には出します。
もしご要望があれば完結後のアフターストーリーも少しだけ書こうかなと考えています。
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