第12話 もはや負けられないんですが

徹くんの手によって私の作戦が失敗してしまって迎えた三限目。

私たちは体育の授業を受けるべく体育館に来ています。

なんとうちの学校の体育は男女共修なので隣には男子たちもいます。

流石に試合やペアを組んだりする時は性別で分かれますけど。


「それじゃあ今日からはバスケをやるぞ。準備運動をしたら二人一組になってくれ」


先生の指示を受け準備体操をします。

怪我をしてしまうと徹くんに心配されてしまうので念入りにします。

気にかけてくれるのは嬉しいですけど心配させたくありませんから。

準備運動を終え各自二人一組ができつつあります。


「佐伯さん!よかったら私と組まない?」


「野口さん。ええ、ぜひよろしくお願いします」


話しかけて下さったのは野口のぐち亜紀あきさん。

とても明るい方で女子にも男子にも人気の方です。

早速ボールを取ってきて野口さんとパスを回します。

横で男子がボールを本気で投げ合っていますが女子こちらはとても穏やかで平和です。


「そろそろ試合をするぞー!男女それぞれ4つのチームを作れ!交互にコートで試合を行う!」


そしてチーム分けを終え男子は左のコートに、女子は右のコートに入りました。

私は後半戦で試合です。

ふと隣のコートを見ると徹くんは前半戦に出るようです。


ピッ!!


先生が笛を鳴らし試合がスタートします。

一部の女子は男子の試合を観ていて男子の大半は女子の試合を観ています。

そういう私も男子の試合を観ているんですけどね。


「小杉!覚悟しろ!」


「期待させやがってこんちくしょー!」


徹くんにボールが渡った瞬間ブロックが厚くなります。

頑張ってください……!


「誤解は解けただろ!くどいぞお前らぁ!」


そう言って徹くんはあっさりと男子たちを左手一本のドリブルで抜き去ってしまいました。

バスケは突き指の可能性が高いので利き手じゃない左手を使っているのでしょう。

そのワンプレーだけで徹くんの運動神経の高さが分かります。


「すごーい!」


「小杉くんってやっぱりカッコいいよね……!」


徹くんは自分では気づいていませんが女子人気は高いです。

カッコいいところは私にだけ見せてくれればいいのに……

徹くんを見て他の女子たちが黄色い声を上げ心がモヤモヤとします。


「小杉くんって結構モテるよね。普通にカッコいいし」


「野口さんですか。徹くんがカッコいいことなんて昔から知ってます」


「そんなに拗ねないで〜!大丈夫だよ。徹くんを見てる女子たちも私も徹くんを狙ってるわけじゃないから」


「……なんでわざわざ私にそんなことを言うんですか?」


「え?だって佐伯さんって小杉くんのこと好きでしょ?」


野口さんから放たれた一言に私は唖然とします。

もちろんそう思われるために行動してきました。

でも面と向かって言われるのはどこか恥ずかしく頬が熱くなっているのが分かります。


「顔真っ赤だよ?大丈夫?」


「だ、大丈夫です……わかりやすかったですか?」


「それはそうだね。あんな乙女の顔を見せられたら察しがつくよ。あの表情の佐伯さんは本当にいつもの何倍も可愛かった」


やっぱりわかりやすいんですね……

なのにどうして徹くんは気づいてくれないんでしょう……

第三者に伝わってるのに本人に伝わっていないなんて……


「彼、付き合ってないって言ってるけど本当なの?」


「それは、本当です……」


「……なんかなんとなく分かってきた。小杉くんって筋金入りの鈍感なんだ……」


野口さんはドン引きの表情で徹くんを見ます。

ちょうど徹くんはレイアップでシュートを決めています。

しっかりと目に焼き付けました。


「もう昔からずっとなので慣れ始めてきちゃいましたけどね……」


「……苦労してるね」


そんなことを話していたら私たちの出番になりました。

コートに入る前に少し徹くんと話したくて徹くんを探します。

徹くんは隣のコートで汗を流しながら男子と何やら話しています。


「徹くん!」


「おお、詩織か。見てくれてたの分かったぞ。ありがとな」


「かっこよかったです。次は私が試合に出るので……その、見ててもらえませんか?」


「もちろんだ。頑張れよ。応援してる」


「………!はい!頑張ります!」


徹くんの応援を受けて気合が入りました。


この試合、授業であろうが負けるわけにはいきません。

試合で活躍して凛々しい姿を徹くんに見せるんです。

可愛いや綺麗だけが女の子の魅力じゃありません。

全部網羅して、駆使して徹くんを絶対に落とすんですから!


「皆さん……絶対にこの試合勝ちますよ……!」


結果は詩織チームの圧勝だった。

完膚なきまでの圧倒的な勝利。

詩織は一人で二桁得点以上決め、ディフェンスも鉄壁。


以降男女から圧倒的尊敬の眼差しを受け、彼女の学校での評判が上がったのはまた別のお話。



───────────────────────

恋する乙女を止めるものは無し。

詩織視点のお話でした。


あと、このお話は2日に一回更新に変更いたします。


https://kakuyomu.jp/users/brioche/news/16818093074829099230


砂乃の言い訳(砂乃的には真剣)を聞いてくださる方はこちらを見て下さい。

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