第20話 もはや最近買ったばかりなんだが

「それで?詩音さんは何を買えって?」


「まずは救急箱の中身の予備。他には細かなものが多いですね。あとちょうどいいので洗剤も買ってしまいましょう」


どうやら洗剤も足りないようだ。

野球部はタオル類などかなりの洗濯物が出る。


「分かった。薬局から行こうか」


今回の備品を買うだけならばぶっちゃけ近場でも買える。

だけどせっかくの休日だし仕事さえすれば俺達の自由なので買い物を終えたあとは軽く遊ぶ予定にしているのだ。

何をするかは全く決まってないけど。


「大抵のものは薬局で買えそうです」


「そうだな」


薬局に到着したリストを確認しながら買い物かごに入れていく。

本当なら手分けした方が効率が良いのだがそういう雰囲気では無かった。

俺は左手でかごを持ち右手は今も詩織の手が握られている。


「これで全部か?」


「ちょっと待ってください……はい、全部入ってますね」


詩織がリストを再確認しながら頷く。

どうやら大丈夫のようだ。

俺達は買い物かごをレジに持っていく。

詩織が詩音さんから預かっていた部費を取り出し会計を済ませる。


「さて、これで大体の買い物は終わったわけだが……これからどうする?」


「そうですね……徹くんは何かやりたいことはありますか?」


「うーん……」


そう言って俺は考え始める。

俺がやりたいこと……


「それじゃあグラブのオイルが減ってるから買いに行ってもいいか?ついでに色んな道具を見たい」


「いいですね。ぜひ行きましょう」


そんなわけで俺達は大手スポーツショップに移動する。

独特の匂いや雰囲気に包まれた店内を移動し野球のコーナーに行く。

そこにはバットやグローブを始めとした数々の道具が整理されながらも所狭しと置かれていた。


「えーっといつものオイルは……」


「これじゃないですか?」


俺がいつもグローブの手入れに使っているオイルを探していると詩織がいち早く見つけた。

俺はそこから二つ取り出した。


「俺が使ってるオイルなんてよく分かったな」


「ふふ。いつも徹くんのことを見てますから」


「それはありがたいことだ」


「徹くんだけ特別、ですよ?」


そう言って詩織はいたずらっぽく笑う。

不覚にもその表情と仕草に少しドキッとしてしまったのは秘密だ。


「ち、違う道具も見てくる」


「あ、逃げないでくださいよ〜」


そう言って詩織はあとをくっついてきた。

俺が道具を一つ一つじっくり見る。

こういうのは見てるだけでもテンションが上がるものだ。

詩織も近くで興味津々きょうみしんしんと言った様子で道具を見ている。

そして5分ほど見て回った頃。


「見て下さい徹くん!」


「ん?どうした?」


俺を呼んだ詩織の手にはバッ手(バッティング手袋)があった。

メーカーを見ると超大手が作っているものだ。


「これがどうしたんだ?」


「さっき試着したんですけどね。入れた感じが凄くよかったので徹くんに紹介してみようかな、と思いまして」


この手のスポーツ店ではバッ手の試着ができる。

もちろん商品をパッケージから取り出すことは出来ないから試着用のものが置かれている。

それよりも詩織の表情だ。

かなり自信があるような顔をしている。

だが……


「ごめん。最近バッ手は買ったばかりなんだ。試すくらいならいいけど買うのは難しいかな」


俺がそう言うと詩織はガーンといった表情になる。

すごく申し訳ないけど野球をするには他のスポーツと比べてかなりのお金がかかる。

一つの道具ばかりにお金をかけるわけにはいかなかった。


「いえ、大丈夫ですよ」


「悪いな」


でもせっかく詩織が進めてくれたのだからと試着だけはしてみる。

手にしっかりフィットしていて素材の感じが俺好みだった。

かなり良さそうだし次からはこれにしようかな……


「確かにすごくいい」


「それはよかったです!」


詩織が嬉しそうに笑う。

そして何やら考え込み始めた。

時間にして30秒ほど、詩織は顔をバッと上げた。


「徹くん」


「どうした?」


「私、これ買います」


「詩織が?バッ手を?」


一応言っておくが野球関係者と言ってもバッ手を使うのは選手やノッカー(ノックを打つ人)などグラウンドに立つ人だけだ。

決してマネージャーが使う道具ではない。

それなのに買ってどこで使うんだ?


「はい。ちゃんと使い所は考えてますよ」


「どこで使うつもり?」


「ふふ。今からに行きませんか?」


詩織から出た場所は全く想定していなかった。

だが同時に面白そうだと思ったのも事実だった。


こうしてバッセンデートが決定した。


──────────────────────

感謝!


柊星海 様


おすすめレビューありがとうございました!



この作品はフィクションです。

なので現実の野球部には週末にオフなんて存在しませんがこの作品では週休二日という超絶ホワイト体制でお送りしております。

まあスポ根ものではなくラブコメなのでお許しください。


野球をやっていた方はバッ手のことをなんと呼んでましたか?

砂乃はバッ手かバチグロ(バッティンググローブ)の2通りでした。

他の呼び方とかあったらぜひ教えてください。

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