第19話 もはや可愛すぎるんだが
迎えた週末。
俺は最寄りの駅前に来ていた。
理由としては詩音さんに頼まれた備品の買い出しに詩織と行くためだ。
なんでか知らないが家が隣なのに詩織の要望で駅前に待ち合わせをすることになった。
忘れ物したりとか何かしらのアクシデントがあったときに対応しやすいから家の前で待ち合わせの方が良いと思うんだがなぁ……
「それにしても今日は天気がいいな。お出かけ日和ってやつだな」
今日は雨なんて降りそうもない快晴だった。
まだ春なのに少し暑い。
「しかしどうしようかなぁ……少し早く来すぎたな……」
休日に駅前で集合となると約100%の確率で詩織はナンパされる。
それを防ぐために今日は早めに家を出たのだ。
俺の幼馴染は自慢だがあまりにも容姿が整いすぎていても大変なんだな、と思う。
「ねえねえそこの坊や」
「はい?僕ですか?」
「そーそー。ちょっとさ、お姉さんたちとそこでお茶でもしない?お金は私達が出すからさ〜」
いきなり二人の女の人に声をかけられたかと思えばお茶に誘われた。
しかも馴れ馴れしく手まで掴んでくる。
正直だるいが手を振り払うわけにもいかない。
なんとか作り笑顔をして対応する。
「すみません。人を待っているもので……」
「じゃあその人も一緒でいいから行こうよ〜」
「ていうかその人全然来ないじゃん〜」
本当にああ言えばこう言う!
なぜこんなにも馴れ馴れしく面倒くさいのだろうか。
俺が断ってるのをものともしないでグイグイくる。
ナンパって怖ぇ……あ、この場合は逆ナンか。
「あのですね。連れを待ってるので!」
「え〜!いいんじゃん」
振り出しに戻った。
もう呆れて言葉も出ない。
こういうときはどうするのが正解なんだろうか。
俺が途方に暮れていたとき。
「すみません!遅れちゃいました!」
「おー!来てくれたか詩……!」
これ幸いと後ろを振り向くと詩織が少し息を切らして立っていた……んだが……
なんか今日の詩織めちゃくちゃ可愛くない!?
白いワンピースがとても可愛らしく普段はしない化粧も薄くしていた。
思わず息を飲み言葉を失う。
「すみません。彼、私の連れなんです。手を離してもらってもよろしいですか?」
「は、はい。お邪魔してすみませんでした」
詩織が笑顔で話しかけるとさっきまで俺が何を言っても聞かなかったのにあっさり退いた。
それくらい今日の詩織は可愛かった。
「すみません、徹くん。準備に手間取ってしまって……」
「え?あ、いや。全然大丈夫だぞ」
詩織が美少女だということは前々から知っていたはずなのに今日は話すのも少し緊張する。
今日の詩織は一味違うな。
なんというか、こう……オーラを放っているっていうか……芸能人だと言われたら素直に納得してしまう気がする。
「それでは、気を取り直して行きましょうか」
「お、おう。そうだな」
俺と詩織は駅に向かって歩き始める。
しかし歩いて数歩で詩織が俺との距離を詰めてきた。
珍しく香水でも付けてるのかめちゃくちゃいい匂いがする。
俺、香水得意じゃなかったはずなのになぁ……
「どうした?」
「いえ、ただ……」
詩織が手を繋いできた。
いわゆる恋人繋ぎというやつで指と指を絡め合っている。
「手をつなぎたいなって……嫌ですか?」
「だ、大丈夫。嫌じゃないぞ」
今思えば詩織に腕をホールドされることはあっても手を繋ぐことはなかった。
更には密着度の高い恋人繋ぎ。
すごくドキドキして緊張感が高まった気がした。
もう何年もの付き合いで一回きりの水着付きで風呂に一緒に入ったのになんで今さら緊張するんだって話だけどな。
「あれ?もしかして詩織。緊張してる?」
「し、してません。大丈夫ですよ」
しかし詩織の顔はリンゴが熟れたかのように真っ赤になって少しうつむいていた。
どうやら詩織も恥ずかしいらしい。
俺ももれなく顔が赤くなってると思うが不思議と手を離したいとは特に思わず逆に少し幸せな気分だった。
俺たちの間に沈黙が流れる。
それは改札を抜け電車の席に着いても変わらなかった。
繋がれたその手と同様に。
「いつまで繋ぐんだ?」
「今日、家に帰って別れるときまでですかね」
「ん。そうだな」
普段だったらもっと早く離れておけよと言ったかもしれない。
でも今日はそんなことを言う気分ではなかった。
繋ぐなら俺も異論はない。
俺達は指を絡め合ったままお互いの方向へ少し体重を傾けた。
肩がくっつき服越しにわずかに詩織のぬくもりが伝わってくる。
今日は良い一日になりそうだ。
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詩織さん本気のお洒落!
お姉さんたちも勝てないと踏んで逃げ出しました笑
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