After3 もはやマネージャーだった幼馴染は……

「起きてください、徹くん……」


「ん……うん……?」


優しい声が聞こえてくる。

聞いていると安心できる、そんな声。


「………ふわぁ」


何度か声をかけられて少しずつ意識が戻ってくると目の前に愛するの顔があった。


「おはようございます、徹くん」


「……おはよう、詩織」


「朝ご飯がもうすぐできるので先に顔を洗ってきてください」


「わかった。いってくるよ」


俺は言われた通り顔を洗うと意識は完全に復活しさっぱり目が覚めた。

リビングに移動すると美味しそうな朝食がテーブルに並べられていた。


「作ってもらっちゃってごめんね」


「いえいえ、私がやりたくてやってることですから」


「本当にありがとう」


俺と詩織は向かい合って座り手を合わせる。

そしていただきますをして食べ始める。

まずは味噌汁からだ。


「ん……美味しい……また腕を上げたんじゃないか?」


「おばさまからきっちり習いましたから。それに徹くんの好みの味で作ってますし」


確かに具材も俺の好きなものばかりだしこの地域では珍しい赤味噌が使われている。

懐かしの味と詩織の家庭的な味が合わさり本当に美味しい。


「昔から料理上手かったけど今はもう別格だなぁ……料理店開けるんじゃないか?」


「ふふっ、ありがとうございます。老後に徹くんと二人でお店を開くのも楽しいかもしれませんね」


そう言われてちょっと想像してみる。

うん、絶対に楽しい。

アットホームで常連さんと仲の良い定食屋とか憧れるよなぁ……


「それじゃあ頑張って働かないとな」


「そうですね。私も頑張って働きます……!」


「はは、あんまり無理はしないでよ?」


「大丈夫です。ちゃんと分かってますよ」


「そう……?ならいいけど……」


詩織は頑張りすぎちゃうところがあるからな。

つい心配してしまう。


「あっ!ご飯粒ついてますよ」


「えっ?どこ?」


「取ってあげますからじっとしてください」


そう言って詩織は軽く身を乗り出しご飯粒を取ってくれる。

そしてそれをパクリと食べた。


「はは、今みたいなの高校のときにもあったよな」


「そうでしたね。あのときは恥ずかしすぎて死んじゃうかと思いました……」


「今では良い思い出だな」


「そうですね……今では結婚してるわけですし時間の流れは早いものです……」


詩織は懐かしそうな表情をする。

俺も多分似たようなものだろう。


「あ、そろそろ時間だな。着替えてくるよ」


俺は寝室に戻りスーツに着替える。

新卒のときは堅苦しかったものだが今では慣れたものだ。


スーツに着替えた俺はカバンを持って玄関に行く。

出勤が俺よりも遅い詩織が見送りにきてくれる。


「これお弁当です。今日はハンバーグを入れてありますよ」


「やった……!詩織のハンバーグは美味いからなぁ……」


初めて詩織の手作り弁当を食べてからハンバーグ弁当が俺の一番のお気に入りだった。

冷えても硬くならずしっかり肉汁が閉じ込められていて本当に美味しい。


「それじゃあ行ってくるよ」


「はい。いってらっしゃい」


俺は詩織と行ってきますのキスをする。

これはもう同棲したときからの習慣だった。

そして同棲のときから最近変わった習慣が一つある。


元気に育ってね」


俺は詩織のお腹に優しく手を当てて話しかける。

まだ目立ってはいないが確かに宿る小さな命。

俺と詩織の愛の結晶だった。


「聞こえてるかな」


「大丈夫です。ちゃんと聞こえてますよ」


俺はもう一度優しく詩織のお腹を撫でる。

まだエコーでしか見たことない小さな小さな存在が愛しくてたまらなかった。


「ありがとう、詩織。俺と結婚してくれて」


「私こそ感謝ですよ。ありがとうございます、徹くん」


俺たちは顔を見合わせて笑いあう。


温かくて幸せに溢れた家庭が確かにそこにあった。

二人、いや三人に幸多からんことを……

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部活のマネージャーをしてくれてる幼馴染、サポートのレベルがもはや奥さんなんだが 砂乃一希 @brioche

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