After1 もはや最高の昼寝なんだが

「おじゃまします」


「ああ、上がってくれ」


詩織と付き合い始めて少し経ったくらいのある休日のこと。

今日は家に詩織が遊びに来た。


「あらあら詩織ちゃんいらっしゃい!今日は来てくれてありがとうね〜」


「こんにちは、おばさま。今日は料理を教わるわけでもないのにお邪魔してしまってすみません」


「いいのよ〜!毎日でも来てほしいくらいなんだから〜!」


「挨拶は済んだだろ?俺の部屋に行こう」


親が自分の彼女と超ハイテンションで話しているのはなんだか恥ずかしい。

会話を少々強引に断ち切って詩織に言う。


「え〜もうちょっと詩織ちゃんとお話させてくれてもいいじゃない」


「母さんが楽しく喋ってたら日が暮れるだろ」


「言われてみれば確かに……まあいいわ。詩織ちゃんゆっくりしてってね?」


「あ、はい」


母さんは自分でも納得したのかリビングに戻っていった。

俺と詩織は顔を見合わせて苦笑し俺の部屋に移動する。

そしてベッドに並んで腰掛けた。


「全く母さんにも困ったものだな……詩織と付き合ったって報告した途端絡んでくる頻度が増したというか……」


「私の家族もそうですよ。特上の寿司の出前を頼んで家族総出のお祝いがいきなり始まりましたから……」


「それはなんとも……」


詩織は末っ子だからか佐伯家みんなに愛されてるんだよなぁ……

付き合う前から娘をあげるとか言われてたのはどうかと思うけど。

まぁ反対されるよりは何倍もいいか。


「それで今日はどうして家を選択したんだ?」


いつも休日は外でデートをしていて詩織が家に来るのは母さんに料理を習うタイミングがほとんどだった。

ただ今日は詩織がおうちデートにしようと提案したので家でのんびりすることになったのだ。

文句はないが少し疑問。


「いえ、徹くん少し疲れてるようでしたので今日はのんびり過ごした方がいいなと思っただけです」


「……気づいてたのか」


最近は夏の大会に向けて少しずつ練習が厳しくなったり練習試合が増えてきている。

いくらうちが弱小と言えど中学野球と高校野球は文字通り次元が違う。

高校1年の俺には多少体に疲れが出始めているのも事実だった。

まだプレーには支障は出てなかったのにまさか詩織に気づかれていたとは……


「もちろんですよ。何年徹くんを見てきたと思ってるんですか。それにマネージャーとして選手の状態の把握も大切な仕事ですから」


「……流石としか言いようがないな。今日はありがたくゆっくりさせてもらうよ」


「ふふ、そうしてください。ではこちらにどうぞ」


そう言って詩織は自分の太ももを軽く叩く。


「……どうしてそうなるんだ?」


「そっちのほうがいいかと思いまして」


「それだと詩織が疲れるだろ……」


「私は大丈夫ですから。遠慮しないでください」


「わっ!」


詩織に軽く引っ張られ気づけば左頬に柔らかい感触が伝わる。

適度に弾力があり男には絶対にないしなやかさのある感触。

上を見上げれば2つのお山とこちらを笑顔で見下ろしている詩織の顔があった。


「……随分強引だな」


「でもこういうの好きですよね?」


「……………まぁ」


「ふふっ、でしたらそのまま楽しんでいてください。私も楽しみますから」


そう言って詩織は俺の頭を撫で始める。

俺も上を向いたままなのは目に毒なので横を向く。

若干の気恥ずかしさももちろんある。


「俺の頭なんて触ってて楽しいのか?」


「意外と楽しいものですよ」


詩織の楽しそうな声が上から聞こえてくる。

本当に楽しいものらしい。

俺にはどんな良さがあるのか検討もつかなかったが10秒後には詩織の太ももの魅力に押され気にしないようになり始めていた。


……これ最高。


◇◆◇


膝枕してもらい始めてから5分ほど。

俺は強烈な眠気に襲われていた。


「眠そうですね、徹くん」


「……あぁ。正直眠い……」


瞼が重くなって閉じたり開いたりしている。

もはやこのままいつ眠ってしまってもおかしくない。


「その体勢ではよく眠れないでしょう。ですのでこういうのはいかがですか?」


詩織にベッドに寝転がるように言われたので俺は素直に横になる。

何をするのかと思って詩織を見ていると詩織は俺の腕の中に潜り込んできて中から顔を出した。

腕の中から上目遣いでこちらを見ているのがすごく可愛い。


「一緒にお昼寝しましょ?」


「……ああ。一緒に寝よう」


俺はぎゅっと詩織を抱きしめてそう言う。

詩織の体温を感じながら徐々に瞼が重くなっていく。


……いい夢が……見れそう……だ。

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