第17話 もはや好みを把握しているんだが

結局その日は部活が終わりプンプンと怒っている詩織をなだめながら帰った。

本当に出かけるのを楽しみにしていたんだな。

この様子なら詩音さんと口も聞かなくなってしまうのではないだろうか。


「本当にありえないです……」


「まあまあ。仕事なら仕方ない部分もあるし」


「でもそれは兄さんが……!いえ、やっぱりなんでもないです」


詩織は何かを言いかけてやめた。

さっき説教してたときに何かを聞いたのだろうか。

事情があるならぜひとも教えて欲しいものだが。


「まあ詩音さんをそんなに怒らないでやってくれ。あの人も悪気があって俺達に仕事を振ったわけじゃないと思うから……多分」


「徹くんがそう言うなら……分かりました」


詩織は渋々といった様子ながらも首を縦に振った。

どうやら佐伯兄妹は破綻せずに済みそうだ。

今度詩音さんに何か奢ってもらおうかな。


「そういえば詩織っていつから母さんに料理を習うんだ?」


「とりあえず来週の土曜からお願いする予定です。週2、3回ほどお邪魔させてもらえればと」


「詩織なら大歓迎だよ。両親も間違いなく喜ぶ」


俺の言葉に詩織は嬉しそうに微笑んだ。

両親は詩織のことが大のお気に入りだし食卓の雰囲気がいつもの何倍もよくなる。

俺としても詩織が来てくれるのは嬉しいことだった。


「徹くんも嬉しいんですね」


「まあな。確実に食事が美味くなるのは間違いない」


「そうですか」


詩織は顔を赤くしてそっぽを向く。

耳まで赤くなっていたから誤魔化すことはできていないが。

熱でもあるのか?


「大丈夫か?顔真っ赤だぞ?」


「大丈夫ですっ!どうしてそういうのは気づくんですか……」


「ご、ごめん……」


そんなことを話していたらお互いの家に到着した。

別れの挨拶を言いそれぞれの家に帰る。

早速シャワーを浴び、リビングに行って食事を開始するのがルーティンだ。

今日の夕飯を両親と軽く雑談を交わしながら食べ進めていく。


「ご馳走様」


「あら、早いわね」


「ちょっとバット振ってきたいから」


俺は食器を流し台に持っていき親にそれだけ伝えてからバットを持って外に出る。

そしてそのまま自転車で近くの公園に向かった。

その公園は遊具は少なく狭いところだったが小さいときは詩織や詩音さんともよく遊んだ思い出の場所だった。


「さて、始めるか……」


早速バットを振り始める。

素振りというものはただ振り回せば効果が出るというものじゃない。

一回一回形を意識してピッチャーが投げるボールを想像しながらなおかつ速く振る必要がある。

それが何日、何年と繰り返すことによってようやく一本のヒットが生まれるのだ。


30分ほどこの作業を繰り返す。

簡単に見えて素振りというものはかなり疲れる。

本気で振ればなおさらだ。

流れ出てくる汗を拭い俺は一つ息をついた。


「お疲れ様です」 


「詩織……」


声のする方を見ると詩織がベンチに座ってこちらを見ていた。

最近いつのまにかいる、ということが多い気がするな。

俺は歩き出し詩織の横に座った。


「どうしてここにいるってわかったんだ?」


「おばさまからここでよく素振りをしていると聞きましたので。もしいなくても散歩ついでなので問題ないですよ」


そう言って詩織は横に置いてあった小さなカバンを漁り始める。

そして出てきたのは小さなおにぎりだった。


「夜食を作ってきました。食べますか?」


「欲しい。もらってもいい?」


「もちろんです」


詩織から一つおにぎりを受け取る。

おにぎりはアルミホイルに包まれていたので具材はわからなかった。

でも俺は特に好き嫌いはないから問題なしだ。


「いただきます」


俺はぱくりとかじりついた。

口の中に塩の味と米の甘みが広がる。

1つ目のおにぎりは塩むすびだった。

俺の好きなおにぎりの具材の1つである。


「美味い。詩織って本当に塩むすび作るの上手だな」


「えへへ……ありがとうございます。たくさん練習したんです」


どうやらたくさん練習したらしい。

家族に塩むすびが好きな人がいるのかな。

この絶妙な塩加減は一朝一夕では絶対に不可能だ。

たくさん練習したというのも本当なのだろう。


「美味しかった。他にも貰っていい?」


「はい。好きなだけ食べてください」


そう言われ詩織が持ってきていたおにぎり3つ全てを食べきった。

おかか、昆布、塩むすびと全て俺の好きな具材でぺろりと平らげてしまった。

好みを把握してくれているようだ。


「はぁ……ご馳走様。本当に美味しかった」


「お粗末様です」


軽い小腹に丁度よい量だった。

汗もいい感じに引いている。


「そういえば俺がいなかったときおにぎりはどうするつもりだったんだ?」


「兄さんにあげるつもりでした」 


俺、食べないほうがよかったのかな?

詩音さんに絶対恨まれるぞ……

まぁ言わなきゃバレないし別にいいか。


「それじゃあ俺はもう少し振ってくるよ。詩織は自分のタイミングで帰っていいから」


「ふふ、ここで見てます」


そして俺は200回ほどバットを振り素振りを終えた。

もちろん帰り道は詩織も一緒であった。


────────────────────────

詩音くん、自分の知らないところで妹の手作りおにぎりのチャンスが消えた。

まあこれも自業自得……なのかな?



本日の9時5分から新作を公開!

タイトルは……


『どうやら僕はラノベ世界の聖女の幼馴染らしい、学園で数年ぶりに再会したらなんかヤンデレになってるんだけど?』


https://kakuyomu.jp/works/16818093074752962029


です!


これは予定してたものじゃありませんがとりあえず出します!

出した理由はこちらをご覧ください。


https://kakuyomu.jp/users/brioche/news/16818093075403382706


限定ノートにてお知らせしていた新作は投稿までもう少し時間がかかりますのでもうしばらくお待ちください!

4月中には必ず出します!

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