第16話 もはや邪魔しかされないんですが
俺達の学校、大木高校の野球部はいわゆる弱小だ。
にもかかわらず今年の新入生は多い。
その理由は明確で──
「あと1分です!」
ストップウォッチを持って後ろから声をかけている美少女マネージャーの存在だ。
つまり詩織が野球部に入ると聞きつけた連中が新入生に多く集まったのだ。
本来、スポーツは邪な理由で始めると中々続くものではないがうちの部活は練習がゆるい。
辞める者は少なかった。
「っ!」
今はバッティング練習。
一台のマシンとバッティングピッチャーを二人つけることで3人同時にバッティングしている。
俺もマシンのゲージでバッティングだ。
「ありがとうございました!」
持ち時間を終え挨拶をして後ろに回る。
これを何セットか繰り返し守備の班と交代するのだ。
「調子いいみたいだな。徹」
「詩音さん。そうですね、悪くないと思います」
後ろに回ると同じバッティングの班だった詩音さんが話しかけてくる。
俺は汗を拭いつつ答える。
「お前は期待の星だもんな。このまま練習試合で結果を残せばシード権も出られるかもだぞ」
「そうだと嬉しいですね。試合に出られるように頑張りますよ」
シード権というのは甲子園に続く県予選のシード権をかけた大会のことだ。
かなり早いタイミングで開催されるため出られないかもしれないと思っていたが希望はあるらしい。
「おっと。俺の出番だな。じゃあ打ってくるよ」
「はい」
詩音さんの番になったらしく張り切ってゲージに入っていった。
俺はそれを見送って素振りを始めた──
◇◆◇
ミーティングを終え、今日の部活が終わったとき詩織がタオルを持って話しかけてきた。
「お疲れ様でした。今日も頑張ってましたね。これ、タオルです」
「ありがとう。助かるよ」
詩織からタオルを受け取り汗を拭く。
風が吹くと涼しくてなんとも言い難い気持ちよさがある。
そのまま詩織と少しだけ雑談していたのだが……
「詩織!徹!ちょっと来てくれ!」
「詩音さん?どうしたんだろう」
「わかりません。とりあえず行きましょう」
詩音さんに俺と詩織だけ呼び出される。
何を言われるのかと思ったが詩音さんは爽やかな笑顔だった。
逆に不安になってくるのはなぜだろう。
「どうしたんですか?」
「実は二人に頼みたいことがあってな」
「「頼みたいこと?」」
俺達の疑問に詩音さんは頷く。
そしてこう切り出した。
「実は二人に備品の予備を買ってきて欲しくてな。これがメモだ」
渡されたメモにはびっしりと備品の名前が書かれている。
これを全て買うとなると時間はかなりかかってしまうだろう。
「二人きりで休日に買ってきてくれ」
二人きり、という部分を強調したと思ったら詩織に向かってサムズアップする。
イケメンがウインクしているとそれだけで画になるな。
「分かりました。行ってきます」
「分かりました……」
休日は詩織と遊びに行く予定だったが買い出しを頼まれたら仕方ない。
詩織はどこか沈んだ表情をしていて楽しみにしてくれていたことが分かるがどうしようもない。
「兄さん……恨みますよ」
「え!?」
詩音さんは詩織がこんなことを言うのが想定外だったらしく心から驚いた表情をしていた。
本当によく表情が変わる人だ。
「面倒なら俺1人で行ってきてもいいよ」
「いえ!私も一緒に行きますよ」
疲れてるだろうから俺1人で行ったほうがいいのかもと思ったが詩織も来てくれるらしい。
まあ1人より2人の方が楽しいし正直助かる。
「それと兄さん?少し来ていただけますか?」
「は、はい………」
「すみません。徹くん。私達は少々席を外します」
「お、おう……」
そう言って詩織は詩音さんを引きずっていった。
詩音さんが正座しているので間違いなく説教だろう。
◇◆◇
「どうして怒ってるんだ?俺はせっかく休日に二人でいられるようにわざわざ仕事を作ったのに!」
「わざわざ作らないでください!せっかく徹くんとデートの約束をしていたのに……」
「え……!?」
本当に兄さんは余計なことをしてくれました。
わざわざ仕事を作ってデートの予定を潰してくるなんて……
「ご、ごめん……デートの約束があるなんて知らなかったんだ!」
「兄さんの手助けは必要ないと先程言いましたよね?」
「は、はい……」
「もう二度としないでください」
「分かりました……」
─────────────────────────
応援しようとしてるのに空回って邪魔をしてしまった詩音くんでした。
わざわざ仕事を作るって………………
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