第15話 もはや心当たりが無いんだが

キーンコーンカーンコーン


たった今、本日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

つまりここからは放課後と呼ばれる時間であり部活があるのだ。


「詩織、行こうか」


「はい」


詩織が横に並んでくる。

特に会話も無くスピーディーにグラウンドへ向かう。

そして選手は部室で着替えマネージャーはマネ室で着替えるのだ。


「それじゃあまた後でな」


「はい。私も着替えてきます」


俺は詩織と分かれて部室に向かった。

ガチャリ、とドアノブを回し中に入ると少し汗臭い空気と大音量に迎えられる。


「来たか!徹!!!!」


「詩音さん……」


目の前で叫んでいるイケメンの名前は佐伯さえき詩音しおん

名字からもわかる通り詩織の兄で俺も昔からお世話になっている。


「お前詩織の心を弄びやがって……!気づいてやってやがるだろ!?」


「そんなことしてませんって……」


ただここ最近の詩音さんはなぜかいつもこの調子だ。

昔は優しいお兄さん、という印象だったのに今では濡れ衣着せてくる超シスコンになっている。

俺は遅刻するのは勘弁なので着替えながら応答を始める。


「詩織がなぜお前を気にかけているのかわからんのか!?」


「本人いわくマネの仕事だからって言ってましたけど」


「そんなわけあるか!それならもっとお兄ちゃんの手伝いををさぁ……してくれてもよくない?」


「知りませんよ……」


急に弱々しくなった。

俺にそんな質問をされてもどう答えろというのだろうか。


「いいか?詩織は完璧で可愛くて気遣いができる最高の女性なんだぞ?貴様それの何が不服なんだ!!!」


「不服なんてありませんよ。詩織にはいつも感謝してます」


俺は着替え終わり道具を持って外に出ようとする。

詩音さんは詩織の魅力を語り続けたまま着いてくる。

詩織のいいところなんてかなり俺も分かっているほうだから新鮮な情報は特に無いけど。


「兄さん……?徹くんに何をしているのですか?」


「ヒッ……」


後ろから低い声が聞こえてきて詩音さんが悲鳴を漏らす。

後ろにはジャージ姿の詩織が立っていた。

着たら全員がださくなるであろううちの高校のジャージを着こなしまるで最先端ファッションのようだ。


「兄さん?徹くんに何をしているのですか、と聞いているんです」


「そ、それはだって徹が詩織の心を弄んでいたから……」


「余計なことを言わないでください。これは私がやるべきことです。兄さんの手助けなんて全くもって必要ありません」


詩織は有無を言わせない雰囲気で詩音さんの言い訳を切り捨てる。

というかめちゃくちゃ怒っている気がする……

詩音さんなんて今にも泣き出しそうだ。

シンプルにビビっているのと妹から怒られたという事実がショックなのだろう。


「それに徹くんは私の心を弄んでなどいません。素でやってらしゃいますので」


「お前……マジか……」


めちゃくちゃでかいため息と共に憐れみの目を向けられる。

なぜこのタイミングで俺が憐れまれなくてはいけないんだ?

客観的に見たら一番憐れまれる立場なのは詩音さんだと思うのだが。

いや、自業自得だし憐れむ立場でもないか。


「とにかく兄さんはこれ以上余計なことをしないでください」


「分かりました……」


そう言って詩音さんはグラウンドに向かってトボトボ歩いて行った。

この場に詩織と二人きりになる。


「兄さんがすみません。余計なことを言ってしまったようで」


「いや、気にしてないよ。それより俺が詩織を弄んでる、とは?何か俺に非があったなら教えてほしい」


「そうですね……徹くんが気づいてくれるまで待ってあげます。ですから考えてみてください」


そう言って詩織はいたずらっぽく微笑む。

怒っている、というわけではなさそうでひとまず安心した。

待ってくれるとのことなので今度ゆっくり考えてみるとしよう。


「分かった。考えてみるよ」


「はい。私も女の子なので徹くんから言って欲しいですから」


そう言って詩織は走り去っていった。

走り去る前にちらりと見えた顔は何かを期待しているように見えた。


「さて、これから部活だ。切り替えよう」


俺は頬を軽く叩く。

そしてグラウンドへ歩き出した。


────────────────────────

シスコンの詩織の兄、詩音登場。

15話目にしてようやく部活が始まりそうだ……


徹の鈍感エピソードが長すぎましたね(汗)


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