第14話 もはや俺はもらいすぎてる気がするんだが

「徹くん。お昼ご飯一緒に食べませんか?」


昼休みになり、真っ先に詩織に誘われた。

俺としても断る理由は無いし首を縦に振る。

俺は椅子を180度回転させて後ろの席に座っている詩織と向き合う。


「机、俺も使っていいかな?」


「ええ。構いません」


詩織の同意が得られたことで俺も詩織も同じ机で番弁当を広げ始める。

俺は大きめで米重視、詩織は小さめで栄養重視なのがぱっと見でわかる。


「「いただきます」」


俺達は早速弁当を食べ始める。

すると俺の弁当を見て詩織が口を開く。


「徹くんのお弁当美味しそうですね」


「いるか?」


弁当を軽く押し出して聞いてみると詩織が目を輝かせる。

少食な詩織がお菓子以外の食べ物に目を輝かせるなんて珍しい。


「欲しいです……!」


「じゃあ好きなの取っていいぞ」


「ありがとうございます」


詩織は俺の弁当箱から卵焼きを取って口に入れた。

そして咀嚼し美味しそうに目尻を下げる。

昨日の夕飯も美味しそうに食べてたしよほど母さんの料理が気に入ったんだな。


「本当におばさまの料理は美味しいですね」


「まあそうだな。いつも弁当とか作ってもらって感謝してる」


「ふふ、そうですね。ではお返しに私のお弁当もどうぞ」


詩織はお礼と言って自分の弁当から卵焼きを箸で取って俺に差し出してきた。

いわゆるあーんの構図である。

あーんなんて幼稚園以来一回もやっていない難易度高めの食べ方なんだが?

クラスのど真ん中でやるのは普通に恥ずかしい。

二人きりならいいってもんでもないが。


「なんであーんなの?」


「私からの感謝の気持ちということで」


「……恥ずかしいんだけど」


「我慢してください」


詩織は有無を言わせない雰囲気をまとっている。

逃げるのもなんか嫌なので俺は覚悟を決めて卵焼きを食べた。

口の中にふわっと出汁のいい匂いが広がる。

感想を言おうと詩織を見ると真っ赤になっていた。


「お、おい……大丈夫か?」


「思ったよりも恥ずかしかったです……」


他の言葉が当てはまらないような完全な自爆。

どうして恥ずかしがるのにやろうとするのだろうか。

まぁ真っ赤になった詩織も可愛いからなんとも言えないけど。


「美味かったぞ。あれ詩織が作ったんだよな?」


「え?気づいてたんですか?」


「もちろん。この優しい味は詩織が作ったものだなってすぐわかったよ」


普通に詩織の料理が好きなんだよな。

俺の好みの味だし。

昔はよく食べさせてもらったしよく味は覚えている。

あの時よりも確実に美味しくなっているが。


「う、嬉しいです……」


「昔よりも腕を上げてるよな。毎日でも食べたいくらい美味しいよ」


詩織はもっと顔を赤くしてうつむく。

弁当を自分で作るなんて本当にすごいと思う。

しかも冷めてもこの美味しさだ。

詩織は本当にすごくて自慢の幼馴染なのだ。


「そ、それじゃあ毎日食べますか?」


「え?」


「私はこれからおばさまに料理を習うので練習がてら食べてほしいなって……」


「そう言ってくれるのは嬉しいし食べたいけども流石に毎朝2人分作るのは大変じゃないか?」


それで詩織が体調を崩してしまうのは俺としても避けたい。

詩織に確認をとるが詩織は首を横にふる。


「大丈夫ですよ。早起きは苦手じゃありませんし」


「……それじゃあよろしく頼むよ。ただし無理だけはしないでくれ。最悪弁当が無くても購買で買えるから」


「分かりました。無理はしません」


無理はしないと約束してくれたならそれでいい。

ただ詩織は無理しがちなところはあるし様子はしっかり見ておくことにしよう。

それにしても詩織の弁当が毎日食えるのか〜……

普通に魅力的な提案だったので断れなかった。


「それじゃあお礼に俺にもなんかできることないか?」


「……そうですね。でしたら休日に私とお出かけしてくれませんか?」


「そんなことでいいのか?というかマネの仕事もあって疲れるだろうし休日のんびりしなくていいのか?」


「いいんです。徹くんとお出かけすれば元気出ますから」


詩織は楽しそうに笑う。

その表情に嘘はなさそうで本音を言っていることがわかる。


「わかった。それじゃあ休日はどこか遊びに行こう」


「やった……!嬉しいです……!」


「というか別にお礼じゃなくても遊びに行くくらいするぞ?」


「いいんです。徹くんのお弁当は私が提案したんですから」


こうして毎日の弁当を詩織が作ってくれてお礼として休日は一緒に出かけることが決定した。

俺のほうがもらいすぎてる気がするが詩織は構わないらしい。

本当に詩織は優しいんだな。



そしてこのやり取りを見て聞いていたクラスメイトは思った。


(((この空気感で恋人じゃないの……?)))



──────────────────────


詩織が徹に弁当を作ってくれるようになりました。

だんだん詩織のサポート範囲が広がっております……笑

デートの約束も取り付けるとはしたたかですなぁ



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