第8話 もはや俺達はかなり仲良しなんだが

俺は自己嫌悪に陥りひたすら寝転がり続ける。

突っ伏していると足跡が聞こえてきて目の前で止まった。

扉を開けっ放しにしていたのでノックは特になかった。


「すみません。お隣に座ってもよろしいでしょうか……?」


「いいぞ」


立っていたのは詩織だった。

心なしかどこか元気が無い。

俺が了承したので詩織は隣に座ってきた。


「あの……怒ってますか?」


「俺が怒ってる?どうして?」


「私の都合で強引に徹くんをお風呂に誘ってしまったので……本当にすみません」


詩織がショボンと顔をうつむかせた。

どうやら俺が怒っていると勘違いしているらしい。

俺は慌てて詩織を慰めた。


「俺は怒ってなんていないよ」


「本当ですか……?」


「本当だ」


詩織はホッとした様子を見せる。

そして再び俺の目を見つめる。

さっきのションボリとした目ではなく今度は不安を孕んだ目だ。


「私のこと、軽い女だと思いましたか?高校生にもなって男の人とお風呂に入るはしたない女だと……」


「そんなこと思ってない。詩織の身持ちが固いのは普段の学校の様子でもよく分かってる」


詩織は多分クラスの女子の中でトップクラスにガードが固い。

男子と遊びに行くところを見たことが無いしよくいつもストッキングを履いて生脚を出していた記憶もほとんどない。

詩織をはしたない女だとするなら世の中の人はみんな淫乱尻軽女になってしまう。

もちろんものの例えの話しだが。


「でも、先程の私は明らかにやりすぎでした……」


「まぁそれは否定しないけども」


「うぅ……」


詩織は恥ずかしそうに顔を赤くする。

俺は慰めるように詩織の髪を撫でる。

普段ならこんなことはしないが今日は髪を洗わせてもらったくらいだし今更撫でても怒られないだろう。

詩織の髪はサラサラで触り心地がいい。


「あ……」


「少しは落ち着いたか?」


「……はい。できればずっと撫でて欲しいです」


詩織は一転甘えた声を出し始めた。

どうやらお気に召したらしい。

ずっとは無理だがもうしばらくは撫でようじゃないか。


「私……徹くんともっと仲良くなりたかったんです。ほら、裸の付き合いって言葉があるじゃないですか」


「裸の付き合いって男同士とかじゃないのか?それに仲良くなりたかったってどういうことだ?結構仲良いだろ?」


詩織と俺の仲は良い方だと思う。

じゃなかったら付き合ってもいないのに風呂に一緒に入るなんてありえない。

……今考えると幼馴染の枠組み絶対超えてるな。


「私はもっと仲良くなりたいんです。……それこそ幼馴染じゃないくらい」


「え?最後なんて?」


「いえ、なんでもありませんっ!最後のは私の目標ですから」


詩織の最後の言葉は小さすぎて聞き取ることができなかった。

でも少しは元気が出てきたようだ。

さっきよりは明るい笑顔を見せてくれている。

でも俺と仲良くなることで達成される目標とは一体なんだろうか。

でも聞いても教えてくれなさそうだし追及は諦めた。


「仲良くなりたいならもっと学校で一緒にいるか?流石に風呂だ何だとやられていると俺の心臓が持たないぞ……」


「学校でもっと一緒にいてもいいんですか!?」


「え?逆に何で駄目なんだ?」


別に俺も詩織のことは好き(人として)だし一緒にいたくない理由は特に無い。

まぁ小学校高学年から中学校は異性というものを意識しだして少し話しづらくなったが高校では女友達がいてからかわれるなんてことはないのだから。


「だって私と付き合ってると思われるのは嫌だと思ってましたし……」


「幼馴染だって説明すればいいだけだろ?」


「…………もう知りません」


「なんでだよ!?」


詩織は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

解せぬ。

今の対応は詩織にとっても最善だったろうに……


「ご、ごめんって。機嫌直してくれよ」


「ふふ、冗談です。それじゃあこれからは学校でもたくさん話しかけさせてもらいますね」


「ああ、いつでも歓迎だ」


詩織は完全復活したようだ。

詩織はどんな表情も可愛いけどやっぱり笑顔が一番だよな。

俺も釣られて笑顔が溢れる。


「そうとなると明日が楽しみになってきました……!」


「はは、それは何よりだよ。それじゃあ今日はもう遅いしお開きにしようか」


「……名残惜しいですけど分かりました」


詩織は渋々といった様子で立ち上がる。

俺も詩織を送るべく玄関へ行き詩織と一緒にサンダルを履いた。

家の外に出ると詩織が話しかけてくる。


「隣ですしわざわざ送っていただかなくても大丈夫ですよ」


「隣だから労力もかからないだろ。もう夜だから送らせてくれ」


「……ふふ。本当に徹くんは優しいですね」


「……これくらい当たり前のことだろ」


詩織に優しいと言われ少し照れてぶっきらぼうな言い方になってしまう。

隣の家なのでそうこうしているうちに到着した。


「それじゃあな」


「はい。また明日、ですね」


詩織は俺に手を振って家の中に入っていった。

長く感じられた一日が終わりを告げた。


────────────────

8話で経った時間がようやく一日(というか数時間)!?www

思ったより長くなってしまいました(汗)

流石に次の話からは翌日のお話となります!


お星さまとフォローで徹と詩織と砂乃を応援して下さい!笑

砂乃の応援の件は冗談としてぜひよろしくお願いします!



限定近況ノートにて『もし詩織がお風呂でもっと積極的だったら』を投稿しました。

砂乃にギフトくれてやるか、という方はぜひ見てみて下さい。

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