第7話 もはや俺は最低なんだが

「それでは次は徹くんが私の髪を洗ってくださいね?」


「………………え?」


俺が詩織の髪を洗う?

いやいや流石に冗談だろ。


「しっかりとシャンプーセットを家から持ってきました。あ、シャンプーしてからトリートメントでお願いします」


どうやら詩織の中で俺が詩織の髪を洗うのは決定事項のようだ。

でも俺も詩織に髪を洗ってもらったわけだし下手に断ることも難しい。

というか俺の心は無に近づき始め今なら何でもできる気がしてきた。


「はぁ……洗えばいいんだな?ただ俺は慣れてないからあまり期待するなよ?」


「完璧なんて求めてません。徹くんに洗ってもらうことが大切なんですから」


「そういうもんなのか?」


「そういうものなんです」


俺は覚悟を決め詩織の髪を濡らし始める。

長い黒髪が水着や体に張り付き始めてなんとも目に毒だ。

俺は誤魔化すように詩織に言われたシャンプーで髪を洗い始める。


「こんなに長い髪を毎日洗うなんて大変だな」


「ふふ、女の子は大切な人に可愛いって言われるためなら努力を惜しまないものなんですよ」


「詩織なら将来できる彼氏とかから間違いなく言われるさ」


「……徹くんは言ってくれないんですか?」


まあ俺たちも家族みたいなものってさっき言ったしな。

そりゃあ家族は大切な人に含まれるに決まってる。

詩織も俺のことを大切に思ってくれてることが嬉しい。


「可愛いに決まってるさ。当然だろ?」


これは身内びいきじゃないはずだ。

詩織を可愛くないなんて言う人に俺は会ったことがない。

だがやはり口に出して伝えることが大切なのだろう。


「さらっとそういうことが言えちゃうんですね……そうやって女の子を引っ掛けてるんですか?」


「引っ掛けてるとは?全く身に覚えがないんだが」


「いえ、こっちの話ですから」


俺は別に大してモテない。

バレンタインにチョコをもらったことは無いし告白もされたことは無い。

普段から詩織が横にいるので女子とは基本的に詩織としか話していないのだ。

そんなことを思いながら詩織の髪の泡を流し始める。


「まぁこんなことは詩織にしか言わないから」


「〜〜っ!?またそういうことを……」


「可愛いって言って欲しかったんじゃないのか?」


「それはそうですけど……そうなんですけどぉ……」


詩織はなんとも複雑そうに言う。

女心はよくわからんな。

言ってほしいのかほしくないのかどっちなんだろうか。

俺は理解を若干諦めながらもトリートメントを始める。


「思ってたよりも徹くん上手いですね」


「そうなのか?」


「はい。とても気持ちいいですよ」


そのまま俺は詩織の髪のケアに集中し続け邪な気持ちを抑えながら無事にやり遂げた。

俺はもうどっと疲れてため息をつく。

今日はもう寝たい……


「それじゃあお風呂浸かりましょうか」


「はいはい」


風呂浸かるのかー……

もう抵抗するのも諦めて大人しくお湯に入った。

湯が部活で疲れた体と試練で疲れた精神を癒やしてくれる。

風呂ってこんなに素晴らしいものだったんだな……


「それでは失礼しますね」


「あ、おい待て!そこは──」


むっちりとしたお尻が目の前に来たと思ったらなんと俺の膝を割って真ん中に座ってきた。

しかしその位置はまずすぎる。

詩織がもたれかかってきて甘い匂いがするし水着での密着は俺のムスコが反応しかけてしまう。


「早速マッサージを始めましょうか」


「ま、マッサージ?」


「入浴中は血流が良いので効果はありますよ。ほら、腕を出してください」


まさかこの体勢のままで!?

詩織は俺の左腕を取って俺に背を預けたまま腕を揉み始めた。

先ほど俺の背中にも触れていたスベスベの手が筋肉を優しく揉んでいく。

バットを振る時は左手をかなり使うわけだから疲れてはいる。

だが───


(素直にマッサージされてるとやばいんだけど!?結構理性にも限界が……)


理性が既に溶けかけていた。

詩織は完全に身を任せているので抱き締めることやその先まで容易に出来てしまう。


「し、詩織!そろそろやめ……」


止めようとしたらチラッと詩織の顔が見えた。

その顔は今までで史上最高に真っ赤でとろけた目をしていた。

明らかに風呂で上気しただけではないその色に俺は詩織に無理をさせてしまっていたことに気づく。

詩織だって女の子。

いくら家族のような幼馴染とはいえ恥ずかしいに決まっていたのだ。


「ごめん、詩織。無理をさせてたよな?」


「え?な、なぜですか?」


「顔、真っ赤だぞ。恥ずかしいのを我慢してるんだろ?」


「そ、それはそうですけど……まだ大丈夫ですから」


「無理しなくていいから。先に上がるよ」


「あ……」


詩織の少し寂しそうな顔は気になったが俺はもう先に上がることにした。

これ以上は俺ももはや限界だ。

詩織に抱いた最低な下心をかき消すかのように体を拭き着替えて自分の部屋に戻った。

戻ってきて一番に俺は詩織の甘い匂いが微かに残るベッドに倒れ込む。


……だなんて最低だな……俺……」




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