第5話 もはやヤケクソなんだが

「それじゃあ早速……い、一緒にお風呂に入りませんか?」


「……………………え?」


お風呂………?

誰が?

頭が混乱して理解を拒んでいる。


「な、何回も言わせないでください……!私も恥ずかしいんですから……」


そこまで言われて俺の理解が追いついた。

俺と詩織が一緒に風呂に入るだと!?

どう考えても無理、というか駄目に決まってる。


「いや、無理無理無理!」


「何でですか?別にいいじゃないですか」


「親もいるんだぞ!?入れるわけないだろうが!」


「そ、それは……」


どうやら頭から抜け落ちていたらしい。

詩織は元から赤かった顔をさらに赤くする。

しかし悩んだのは一瞬だった。


「こ、これはマネージャーとしての仕事なんです!至って健全なので徹くんのご両親が家にいたとしても構いません」


なるほどマネージャーの仕事かぁ……ってなるわけないよな!?

異性と一緒にお風呂という単語がそもそも健全じゃない!


「さっき言ったことを忘れたのか?襲われるぞ?」


「それならば私の自己責任で構いません。徹くんが私を襲っても誰にも言いませんし責めもしません。これならいいですよね?」


「なっ……!」


詩織の言葉に俺は絶句する。

仮に混浴それがマネージャーの仕事だとして貞操まで懸けるものなのか?

どんだけ詩織はマネージャーのやる気があるんだよ……


「むぅ……何か勘違いしてる気がします……!」


「多分してないと思うぞ。それよりも風呂はやめといてくれ。俺達は年頃の異性なんだから」


俺がそういうと詩織は頬を膨らませた。

こういう駄々っ子のような姿は普段とギャップがあってとても可愛らしい……じゃなくて!

なんでそんなに詩織は俺と風呂に入りたいんだよ!?


「でも徹くんは私を家族のような存在とも言ってました。家族なら一緒に入ってもおかしくないでしょう?」


「異性の高校生で一緒に入る家庭は無いと思うぞ!?」


「そんなに……嫌なんですか……?」


「うっ……」


詩織はうるうるとした目で見つめてくる。

見目麗しい少女がそんな目で上目遣いしてきたら断りづらい。

俺にとっては詩織は大切な存在で望むことはできるだけ叶えられるのであれば叶えたいと思っている。

しかしそれと同時に詩織を絶対に傷つけたくないのだ。

一緒に風呂になんて入ったらそれこそ自分を抑えられる自信がない。


「詩織は襲ってもいいと言ったけど、俺は詩織を傷つけたくない。だから風呂は勘弁してくれないか?」


「もう……本当に徹くんは優しいですね。そういうところは美徳だと思いますよ」


よかった……

どうやら俺の理性が決壊することはなさそうだ……


「ですが今日だけは諦めてくれませんか?」


解決してなかった!?

今日の詩織はどうしちゃったんだ……


「お願いします……徹くん」


詩織は俺の手を掴み今にも泣き出しそうだ。

その表情に俺は……なすすべなく陥落した。


ええい!

もうここまでくればヤケクソだ!

俺がしっかり理性を保てばいいだけの話だからな!


「分かったよ……」


「……!本当ですか……?」


「ああ。ただしお互いに水着を着ること!これが条件だ!」


水着さえ着てしまえばただの狭くて浅い温水プールみたいなものだ。

至って健全であり異性でも仲が良ければプールくらい一緒に行くのだから普通のことだ。

俺は必死に頭の中で自分に言い聞かせてそういうことにしようとする。


「私はタオルでも構わないのですが……」


「駄目!水着じゃないと俺は入らん!」


「分かりました……では家から水着を取ってきますね」


「ああ……そうしてくれ……」


そう言って詩織は部屋を出ていった。

俺はため息をつきベッドにへたり込む。


「本当に今日の詩織はどうしたんだ……?」


俺はあとから待ち構えている試練に気が重くなる。

詩織は誰もが認める超絶美少女なのだ。

俺だって欲がある普通の男子高校生。

水着とはいえ一緒に風呂に入るのは理性にかなりのダメージが入ることは容易に予想できる。


「俺明日も生きてるかな……社会的に死んでないといいけど……」


俺は心を落ち着かせるために心の中でお経を唱えることにした。

もっとも詩織は急いで取りに行ったようで5分ほどで帰ってきてしまいほとんど効果は無かったが。


なぜか詩織との入浴が決定した。



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