第35話 それでもニホンはやってない!

 アメリカ政府・アメリカ軍単独ではなく

 日本政府・自衛隊,(を支援すると言う建前)との共同作戦。(?)

 を実施する。

 いつぞや官房長官が「自衛隊が米軍の指揮・統制下に入ることはない」

 って言ってたが、まぁ結局こうならざるを得ない。


 そういう形でギャンダムに関する情報の洗い出しが行われる事となった。

 とりあえず『超実在ギャンダム特設対策本部』なるものも編成した。

(こういうネーミングって誰が考えてるんだろうね?)


 実は、『米国家安全保障会議』の連中が乗り込んでくると聞いて

 慌てて日本も対策を頑張ってるというポーズを取らんが為だけに作られた。

 言うなればただの箱である。


 ロボットの対策なんて分からんので若い連中に丸投げして

 それっぽい各省庁、関係各所から人員を集めたが

 かなり濃い『ギャノタ』(ギャンダムオタクを略してそう呼ぶ)が集まってしまい

 訳の分からん集団と化しているのは秘密である。


(ここで知らない人に説明すると

 ギャンダムという作品は初代が作られ社会現象を引き起こしてから半世紀。

 二匹目のドジョウを狙ってたくさんの続編や派生作品が生み出され

 まったく世界観も作風も理念も共通していないものを

『ギャンダム』と乱暴に括られた結果

 某宗教の派閥くらいに憎しみ合い罵り合うのが日常であり

『ギャノタ』と一言で言っても、そこに恐ろしく多岐にわたる派閥が存在しており

 このような『箱』に一緒くたに入れてしまうのは、大変危険な行為であった。)



「お互い腹を割って話そうじゃないか、なあ、ミスタードリアン!」

 ジョセフ・テイラー首席補佐官はそう言ってリラックスした様子で足を組み直した。

 フレンドリーにも見えるし、舐めた態度にも見える。


 いや、完全に舐めきった態度かなこれは。


〝増税フルーツ〟こと日本国内閣総理大臣『鳥庵金造(どりあん きんぞう)』は

 態度のでかいオッサン若造,(40~50歳?)を前に視線を泳がせた。


 もちろん腹が立つのだが、腹を立てている余裕はない

 疑われているのだ。


「あくまで日本政府は関知していないと?」


 有能かなんか知らんがケツの青そうな外人が

 そう言いながら猜疑心を隠そうともせず睨め上げてくる。


(このボケぇ~、お前は刑事かこの野郎。)という気持ちを噛み殺すドリアン。

 年季のパワーでなんとか笑顔を作り出す。


(若手時代にうっかり大御所時代劇俳優を激怒させてしまい

 撮影所関係者が壁際にズラァァァァと並んだ楽屋に呼び出された

 怖いエピソードを一人芝居で再現して見せるおもしろ俳優。)

 それとそっくりな引きつった笑顔を全開にして疑いが晴れるのを待つドリアン。


 日本の政治家には『親米派』と『親中派』しかいない。

 親米派ってのがアメリカ側、親中派ってのが中国側。


 日本国民は「当然アメリカ側に付くのがあたりまえでしょ?」って思ってる。

 中国みたいな基本的人権すら無いようなヤバい国の子分はまっぴら御免と思ってる。


 が、

 実態はかなりの数の親中派議員が居る。

 おいおい、中国といや『仮想敵国』だろ、敵だろ、『軍事的な衝突が発生すると想定される国』っていう、要するに敵だろ。最近は大っぴらに『仮想敵国』と設定してないだか公表してないだかで、自衛隊用語では『対象国』と呼ぶらしいが。敵だろ。


 そんなのの側に付いてる政治家がいるの?

 ──── いっぱい居る。力も持っている。たくさん子分を引き連れて中国訪問とか大大的にやってる。


 だって中国さんが気前よく政治資金を援助してくれるんだもん。政治はカネだ。カネのないやつが誰にも相手にされないのは民間も政治も同じだ。二重国籍でスパイ丸出しでもへっちゃらさ、権力という後ろ盾があるならば。


 あれ? おかしいよね?

 日本の政治家でしょ? アメリカだの中国だのじゃなくて、日本に寄り添う


『日本派』 ってのは居ないの?

『日本派政治家』ってのはいないの?


 居ない。


 そりゃまったく居なくはないかもだが、『日本のため』なんてやっても誰もお金を出してくれないから、おカネが無い。おカネが無いやつに存在意義は無い。

 存在の耐えられない軽さここにあり。カネを動かせ無いやつの言う事なんて寝言程度の価値もない。


 下手に『日本のため』なんて言ったらもう、即右翼,(街宣車でがなり立ててるヤバい人たち)扱いだ。

 ああ、悲しいかな敗戦国。

 敗戦時にアメリカGHQ,(第二次大戦後、連合国軍が日本占領中に設置した総司令部)に徹底して『日本は悪い国だ』って教え込まれた後遺症がまだ治らない。

『日本のため』なんて言ったら悪者とされてしまいかねないから

 そんなリスクのある役回りを誰もやりたくないのだ。


 これね、そのうち治るかと言うと治らんのよね。

 だって日本の歴史でも、天下分け目の関ケ原の戦いで『負けた側』(徳川家康の敵側ね)に付いてたってだけで、その後265年間、結局徳川幕府が倒されて明治政府に切り替わるまで、ずっと、ずぅ~~~~っと、子々孫々に至るまで『外様』(よそ者、部外者、元敵)扱いが続いて、一部例外を除いて無くならなかったもんね。


 ──265年だよ? 265年!


 おなじ日本人同士であっても、あんだけミラクル平和だった江戸時代であっても。

 265年間通してイジめられ続けたんだから。いくら待っても、待ってるだけじゃ悪者のポジションから救われたりしないんだよね。だって、イジめる側は優位なポジションをわざわざ捨てたりしないんだもん。


 と、そういうワケで日本の政治家に『日本派』は居ない。


 中国と違ってアメリカはまだ言うことが通じる国なので、

 もっとちゃんと言うべきことを言ってみれば、交渉してみればいいのだが。

 それが出来ない、する気がない。面倒を起こしたくない。


 かつてイギリスを奮い立たせた鉄の女サッチャーが現れたように

 日本にもそういう強力なリーダーが現れるのを期待するのは……、ちょっと小説でも嘘くさくて書けそうもない。元覇権国家の歴史と経験があるあっちとは状況が違うしね。


 まぁ、そういうワケで。

 たぶんこのアメリカ人は日本の政治家が

「ほんとにアメリカのイヌか?」 「中国のイヌなんじゃねぇーだろうな?」 

 と疑ってらっしゃると思われる。イヌかわいそう。


 イヌは日本のことなど顧みず、

 波風立てず、問題を起こさず、問題の起きないような意思決定しかしない! 

 問題を起こさないことが一番の目標!

 それだけを心がけて今までやってきたのに、なんだこれは?

 アメリカ激怒ではないか!

 ここにきていきなりどでかい津波がやってきた。まったく迷惑このうえない。

 ツイてない。

 せめて任期が終わってからにしてほしかった。

 心からそう思うイヌたちの体から発っせられる負け犬フェロモンが部屋に充満。


 ────────────。


 日本人は皆、神妙な顔をしている。

 しかし寄せられる情報にジョセフ・テイラーは苛立たされた。

 どれもこれも信憑性が感じられないものばかりだったからだ。


 なんだこの茶番は。


「一応」と前置きしながら神妙な顔で

『機動戦機ギャンダム』なるカートゥーンの設定資料集を出されたときに至っては

 こいつらアメリカ政府にケンカを売ってるのかとも思った。

 銃を携帯していたら、即、撃ち殺してやるところだった。


 しかしそれ以上に困惑させられたのは

 そいつらが至ってマジメにそれをやってのけていることだった。


 マジか────。

 こいつら同じ星に住んでる人間とは思えない。

 確かに日本はアニメと同じとは聞いたことはあったが

 これほどとは…………。


「オォーノォォォ ……!」

 思わず声が漏れた。


 ────じつは、この日米の温度差には明確な答えがあるのだが……。


 要するに、何の後ろ暗いところのない日本政府は

 割とすんなり超常現象と捉える、というかそれしか考えられない的な傾向があるのに対し。


 アメリカ側はあくまで現実的な存在

 ズバリいうと、日本がこっそり作っていた対アメリカ兵器なのではないか?

 と、睨んでいるのだ。


 そんな睨まれても困るわなぁ。

 うわぁ、メチャクチャ睨んでるよコッチを。

 知らんっつーの。

 あんなん作れたらとっくに技術大国に返り咲いて

 またアメリカに貿易摩擦でスーパー301条な嫌がらせされてるところだわ!


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【スーパー301条】

 おい! 日本! 

 おまえそんな売れまくる製品作って言うこと聞かねーなら

 日本からくるものにメチャクチャ税金かけて売れなくしちゃうゾ? という

 いつものアメリカのジャイアニズムに条項名をつけたもの。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 さあ、巨大な敵(どっちのことかな?)を前にしてこれからの日本はどうなる?

 君は生き延びることができるか?


 イヌは再び自己中な飼い主の信頼を勝ち取ることができるか? (対戦車犬感)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る