第10話 インターネッツ狂想曲


 そんなこんなで、フェミ子がスマホをほったらかして、

 再び ピョンスカ ピョンスカ山の上をギャンダムで飛び跳ねている間に、世間は大騒ぎになっていた。


 まず君津市の住宅地を走り回った騒乱は、思いのほか目撃者が居なかった。

 なので竜巻の発生と誤認されたりして先にその話題が先行。


 まあそうよな?


 普通はそんな実物大のホンモノの巨大アニメロボットが走り回ってるなんて誰も思わないし、多くの人が目撃するのは、すでに走りすぎた後の惨状であって、その犯人ではないわけだから。


 瞬間を撮影した画像にも──


『フェイクだ!』


『AI生成画像だ!』


『不謹慎だ!』


『デマは通報だ!』


 と、まぁもう、てんやわんやの罵り合いの舌戦が繰り広げられ。

 だが、うーん、大方の人が信じなかった。


 証拠の画像を上げた人達は、たちの悪いデマを流す極悪人と認定される。

 どこの誰かも分からんやつからも上から目線で全人格を否定するツブイートが次々ぶつけられ、とてもじゃないが事実だと主張しつづける空気ではなくなったり。

 あまりに侮辱されて半狂乱状態で「信じて欲しい」と訴える人がでたりの阿鼻叫喚状態にもなったりした。



 しかしそれでも時間経過とともに、巨大なロボットの姿を捉えた画像や動画がSNSに投稿され続け、その数を増していった。


 そりゃあ、山々の緑に見え隠れするとはいえ、基本見晴らしのいいところを ピョンスカ ピョンスカ跳ねとるからなぁ。

 あらゆる角度から撮影される同じような証拠画像。

 そこには、いつしかお台場で飾られてたのとそっくりな、実物大アニメロボットが元気に跳ね回る姿が写っているわけで。


 そして竜巻の惨状を撮影に来たテレビ局が、まさかの現状、付近の山の稜線を超えて、青いバーニアを吹かしながら、あっちの尾根からこっちの尾根と飛び回る巨大ロボを撮影。緊急速報するに至ってそれはもう決定的となった。


 スタジオもぽかーん。

 ニュースキャスターは気の利いた言葉のひとつもない。

 強張った表情で「謎のロボットが~」なんて、しょーもないセリフを繰り返す。

 情報をもってないのでそれしか言うことがない。

 ギャンダムの知識をひとつも持ってないので何も言えない。

『謎のロボット』って、見たら分かるだろ、ギャンダムだろどう見ても。


 オタク達は興奮して、テレビの不甲斐ないニュースキャスター達に憤っていた。


 ホンモノのギャンダムが現れたんだぞ!


 乗るしか無い!

 乗るしか無いだろ! このビッグウェーブに!!


 そう、このような前代未聞の大大珍珍事件がリアルタイムで起こっているにも関わらず、オタク知識のない世間の反応はなんともトロくさかった。


 アニメのキャラクターが現実に現れるという現象に、信じられないのと普段の無関心さと、それらカルチャーを小馬鹿にしてる感情が入り混じって、見てはいけないものを見ちゃったような、なんとも精彩を欠くぼやけた反応。


 油の切れたママチャリから、ひり出てくるギスギス音に似た空気だけが、テレビ局をはじめ旧態然とした各メディアからドロドロと粘度を持って垂れ流されていたのだ。


 それに対し、オタクのネットの反応は素早く、デマだなんだと舌戦している連中とは違う角度からの鋭さを見せつけた。


 フェミ子のあの一見意味不明のツブイートをいち早く発見、その4枚の投稿された画像を検証、そこに写っている主モニターに捉えられている景色から、それが千葉県君津市にある某所の山の標高相当から撮影されたものだと断定。


 このツブイートの画像は──。


 うおおおおみんな聞け!


 このツブイートの画像は──。


 今、世間を騒がせているリアルギャンダムのコックピット内で撮影されたもので間違いないぞ!


 間違いないぞぉぉぉぉ!!



 そうオタクは、ネットの片隅で衝撃的真実を叫んだ(書き込んでいた)のである。


(まぁ、でも、それでも世間の反応はあんまり……いうほどでもなかったが)





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