第37話 宮仕えは死ぬことと見ツケタリ
『巨大ロボット在日米軍基地連続襲撃事件』のあと
アメリカ軍とアメリカ政府が怒鳴り込んできたので
まぁ形だけでも支援するかという方針、というか日本政府が例のごとく流されるまま、なし崩し的にそうなったわけだが。
自衛隊は気が進まなかった。
危険過ぎる。
まず自衛隊には武器の使用が認められていない。
それなのにギャンダムを捜索し、殺る気マンマンのアメリカ軍に追従しろとか。
命令が酷すぎるだろ。
ギャンダムが出てきたらどうなるんだ。
政治家のやつら何も考えてない。
以前テレビニュースで
「日本に駐留するアメリカ軍が攻撃された場合、日本国の自衛隊は『反撃能力』を行使できるのかどうか?」と問い詰められたことがあった。
それはつまり「アメリカの戦争に日本も巻き込まれるのか?」って質問なワケだが。
当時の総理大臣が『個別に判断する』としか答えないってマスコミが怒ってギャンギャン叩き報道をやっていた。
あの時は、「そりゃそう答えるしかないだろ。対外的には一応ああ言っておいて、いざとなったら相応の適切な『判断』をするだろうよ。そういう極秘の非常事態対応マニュアルもあるはず。いくらなんでも自衛隊を考えなしに使ったりはしないだろ」……そう思っていた。
──思い込んでたよ。
まさか、こんな『判断』をされるなんて思わなかった。
何をどう考えてこう『判断』したんだ?
日本人も日本政府も何も考えてない。
平気でそういう冷酷な命令を出してくる。
1993年5月4日カンボジア。
PKOの実績作りを急いだ政府に、丸腰で武装勢力待ち受ける紛争地帯に行かされた日本人文民警察。
その結果どうなったか? 忘れたのか?
内戦状態、戦争用の武器で武装した『軍隊』が跋扈する紛争地帯。そこに丸腰で乗り込んで行かされた日本の警察官らがどうなったか? 忘れたのか?
当然のように地元の武装組織に一方的に襲撃され死者を出した。
当たり前だろ。やる前からわかりきってたことだろ。誰だ命令を出したのは? 誰もまともに責任を取ってないだろ。有耶無耶にしただろ。
またあれをする気なのか……。
敗戦から戦争アレルギーになり軍隊アレルギーになり。
そういうものに関わるものすべてを軽蔑するようになり。
それら尖兵となる自衛隊員などの命は、どこかよそ事でもあるかのように無関心で居られる非情さがある。
自称「二度と過ちを犯さない」という日本人のこの自国民に対する非情さはなんなんだ。いや、自衛隊員を自国民と見なさないという非情さはなんなんだ。
何様だ。
「二度と過ちを犯しません」って、今、現在進行系で犯してるだろと。
どこがどう「平和を愛する」と、こういう判断になるんだ。理解に苦しむ。
ギャンダムを、カートゥーンのキャラクター、トランスフォーマー的ななにか。
要するにトムとジェリーやスーパーヒーローものなどといった旧態然とした、アチラのそういう何十年も何の進展もない幼児向け娯楽作品。いわゆる〝カートゥーン〟の他愛もない模倣だと思っているアメリカ人。
どこかまだ半信半疑な、舐めている所があるアメリカ人とは違い、日本の自衛隊員は、あのロボットを紛れもなく『ギャンダム』だと捉えている。
アニメキャラの模倣ではなく『モビルアーム,(劇中での巨大ロボット兵器の総称)』だと思っている。
『兵器』である。
『地球統合軍の白い悪魔』である。
『悪魔』とまで呼ばれたバケモノである。
それが劇中どれだけ恐れられていたかを知っている。
たった数分で13機の『リャック・ダマ(ジャオン軍の高性能モビルアーム)』を
一方的に鏖殺(おうさつ:みなごろし)したのを知っている。
ある自衛隊員いわく
「初めて、ギャンダムのいる戦域に行かされる敵であるジャオン軍兵士の気持ちが分かった」
「生きた心地がしない」と。
そりゃそうである。
しかも日本国内であっても、そこに民家があろうとも、平気で武器をぶっ放すアメリカ軍とは違い、自衛隊はそういうわけには絶対にいかない。
逆立ちしても出来ない。
武器の使用は許されない。決して許されない。
つまり丸腰でギャンダムのいる戦域に向かえと。
それは死ねと言っているのかと。
ギャンダムに先行して開発された、ジャオン軍主力モビルアーム『ジャク』に乗ってさえ偵察すらままならないのに。
見つかったら最後、到底生きて帰れないのに。
当然『120ミリ=ジャク用ライフル連射砲,(戦車砲相当の口径)』を装備しているにも関わらず、だ。
それを我々には丸腰で行けとな?
ふざけるなと。
アメリカ軍は相手が陸戦兵器だと思って平気でヘリや輸送機で飛び回っているが、アホかと。
自衛隊員は全員知っている。
いや、元々知らなかった奴もアレが出現したその日にギャノタ自衛官が、慌てて全員に履修させたから知っている。
ギャンダムはジャンプとブースター機動で舞い上がり、戦闘攻撃機との空中戦をやってのけたことがある。発射された巡航中のミサイルでさえ狙ったポイントで叩き斬る性能がある。
巡航ミサイルの速度,(推定:時速900キロメートル)を狙い撃ちで斬れるんだぞ、ヘリなんか精々がんばって時速300キロ程度だ、一発でやられる。
かわすヒマもなくやられる。
無茶を言ってくれるなと。
そんなトンデモ機動する兵器が、どこの森に潜んでるかも分からんのにその上をチョロチョロ飛び回るなんて出来るか! 本気でブチ切れた。
現場は騒然とした。
次々声を上げる隊員たち。
「────っていうかなんで俺がギャンダムに乗れねーんだよ!!!!」
「やれるのかぁ!?」
「一番…ボクが一番、ギャンダムをうまく使えるのに!!!!!」
「オレはギャンダムで行く!!」
なんか、ちょっと思ってたのと違う反応をしている隊員も一部いるが、概ねその心情は理解できた。命令する立場の者、上官ももちろんギャンダムブームどストライクの世代であり、その脅威を十二分に理解しているのでなんとか落とし所を探して苦心した。
そして、ギャンダムの劇中設定での説得に望みをかけるしかなかった。
「もし……あのギャンダムのパイロットが『ニャータイプ』であるならば、こちらが敵意を示さなければ、それを察知するだろう。攻撃してくることは無いハズ……!」
大真面目な顔で言い放った。
完全に憶測。
気休めにもなんにもならない。
もっと他に言うこと無いのかという発言だったが、不思議と現場の空気に、ピキューンとなんらかの共感をもたらすことに成功した。
(まぁ、そうでも思わんと馬鹿らしくてやってられないというのが大きいが)
米軍に追従する形はとるが、あくまで安全、生命を最優先に行動セヨ。という事に落ち着いた。要するに「(ギャンダムが)出たら即逃げろ」ということね。(ズバリは言わんけど)
ここでこれ以上ゴネてもなんにもならない。
結局、政府の判断の底が浅いと分かっているならば、もうあとは現場でなんとか対応するしか無い。上になにか言っても誰も責任を取る体制が出来ていない(責任を躱す体制は十分ある)のに、疑問を呈したところで、口先だけでこねくり回す不毛な答えが帰ってくるだけで、なにも進展しない。いつものことだ。
官僚も政治家も解決する気なんて始めから無い。言っても無駄。
カンボジアの時と同じだ。
やるしかない。
しかしカンボジアの件は警察官だったからなぁ。
警察官は普段から一般人相手に偉そうにしてるもんなぁ。何様気取りで。
いつも特権階級の侍みたいに不祥事をもみ消したり、美味しいメリットがある警察官が、いざというときに階級社会の理不尽な命令で紛争地帯へ行かされるのは、普段は木陰で年貢米を食(は)んでる侍が、上の事情で泣く泣く詰め腹を切らされるってやつみたいなもんだろう? 今更な話じゃねーか。
それに比べて、同じ公務員でも役得もなにも無い。
俺らふつうの足軽自衛隊員が持たしてもらえるはずの武器もなく、丸腰で戦場に行かされるっつーのは、なんとな~~く話の次元が違う気がするのはなんでだろう……。
情けなくなってくるよ。
────複雑な思いを胸に、今日も誰かが死地へと向かうのであった。マル。
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『こうして山羊は彼らのもろもろの罪を担って、人里離れた地に赴くであろう』
旧約聖書 レビ記 16章22節より
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