第26話 白いトランスフォーマーにやられた


 『厚木基地』と『横田基地』に関しては

 これはもう完全に米軍側の不手際と言うかなんというか

 まったく情報が錯綜していた。


「白いトランスフォーマーにやられた」などという報告を聞いたらどう思うか。

 アニメに馴染んだ日本人でも『ギャンダムにやられた』なんて正気を疑うのに。


 それがアニメオタクへの風当たりが恐ろしく恐ろしくきっつい、命に関わるレベルだったりする海外、とくにマッチョ大国アメリカなんかでは、

『トランスフォーマー』やらのお子様向けのアニメ、

 いわゆる『カートゥーン』の名前なんて、大の大人が口に出してしまってはもう、誰もまともな人間として見てくれないだろう。


 それはカートゥーンは子供の観るもの、大人が観るとしたらそれは『どうしようもない負け犬だから観るのだろう』と見なされているから。


 ギリギリ趣味の範囲としてアニメを楽しむのと、

 被害状況を訴えるのとでは次元が違う。


「白いトランスフォーマーにやられた」


 もうダメだろこいつ。

 頭がやられてるだろ。


 もしくは

「何者かが向精神剤か幻覚誘発剤系の広範囲に効果をもたらすガスか何か

 とにかく無能力化剤に属すると思われる強力な作用の化学兵器を使用した疑いが強い」


「暴露した現場は集団妄想にとりつかれ、明らかにパニック状態にある。

 どのセイラーも顕著な幼児退行化傾向が見られ、カートゥーンの内容を本気で口にしている。全員まともな状態ではない。一人残らず正常な判断が出来なくなっている」


 とかなんとか判断されるのが本命か。

 被害状況やロボットの映像が送られてきても、用意周到なフェイクと見るだろう。


 少なくとも、

「わー、ロボットだ、たいへんだー!」


 なんて反応なんかしないし。

 こんな馬鹿っぽいフェイク情報を真に受けたと報告されたらと考えると

 絶対に受け入れられない報告だろう。


 騙されるにしても

 騙されるに値する情報に騙されたい。


 まだ「凶暴なエイリアンが攻めてきた」の方がよっぽど格好が付くというもんだ。


 まぁ、そういうやりとりがあったかどうかは別として。

 まともな反撃も無くギャンダムは、横須賀基地から北西へ26キロメートル


 1945年8月30日、連合国軍最高司令官 ダグラス・マッカーサー元帥が降り立ったあの飛行場。元は首都防衛のために帝国海軍によって神奈川県綾瀬市建設された、

『厚木航空基地』

 今は、在日アメリカ海軍が共同使用する、厚木飛行場へ。


 そこにあるMH-60Rシーホーク、MH-60Sナイトホーク、SH-60Fオーシャンホーク等の回転翼機や、陸軍輸送機UC-35Aサイテーション・ウルトラ等の航空機を

 ちょちょいと破壊。


 そこからぷらっと30キロメートルほど北に行ったところにある

 現在、沖縄を除く国内最大のアメリカ空軍基地である横田基地に至っては

『ギャンダム・ビッグスター』などというふざけた武器を振り回す有様。


 それは、図太いリードワイヤーの先にトゲトゲの生えた鉄球がぶらさがる

 いかにも頭の悪そうな、まるで中世時代の武器『モーニングスター』と

 伸びては戻るオモチャの『ヨーヨー』をかけあわせたような、そんな代物。


 それをオリンピックハンマー投げ選手

 全盛期の室伏広治さんよろしく全身を回転させて豪快にぶんぶん振り回し。


 14機にものぼるC-130輸送機をはじめ、CV-22オスプレイ、C-12輸送機、MH-1ヘリコプター等、多数の航空機と滑走路沿いにある複数の大型小型ハンガー(格納庫)や倉庫のほか。

『在日米軍司令部』『第5空軍司令部』『国連軍司令部』を含む重要施設その他多数の建物を、ことごとく好き放題に壊して回ったのち、悠々と走り去った。


 正直、反撃するとかそういう状況ではなかった。

 自然発生した竜巻が荒れ狂うのを、自然に収まるまで待っているしか出来ない。

 そう形容するのが妥当な、どこかあっけらかんとした。

『一人で空き地の雑草を刈ってみた』的なYouTuberの作業動画をぼんやりみているような。


 ギャンダムがなんの警戒心もない動きで好き勝手に破壊活動をしてるのをただ見ているだけ。そういう非日常的でありながら、緊張感の持続しない間延びした光景が、広大な滑走路の向こう側から大勢の人たちの瞳に映っていた。


 どのみち三沢基地から爆装した戦闘爆撃機を呼ぶにしても、すでに基地内に入り込まれている上、超音速で飛べるわけもなく時間的にもどうしようもないが。


 ちなみに『トマホーク』などの主に静止目標を想定した地対地攻撃ミサイルでは

 ギャンダムのような機動兵器を攻撃できない。(そんなアニメみたいな高性能ではない)


 そもそも戦車も準備も無しに陸戦兵器と戦闘なんて出来ない。

 在日アメリカ軍にはそもそも戦車が無い。


 そう、在日アメリカ軍にはそもそも戦車が無い! (ある意味がない)



 あと、──忘れられがちであるが軍人は公務員なのである。


 戦争のプロなので、

 戦場ならば対応が出来るが、

 それ以外、特に


『不測の事態』『説明の付かない現象』といったものは大の苦手である。


 ちゃんとした命令がないと動いちゃいけない組織でもある。

 他の基地に応援を要請するには冷静な状況判断が求められる。

 事情の把握がままならなければ

 当然説明もままならず、似た前例を示すことも出来ず、そんな状態で。


『ちゃんとした命令』なんて到底無理。


 湧いて出たナゾのロボットに早急に対応せよというのは悪手すぎるのである。





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