第44話 レイディオ ガ ガ

 さらにもうひとつ重大な盲点が。


 ふたりが、というかこういう芸能ネタは、そういうゲスなエロ雑誌が大好きだったコラムニスト作家の田沼オッキツグが仕入れていた。

 田沼は当然これは与太話であるという認識で話しており、その与太話にショックを受けて「ギャアー」となるギャア子の反応がこのラジオの基本スタイルであったワケだが。

 じつは、今になっていろいろ表沙汰になって分かってきたことでもあるのだが、そういうしょーもないエロ雑誌の芸能ルポには、結構シャレにならない真実が書かれていたのだ。


 そうなのだ。

 田沼が『関西ローカルの・深夜の・ラジオ』ならセーフ! と判断していたのと同じように、世の中、というか芸能界には、ゲスなエロ雑誌のルポタージュなら誰も性根を入れて読んでいないだろうと、マジのスキャンダルを書いていた人たちが結構いたのだ。


 それも、あからさまに『これは与太話だろう、いくらなんでも,(笑)』と誰もが思うような現実離れしたえげつない話をだ。


 例えば、男性アイドル専門の一流芸能事務所のおじいちゃん社長が『15歳の儀式』と称して、芸能事務所専用のビルに合宿しているアイドルの卵の少年たちが15歳になると、深夜ペタペタと廊下を歩いてきて、『コンコン……』とその少年の部屋をノック。そのまま合宿所の一番奥の突き当たりにある『開かずの間』へと連れて行き、性のイニシエーション,(通過儀礼)が行われる。扉の向こうからは、「アッー!」という悲鳴や、シクシクという少年らの泣き声が夜な夜な聞こえてくるという。まぁ、よくある都市伝説。ありがちな怪談。「いまテレビでキャーキャー言われているあのプロダクションの美男子アイドルたち、アイツもコイツも、昼はファンの女の子に追いかけられとるが、夜は社長に追いかけられて、掘られたりシャブられたりしているんだぞぉー!! 」「キャーッ」「わはははははは!」

 ……といった具合である。


 その後の暴露報道でみなさんも御存知の通り、それらの話は真実だった。なんてことはない、内部告発等がそういうグラビアばかり見られて、文字なんか誰も読まないようなエロ雑誌の片隅に書かれていたというだけ。あまりの荒んだ状況に我慢できずに書かれていたのか、元アイドルからアイドルのマネージャーに落とされた妬み嫉みから足を引っ張ってやろうという思いも薄っすらあったのか。なんにせよそういう核心に位置する人物・情報源から漏れたケースがかなりあったのだ。

 もちろん当時のふたりは、自分らが話していることがヤバすぎる真実であるなど微塵も知る由もない。知らないまま、そういう過激な話を夜な夜なラジオで「マジの話やで~!」とワイワイやっておったのだ。大人気の番組で。


 まぁ、本人らには気の毒だが、面白すぎるエピソードだ。

 ニセモノと思って踏みまくってた『地雷』が、ことごとく『ホンモノ』だったのだから。これはもう一流のコメディである。


 あと、よく言われることだが『芸能事務所のバックにはヤクザが付いている』というやつ。

 これは半分正解、半分間違い。

 まったくヤクザと関わりが無いわけではないが、それだとまるで芸能事務所がカタギ,(ヤクザに対して一般人をこう呼ぶ)のようではないか。


〝 いつから芸能事務所がカタギだと錯覚していた? 〟


 まずテレビタレントを排出する系の芸能ビジネスそのものが、東京の歓楽街でやんちゃしていたチンピラ連中が遊び仲間と会社を作って……、なんて謂れが珍しくない。そういう生い立ちがあるあるな業種であり業界なのだ。怖い部分がいつ顔を出してもおかしくはない。これはもう伝統芸能でさえそうだ、祭り、興行、テキ屋、全部ヤクザ屋さんの領分だ、祭りなんてのは毎日やってるワケではない、『非日常』だ。通常の日常空間が非日常の状態となる、言うまでもなく日常を送っていた人には迷惑もかかる、文句も出る。しかしせっかくの祭りに苦情なんか入った日にゃ、盛り上がりに水を差されてそれこそ興醒めだ、祭りが台無しになる。そういう事のないように地元の顔の効く連中、簡単に言えば怒らせると怖い人らがあらかじめ各所に根回しして睨みを効かす、クレーマーを黙らせる。そうしないと興行なんてとても成り立たない。それが芸能の仕組みであり。もう始まりからカタギでは荷の重い分野なのだ。


 そもそもビジネスというのは大なり小なりヤクザな部分がある。

 みんな生き残るためにやってるんだから、そこはそれ。百姓だって水争いや落ち武者狩りが始まれば嬉々として鬼・悪魔と化す。特に大金を動かすバクチ要素の強い分野、わかりやすいところだと銀行等の金融業界なんて他人にクビを括らせるようなマネを数多く合法的にしてきたわけだし。『ザ・良識人』みたいなスーツをビシッと着ながらニッコリと半分もテラ銭,(主催者によるピンハネ)で持っていく『宝くじ』なんて悪ど過ぎてアジア太平洋戦争の途中まで禁止されてた大ギャンブルを堂々とご開帳してるしね。あんなアコギな利権、誰でも欲しいわ。(ちびっこのみんなも、大人になって弱い立場になるとヤクザか鬼かな? な一般人をたくさん見ることになるだろう。)


 だからといって『日本の芸能界はヤクザ』だ『奴隷契約』だ! だのと糾弾しようというのではない。


 そもそもビジネスモデルが違うのだ。

 この頃やたらと日本の芸能界を叩きたがるアホ外人のBBC,(英国放送協会)

 ホンマこいつら昔から日本人を『自分らと似ているが、自分らより下の生き物』という、あくまで自分らが世界の舞台の主役だと思い込んでる田舎者の白人根性丸出しで、白人種以外で唯一目障りな先進国である日本をチンパンジーの観察報告のノリで面白おかしく誇張あるいは歪曲報道したがるのだが。こういう外人連中には到底その辺が分からないし、分かる気もない。


 アメリカを始めとした英語圏での典型的なビジネスは

 芸能でもそうだし、メジャーリーグに例えるとメッチャわかりやすいが。

 日本人にも馴染み深い名前だとイチローだの大谷だの、ああいった世界に数人しか居ないような才能の持ち主が、探すこと無く向こうからホイホイやってきてくれるワケだ。その中から天才を採用して働かせて商売をするというスタイルだ。わざわざスターの逸材を探し回ったり、何年もかけて育てたりしない。そりゃいくらでも例外はあるだろうが、基本完成品のセールス、紹介業であり、業界全体を覆う慣習である。所属タレントもキャリアを積めばギャラもアホほど上がるし、気に入らなければ契約を切って出ていく。出ていくというかタレント・俳優本人が一番偉くて、一番お金持ち、周りはサポート。それでいい。なんせ供給源となる国家の人口の分母がデカい。英語の通じる商売のシェアもデカい。そのシェアの中からまたすぐ才能は向こうからやってくるんだから。

 なのでタレントの自由が確保されている。無理に拘束する必要性が低いとも言える。

 正しいエージェント契約のカタチだ。


 だが日本はまったく違う。日本という非常にニッチ,(小規模・隙間)な市場の商売だ。

 工夫しないと食っていけない、一時的な熱狂ではなく、コンスタントに祭りを持続させなければ、たちまち本来の『別に無くても日常に支障のないコンテンツ』だと気づかれてしまう。それでなくても日本人は昔から一神教などには非常に酔いにくい民族なのだ。


 キリスト教のデタラメな布教を足がかりに現地人を取り込んで侵略の足がかりにするエリート部隊だった、イエズス会の創設メンバーの1人、宣教師の『フランシスコ・ザビエル』が精根尽き果てるほど日本人は騙されてくれなかったんだから、筋金入りである。


 ──そして日本の芸能業界はやり方を変えた……。





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