第24話 理解を妨げる敵



『仮想敵』



 第7艦隊には、その存在を脅かす仮想敵が存在する。


 第7艦隊……というか

『アメリカの主力空母』を撃沈する攻撃手段を持っているとされる脅威が存在する。


『中国』こと中華人民共和国である。


 中国は、中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発と配備を進めており

『世界最大の中距離ミサイル保有国』とされるまでに成り上がっている。


 米軍基地のある日本はもちろん

 グアムまでもを狙える核ミサイルも数多く存在する。

 むしろ、完全にアメリカを意識した、アメリカを少なくとも西太平洋から排除するべく、その想定で配備されたミサイル群。


 中国が保有している中距離ミサイルの数はおよそ2000発以上とされ、なにより露骨にアメリカの空母を「標的」とした「空母キラー」とも呼ばれている世界初の『対艦弾道ミサイル』を持っている。


 そう『対艦』である。

 地上静止目標ではない、海上に位置する移動する標的を狙い撃つ。

 その為のミサイル。

 アメリカ空母を撃沈するが為のミサイル。

 事が始まれば1発や2発じゃない、百を超えるであろう膨大なミサイルを同時に撃ち込むのだ。


 アメリカが開発した高性能な迎撃システムがあろうとも。

 それがどれだけ有能であろうとも。

 たとえ中国のミサイルがアメリカ艦艇に到達するまでに何十発と迎撃されてしまおうとも。その手数の上をいく『数』で押し切ってしまう。敵の防御を上回ってしまう。

 いわゆる『飽和攻撃』で無理矢理に空母を撃沈してしまおうというやり方である。


 なんとも無骨。なんとも愚直。なりふり構わない力技。その通りであるが、これがもっともシンプルな正解。実際、どうしようもなく対抗が難しい。


 なぜなら艦艇に搭載できる迎撃ミサイルの数は、陸上のミサイル基地とは比較にならない重量やスペース的なものなどといった、艦艇である以上解決不可能などうしようもないレベルからの制限があり、要するに数多くは船に積めないのである。

 そして本命のミサイル以外にもダミーや格安のドローンまで混ぜられて攻撃されれば、物理的な問題以外にも『迎撃』という高度な演算処理を要する作業にコンピューターが押し負けてしまうのだ。


 正面からぶつかれば単純な数学的問題でとうとう負けてしまうのだ。


 それだけ高価なミサイルを使い潰しても撃沈する価値がある。

 空母を撃沈するにはそれだけの価値があるのだ。

 文字通り〝相手の利き腕をへし折るが如く〟絶大な効果だ――。


 このようなアメリカの『空母打撃群』に天敵が生まれてしまった背景、一部では手遅れじゃないかとも言われるような深刻な事態にまできてしまっているのには、じつに人間臭い原因があったりする。


 ────今まで『ノーマーク』だったからだ。


 さて、このトンチンカンな顛末については次回でくわしく。




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