第13話 ゲームチェンジャーは誰だ



 ギャンダムが……、謎の巨大ロボットが……、

 東京湾アクアラインを渡りきった。


 その先に広がるのは人口密集エリア。

 さらに隣接しているのは。


 …………『東京都心』



 実はこの瞬間、いろいろと決定した。


 なにが?

 なにが決定した?



 ──────── 整理しよう。


 まずは『機動戦機ギャンダム』というアニメそっくりの『巨大ロボット』の性能だ。

 アニメとそっくりだからといってアニメと同じだとは限らない。

 そうだ。同じだとは限らない。


 ただのハリボテである可能性を考えるほうがよっぽど自然だったろう。

 よっぽど気楽だったろう。


 だが、油断し過ぎである。

 あまりにも看過しすぎである。


 千葉県君津の山中に居た時点で、あのロボットの機動性について、強度について、もう少し想像するべきだった。

 イメージするべきだったのだ。


 重量数十トンはあるであろう巨大人型ロボットが、あれだけ飛び跳ねて動的に走り回ってもなんら問題ない強度なのだ。

 もし同程度の重量である一般的な戦車を同じだけ振り回し飛び跳ねさせたらどうなるだろう?

 とてもじゃないが原型を留めていられない、スクラップ待ったなしだ。


「いやいや、現実にも『空挺戦車』という飛び降りる戦車があるだろう?」


 そう、あるにはあるのだ。

『空挺部隊』という航空機から落下傘で敵地のど真ん中へ降下して敵の虚を突き、急襲する部隊、その部隊の為に開発された戦車。

 そういうのがあるのだ。


 まわりは敵ばかりの恐ろしい現場に、生身の人間ばっかりで攻め込まされる心もとない空挺部隊。怖い。すぐに援護が来てくれないと瞬く間にアウトになる、持ちこたえられない。ギリギリの緊張を強いられる空挺部隊。もし……、もしそれに随伴してくれる『戦車』があったらどんなに心強いだろう!  もう、生身じゃない。あんなことこんなこといっぱい助かるなぁ! という軍隊のジリジリしてネットリした夢を叶えるが為に生み出された存在『空挺戦車』。


 空から現場に降下可能な戦車!

 ……ただ、少々無茶が過ぎる存在だ。


 輸送機から空中投下する試みも実際に行われているが、パラシュートやら減速用ロケットやら下敷き板やらいろいろをあてがったりした上に、戦車の中でも最軽量級のアルミで出来た軽~~~いやつを、『戦車の命』ともいうべき装甲を軽くするがために削りに削った弱~~いやつを、そっと、そおぉぉ~~~っと投下するのだが。


 ガチャーン! と落ちて問題が! 故障が! 多発する!

 とてもじゃないが実戦での空中投下は割に合わない、しっちゃかめっちゃかな有様となる。


 それが現代技術の限界だ。

 それをあのロボットは…………。


 恐るべし頑強さである。

 素材レベルで到底マネできない強度の差があるのがうかがえる。


 なぜなら人間のような直立二足歩行は衝撃的に転倒するのが前提の構造だからだ。

(鳥類などは二足歩行だが、直立ではなく、転倒時の衝撃が比較的小さい)

 構造的にどうしても転倒し、その衝撃が最大となる弱点を抱えた歩行姿勢。

 転倒した程度でいちいち重大な損傷を負っていては成り立たない存在だ。


 直立二足歩行で飛び跳ねるということは、その際に転倒して、激しく各部を打ち付けても、それにある程度は耐えうる強度を持っていることを示している。

 戦闘目的の兵器ならば言わずもがなだ。


 つまり。

 現用の主力戦車────。

 低伸弾道の水平射撃で、音速を数倍超える高初速の砲弾をドッカンドッカンぶちかまし合い、空手重量級の試合さながら、仁王立ち状態の正面からガマン比べでドツキ合って勝負を決する。


 そんな、最もタフネスさを要求される最前線の動く要塞。

 各国がしのぎを削り開発したガチガチの装甲で固められた陸上最強の防御力を持つ特殊車両。


『 主力戦車 』

 ──── それよりも確実に『固い』と見るべきだ。


 それがさらに『山』という現行兵器では運用出来ない不可侵の地勢を飛び跳ねている。


『山』は21世紀現代に至るも、克服されていない。

 攻略不可の存在として重要戦略障害でありつづけ、その前提で各国の地政学(国レベルの『立地条件』的なもの。山や海で守られている国は多い)は成り立っている。


 それをあの巨大ロボットは飛び越える、駆け上がる。いとも簡単に根底から覆して見せているのだ。

 今までの世界戦略というゲームのルールの重要な一要素(ここは山なので通れません)を完全に無視している。


 いわゆる『ゲームチェンジャー』そのものであるのだ。


 え? 飛行機やミサイルでも山を超えるって?

 そういう問題じゃない、飛行機じゃ国を負かせられない。


 ベトナム戦争で圧倒的空軍力で空爆しまくったアメリカがどうなったか?

 勝てましたか?


 なぜアメリカが敵の潜む危険極まりないジャングルに兵士を入れなければならなかったか?


 なぜか?

 やりたくてやったわけではない。そうせざるを得なかった。

 敵を屈服させうるのは陸戦部隊、陸戦兵器がどうしても必要だからである。


 そのジレンマがまったく解決されていないのは、昨今の塹壕戦と化した近代戦争でも浮き彫りとなっている。


 そこへ、この問題を根本的にひっくり返す存在が現れたのだ。





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