第39話 大量虐殺のライセンスはお持ちですか?

 

 さて、まず山口県の飛行場みたいな『岩国海兵隊基地』が、カミナギルの腹の中から出てきた『ドラム・ファイター』に殲滅されたワケだが。

(ロボット本体部の所在は不明)


 このあと間髪入れずに、直線距離で260キロメートル離れた。九州、長崎県にある『佐世保海軍基地』も襲撃される。

 感覚的にほぼ同時に発生した出来事で、在日アメリカ軍はカミナギルの接近を一切感知できないまま、艦艇を無事に沖合まで逃がす間もなく殲滅されるワケだが。

 そのあたりの経緯を、これから順を追って記述します。



 佐世保基地は長崎にある。

 長崎は九州の北西部にある。

 日本列島が横から見た背筋を反った人の絵ならば、頭が北海道で、腹が東京。

 するとちょうどかかとにあたる部分が長崎だ。

 ちなみにここからさっき襲った岩国基地を結んだ直線の向こう側にヒロシマがある。


『長崎』と言えば世界的には『原爆』だろう。

 第二次世界大戦で、アメリカにより投下された原子爆弾『ファットマン』は、この基地より46キロメートル南の場所、地上約503メートルの上空で爆発した。


 その破壊力は通常の爆薬に換算して約21キロトン分あり、広島の原爆より強力で、7万人以上の一般市民が虐殺された。

 熱線と爆風と炎と放射線が浴びせかけられ悶え苦しんで死んだ。

 女も子供も老人も赤子も妊婦も生きたまま焼かれて死んだ。


 同じくヒロシマでは一般市民の上に原爆が投下され18万人が虐殺された。


『 非戦闘員や非軍事施設への攻撃を禁止 』

『 不必要な苦痛を与える兵器の使用を禁止 』

 という『 国際法 』におもっくそ違反している。

 ──と、1955年に裁判になったことがあるが、逆にそんな裁判いつどこでやってたの? というぐらい誰も知らない程度の裁判しかできなかったともいえる。

 もちろん判決は今の世界や、アメリカ人の態度を見れば言わずもがなである。


 隙あらばアメリカと足を引っ張りあっているロシアや中国といった国でさえだんまりであるのが大変興味深い。

 またそれら反米国家から支援を受けている『在日米軍出ていけー!』がスローガンの、活動団体の人達もアメリカのこういう戦争犯罪についてはあんまり追求してるの見たこと無いね、なんでだろうね? 不思議だね。なんでだろうね? 不思議だねぇ。


 怖いね。

 なにが怖いってこういうマネをしても……。

 大量殺戮兵器を使っても怒られないという答えが出ているという現実が。


 ──現実。


 過去の罪がどうこう言ってるのではない。

『大量殺戮兵器による大量虐殺が無罪放免になるという答えを人類が受け入れている』

『人類はそういう生き物だという答えがすでに出ているという現実』


 大丈夫なのか?

 これ、仮にね。

 今現在、日本がアメリカや核保有国にまた原水爆を落とされたとして

 誰が怒る?

 誰が核保有国を裁けるの?


 無理よね。

 無理っていうことを世界が証明しちゃってるよね。


 神が許さない?


 嘘をつけ。

 アメリカは世界最大のキリスト教国だぞ。

 その国が。そのキリスト教徒らが。

 大量破壊兵器で大量虐殺OK! と太鼓判を捺しているのだ。

 原爆のおかげで戦争を早期終結できて、100万人のアメリカ兵と、ついでに何人かの日本の犠牲者を減らせたとか無茶苦茶な根拠をゴリ押しして来るのだ。

 兵器を動かす石油もことごとく不足して、仕方なく戦艦を港に係留したまま浮砲台にしてた国相手にだぞ。

 周辺の海はおろか瀬戸内海まで機雷で埋め尽くされて手も足も出ない相手にだぞ。

 何が脅威だ。ここからどうやってアメリカを攻撃するんだ。

 日本があの状態からそんな積極的に100万人ものアメリカ人を殺害できる方法があるのなら、逆に聞きたいわ。その超絶必殺裏技を教えてくれ。


 だいたいなんだよその『100万人』って数字は、適当過ぎるだろ。

 日本の民間人を無差別爆撃で数十万人虐殺しまくったもんだから、批判をかわすためにもその数を大幅に上回る、仕方なく残虐行為に至るに相当な理由として上げたのかしらんが適当過ぎるだろ。そこまで人殺しがしたいのか、正当化したいのか。


 そうやって平然と一秒でバレる嘘をゴリ推して異民族や異教徒を虐殺し、略奪し、奴隷に貶めてきたのがキリスト教の教義だ。別に世界だの隣人だのを救うためにあるものではない。


 むしろ砂漠という厳しい環境で生まれたキリスト教などは、自らの所属集団の存在を脅かす敵を排除、侵略、略奪、利用するための──。心置きなく他人をブッ殺すための『虐殺OK! ライセンス発行機関』としての役割が重要だったりする。(生存の為にはその必要性があり、そして必然的に生まれたのがその手の宗教だとも考えられる)


 別にキリスト教が悪い訳では無い。

 世界中の宗教がべつに日本だろうが、どこぞの民族だろうが大量虐殺されても怒ったりしていない。


 怒ったことがない。


 宗教は人類の鏡像でしか無く。人類が許しているのにどこの神が怒る。

 そんな大きなお世話を焼く神様を人類は求めていないし作りもしない。

 作ってもいないものをあるように言うのはやめろ。


 そう、当てになるものが何もないのが怖ろしいのだ。

 大量殺戮兵器を使わせないほどの強制力がなにも無い。


 いや、あるだろ。

 現に数十年間核兵器は使用されていない。


 それも事実だが、それは核保有国同士の想定だろ。

 核を持っていないその他多くの国には適用されない。

 核を持っていない国の安全はどうすれば保証されるんだ?


 『未来予測が外れる法則』というものがある。

 未来は予測された時点で、その災厄を避けようと人類が努力するので、結果的に予測は回避されるというもの。


 全面核戦争は誰もが予測した。

 誰もがそれを避けるように努力した。そして今日まで避けてこれた。


 そう、大国同士の全面核戦争は回避される傾向にあると言えるだろう。

 では、誰がアメリカのような強国が。

 誰からも文句を言われないというお墨付きをもらっているアメリカのような国が。

 核保有国が。

 敗戦直前の日本のような殴り返す力のない弱小国相手に、再び大量殺戮兵器を使用して、あっけらかんと一般市民を大量虐殺してしまう事態を誰が予測しているのか?


 誰もしていない。


 核保有国同士の戦争は回避されるが、核を持たない日本のような国はどうなるんだ?


 それって、女子供を手酷くぶちのめした後「二度としないよハニー!」って笑顔を振りまいてくるDV男を信じてる女の能天気さとどのくらい違うのだ?


 しかもなんのお咎めもなく過ごしている男共だぞ?

 もうしないのか?


 ホントに?


 ……ホントに?


 するだろ……。

 絶対するだろ。


 そのための無罪放免ですらある。

 残念ながらそれが現状の『言いくるめられた女のバランス』なのだろう。


 我々の享受している平和とは。

 気分次第でどんな残酷なマネも出来るDV男とDV男の間にある女の平穏と変わりないのだ。

 

 ……男の気が変わるまでの束の間の平穏──。


 そして世間はそんな女がどうなろうが自業自得という。

 死のうがどうしようが知ったこっちゃないのだ。


 そういう言い訳できないナイフのように鋭く突きつけられた現実。

 鏡に映るにこやかなクソ男ども。

 生物の闘争本能には、倫理の座る席が用意されていない。


 ……猛獣の眠るそばで目覚めかけたかつての女たちはどこへ行ったのか──。




 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 まめちしき


 爆心地の住所は長崎県長崎市松山町。

 佐世保基地からは南へ佐世保湾とさらに大きい大村湾とを挟んだ向こう側にある。

 市の中心部は三方を山に囲まれたすり鉢状の形をしており『坂の街』『階段の街』として有名な美しい眺望の都市である。


『長崎は今日も雨だった』『雨のオランダ坂』『雨の長崎』となぜかやたらと、ご当地ソングにロマンチックな雨の歌が多いのだが、別に降水量が日本の他の土地より特別多いというワケではない。



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