第18話 首都のお空は半分こ?


 というワケで今回の大事件。

 世にいう『巨大ロボット在日米軍基地連続襲撃事件』の顛末を説明しよう。

 あの日何が起こったのか。


 え~~~とまずね。


 ギャンダムが

 神奈川県の内陸部最東端に位置する、川崎市川崎区の浮島町に『上陸』したところから。


 報道のヘリを何機も引き連れてやってきた。

 ここはまぁ、まだ人口の(都心に比べれば)少ないところなんですが。

 ギャンダムは上陸後にすぐ北西に向かって伸びる、首都高速神奈川6号川崎線へと飛び乗った。ここからすべて道路の上を疾走するという形で移動することとなる。


 そして、このまま人口密集地へと突入。

 あたりをパニックの渦に巻き込みつつ、大田区、品川区、港区、という順路でまっすぐ都心に向かうと思われた。


 思われたっていうか、最悪の事態を想定した結果、自然とそうぉぉぉぉ~~~~~思ってしまうわな?



 根拠もなにもないのだが。

 いや、刷り込まれてるんだなフィクションに。


 だって、怪獣でもテロリストでも何かが暴走して大ピンチになるようなパニック映画なんかでも、フィクションだと大抵首都中心部を目指すから。


 今回もそうだろうと思っちゃうんだな。

 自然とそう身構えるわ、日本人なら。

 いつも観てるもん、怪獣にやられるとこ。


 でまぁ、自然と悪い癖が出て、そう判断したと。


 リポーターも声を枯らして、「東京が危ない!東京が危ない!」と叫ぶ。


「まもなく大田区!まもなく大田区です!」

「大田区のみなさん!直ちに逃げて下さい!」と叫ぶ。


 ところがまぁ、

 予想に反してギャンダムは大師河原交差点で首都高速神奈川1号横羽線に乗り換え、南に向かって走り出したと。


 走り出しちゃったと。南に。反対側に…………。



「──── え?」と。


「──── なんだ?」と。


「──── 東京に来ないの?」と。


「……………」


 そりゃ神奈川だって首都圏ですからね。

 立派な都会ですから。

 人口もいっぱいですから。

 世界的にも珍しい、ずっと人口密集地帯が続くという『関東平野』ですからね!

 んんんん~、ちゃんと緊張感を持って、え~、見届ける、という、義務があるのはもちろんなんですけども…………。


 ────そうは言っても、………ねえ?


 ニュースのタイトルにしても『東京』って付くか付かないかでインパクトが違うっていうか、ぶっちゃけ『神奈川』じゃダメなんですよ。


『一大事』感が薄れるというか。

 ニュースと言えども見てもらってなんぼですからね。

 だって『ゴジラが神奈川で大暴れ』じゃシャキッとしないでしょう。


『なんで神奈川?』ってなるでしょう?

 同じですよ。


 国際的にも『トウキョウ』なら通じても『カナガワ』じゃ、

 どこよ?

 それどこよ?


 ってなるでしょう?

 こういうところが報道ではものすごく大事なんですよ!


 千葉にあっても『東京ディズニーランド』でしょう?

 あれがもうなりふり構わず如実に表してるわけですよ『千葉』じゃ話にならんって。

 とにかく『東京』なんですよ!『神奈川』じゃ日本人でも場所がイメージできませんよ!



 なんか肩透かしになりました。

 全員が全員そうです。誰も彼もみんな東京に来るもんだと半ば、というか完全に決めつけて見てましたから。


 それがまぁ~~~~、ねえ?

 緊張して動向を見守ってた者たち全員がなんだか変な気持ちに。


 どんどん東京方面から離れていくギャンダムに

「なんだ東京に来ないのか」と。


 思わず声に出してしまう者までいる始末ですよ。

 言うならば『ドタキャン』かと。(土壇場になってキャンセルする馬鹿野郎の意)

 そんな気持ちですよ。


 暴風警報が出て学校が休みになるのを期待してたような。

 そういう不謹慎なところがね。みんなにあったわけですよ。子供じみたね。


 それがその……、直前で台風の進路が逸れちゃったみたいな。


「なんだよ!」と。

「ふざけんなよ!」と。

 そりゃがっかりするというかね。


 なんかもう、イベント終わったかな、みたいな。


 報道のヘリもね。

 正直、先回りしてましたもん、大田区の方へ。

 街を破壊しながら都心を目指すロボットの正面の画を撮ろうと。バッチリ撮ろうと。

 そりゃ撮れ高たかいですよ。いい画が取れると期待もしますよ。

 こんなチャンス早々ないですよ?

 もうね。

 局に持ち帰ってね。

 絶賛されてね。

 美味いビールを飲むところまで想像してましたよ!


 だってね。

 そのー……、ヘリの燃料ももう無いわけですよ。

 ヘリってものすごく燃費が悪くてね。さんざん山の中に居た頃から撮影してますから。もうそろそろ帰るか、って言ってた時にこれですから。


 だからもうよけい、今しかない。

 今ならまだ燃料のあるうちに撮影ができる。

 たのむギャンダム! みたいなね。

 戻ってこい!的なね。


 遠ざかっていく後ろ姿を見ながら。

 そのラストチャンスがね。

 もう…………。

 終わった…………と。


 そりゃガッカリもしますよ。


 まぁ、どのみちこれ以上っていうか。

 あっち方面は横田進入管制区っていう、米軍の許可なしじゃ飛べない空域に入るらしいんで、我々のヘリにはどうしようもないんですけどね。


 え、知らん?


 日本の首都圏の空の半分、っていうか、日本海側ぐらいまでがっつりアメリカ軍が抑えてて、そこはアメリカの許可無く日本人が勝手に飛んじゃダメな空なんだって。


 まぁ、ほとんどの日本人は知らんかそんなこと、

 俺もこの仕事するまで知らなかったし。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る