第16話 マスコミも 無双


 ノリが重要である。

 実際に撃沈された原子力空母の原子炉が危険かどうかはどうでもいい。

 テレビマンの第六感が反応した!

 ここが騒ぎどころであると。

 祭りであると。


 よし、さっそくスタジオに専門家を呼ぶぞ!

 ただし、祭りを盛り上げるコメントをくれる専門家にしか用はない!


 なに?

「真実を曲げて大げさに話すのはあまりにも……」だと?

 そんな、お前の意見いらんのじゃ、おもろないんじゃ、すっこんでろ。

 顔芸のひとつも出来ないくせにタレント並のギャラを欲しがるんかおまえ。勘違いすんなよ。


 タレント事務所はちゃんとオ◯コを上納するぞ。

 おまえはケ◯の穴を上納する根性あんのか? ねえだろ!

 なめんじゃねえぞドシロウトが!

 ここは権力中枢であるぞ!

 内閣総理大臣でもいつでもやめさせられる力のある伏魔殿であるぞ!

 心して物を言え!

 権力に物を言うときに手ぶらで言うやつがあるか!

 そういう所がまるでわかってない時点でおまえらもう失格なんだよ!

 テレビで使ってもらえるだけ、どれだけありがたいか考えろ!


 頭使え!

 おまえアホだろ!

 頭使え!

 頭使え!


 業界のいろはも分かってねえで、何が「真実」だ笑わせんじゃねえ。

 おまえのいう「真実」が1円でも生み出すのかよ? あきれるわ。

「真実」は俺らが決めるんだよ!

 そこから勉強し直せ、世間知らずのオタク野郎が。

 この世界がどんだけ厳しいか知りもしないで、ぽっと出のお前ごときが番組の方針に口出ししていいと思ってるのか、思い上がるにも程があるわ。


 テレビに出たがる専門家の代わりはいくらでもおるんじゃ。

 こちらが話して欲しいこと以外しゃべるな、専門家。

 二度とスタジオに呼ばねーぞ、専門家。

 わかったか、専門家。


 あと、なんかそれっぽい適当なやつでも専門家って呼ぶことにするぞ。

 じつはただの売れない役者だったりするけど、バレなきゃセーフ。

 あれ? こないだ反原発でインタビュー受けてた通りすがりの人だよね? 

 なんで今日は専門家として出演してるのかな?


 心配いらない、どうせ視聴者は分からない。

 テレビ局が流したい情報以外はカットである。


 ……さすがバブル好景気時代のノリを

 頑なに守り続けて50年のスタッフたちが織りなす由緒正しき伝統芸である。

 もうテレビ局が好き勝手できた、おめでたい時代じゃないという、どうしようもない現実から全力で目を逸らす所存である。


 だがテレビ局よ。 それでいいのか。

 いやテレビの行く末の話ではない。 今はそんな事どうでもいい。


〝 これ日本が無くなっちゃうかもしれないぞと。 〟


 テレビマンは応えた。

「やられているのはアメリカ軍でしょ?」

「アメリカ軍が負けたからって日本は無くならないでしょ(笑)」



 笑ったね、今笑ったね、その心笑ってるね。


 笑ってる場合ではないっぽいのだが、

 アジア太平洋地域の軍事バランスが今、たった今、正体不明の何者かに簡単に破壊され、何が起こってもおかしくない状態にあるのだが。


 なろう異世界小説風にわかりやすく言うと、『光と闇の勢力のバランスが崩れた!』あるいは、『あああ、古の結界が破られた! 魔物が、魔物の軍勢が押し寄せてくるぅぅぅ~!』 って状態が始まりかけているのだが……。 


 この期に及んで、責任のあるオッサンがこんな風に笑っちゃってるのも仕方がない。

 そりゃそうだろう。


 ある時、日本の子供が教師に聞いた。

「どうして戦争って起きるの?」


 教師はドヤ顔で答えた

「アホな政治家が起こすからだ」


 これである。

 悲しいかな、これが一般的な支持を受けやすい回答なんだろう。

 ダメな方向の支持を受けちゃうんだろう。


 大学まで出たであろう教師が口走るにはあまりに粗末過ぎる回答であるのだが。

 未来を担うこどもの質問に、プロの教師がこのように答えていいかどうかも分からんのかという根本的な問題が、ゴロンとどデカく眼の前に転がっているのだが。



 戦後多くの日本人にとっては、戦争はどこかのバカがやらかすもので、

 平和を愛する自分たちには関係のないもの。


 ぼくたちはバカじゃないので、二度と『過ち』は犯しません。

 なので大丈夫。


 そういう理屈なワケです。



 だからテレビマンはなにより優先的に原子力空母の放射能漏れを、漏れてようが漏れてなかろうが執拗にこねくり回して全力で報道するし。


 一方、極東の軍事バランスに睨みを利かすアメリカ第7艦隊が

(※正しくは、中東地域除く西太平洋からインド洋まで担当)

『空母』『イージス』『揚陸指揮艦』をまとめてボコボコにやられたという歴史的大事件であるなどと、知るわけもないし知ったこっちゃない。


 知っててもそんなクソ面白くない情報じゃ視聴者に響かないだろう?

 と、勝手にテレビマンが自分が興味ないことを世間が興味ないと自信満々に判断してても。


 えー? なにそれ、第7艦隊って何よ?

 いるの? 日本に必要なの?

 それより放射能でしょ。

 日本は世界唯一の被爆国だよ?

 被爆国に配慮とかないの?

 配慮しようよ?


 スタッフにもヒロシマ出身がいます!

 ──── ね?

 首相もヒロシマ出身ですよ!

 ──── ね?

 彼も彼女もヒロシマ出身!

 ──── な? 


「ヒロシマ出身がどんだけ偉いっちゅーの?

 それが日本の行く末よりどんだけ大事なのかまったく説明になってないじゃん」

 と、マックで女子高生が言っていた。


 とにかく彼らは彼らの知ってる範囲で日本人の関心を引くであろう最善の報道をしているのだ。


 それのどこが間違っている?

 だれがそれを間違いだと言える?


 わからない。

 わからないが。


 わかろうがわかるまいが世界は動いていて

 日本人が『過ち』を犯そうが犯すまいが知ったこっちゃないのである。


 お互い様なのである。


 テレビマンがジャーナリズム精神に目覚めようと目覚めまいと

 もうテレビが娯楽の王様では無くなっていくのと同じ。


 どうしようもない。


 いきなり電車内でヤクザに絡まれてても誰も助けてくれない。

 みんな自分のことで精一杯。

 アレと何も変わらない。



 ──まぁ、そういうわけで。

 日本人の受け取る情報は、日本のメディアが流す情報なもんだから。

 日本のメディアが「おもしろくねぇから」と判断したらもう誰も知ることが無い。

 そういうお話でした。



 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


(注)この作品でのマスメディアの方々が極端に描かれていますが、

 ホラー映画の警察や軍隊が劇中で役立たずに描かれているのと同じように事実とは異なります。

 ゾンビを警察が手際よくやっつけちゃうと映画にならないように、演出の都合上、仕方なく問題をややこしくするお芝居をして頂いております。フィクションです。





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