第2話 カミナギル 大地に立つ!



 ◤ 宇宙に祝福あれ! 地球に慈悲あれ……!◢



 ~~ 100年後に小惑星の衝突で地球は壊滅する ~~


 回避不能。逃れられない絶対的運命。


 直径13キロメートル。致命的な大きさの地球近傍小惑星の発見により、急遽地球脱出を余儀なくされた人類は、発達した人工超知能(ASI)の完全管理による宇宙移民人口島郡の建造をスタートさせた。


 計画は驚くべきスピードで進行し、たった80年で火星の局所テラフォームまで完了させつつあった。誰もが新たな宇宙世紀の到来を信じて疑わなかった。


 明宙歴80年、宇宙開拓を一手に担っていた革新分基型インフラストラクチャ人工超知能(ASI)『レミングロス』が宇宙生活に最適化された新宇宙人類を『創造』し〝旧〟人類に絶滅戦争をしかけてくるまでは……。


 「レミングロス、やつは神を気取っている────。神殺しの武器が必要だ……」


 ~~ テレビアニメ『神霆戦機 カミナギル』冒頭のナレーションより。 ~~



 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆





 20XX年、千葉県君流市。

 東京都心から50キロ圏内のいわゆる都市雇用圏にある田んぼと宅地と丘陵地帯のベッドタウン。なにかとネタにされ『田舎』から『田舎の入り口』くらいに昇格したと言われる木更◯市のお隣でも有る。


 そんなのどかな君流市の、とあるマンションの一室。



 久喜条 凜子(くきじょう りんこ:28歳、元OA機器代理店勤務)は

 カーテンもろくに開けず、ベッドの上でタオルケットにくるまってPCをいじっていた。


 戯れにAIに


『世界を変える力をちょーだい。』


 と問うたところ。


 <パイロットを確認、時空座標を修正します。>


 と意味不明の回答。


 ????


『パイロットって何?』


 <パイロットは、航空機を操縦する資格を持った者を指す名称です。飛行機の種類や目的により様々な種類のパイロットがいます。>


 聞き返しても返ってくるのはありふれた答え。

 なんだったんださっきのは。


 追求しようと思ったが我に返る。

 あぶないあぶない。

 コンピューターとマジメにお話しちゃう人にだけはなりたくない。

 無職になった挙げ句、コンピューターとお話し始めたら本気でおしまいだ。


「あーあ、これからどうしよっかなぁ~」


 凛子はマジメに考えるのが嫌だった。

 マジメに考えて、考えて考えて、必死で頑張って、意に沿わないことも頑張って……

 そういう事をやり尽くして、何もかも失った経験がある。


 動物実験で。

 檻に入れた犬に電流を流すというものがある。

 床に電流を流す。


 犬はなんとか電流から逃れようと檻の中を逃げ惑うが、やがてどこに逃げても電流からは逃れられないと知ると、逃げる努力をしなくなる。


 今度は一部分だけ、すぐ逃げられる範囲にだけしか電流を流さなくても、もう犬は行動しない。


 今風に言えば心が折れてしまったのだ。

 もう何もできなくなってしまったのだ。


 凛子はそれを10年前に嫌ほど味わっていた。

 それでもなんとか自分を騙しつつ、ネットで弱者男性に八つ当たりをしてウサを晴らすという、どうしようもない手段を用いて、なんとか今日までやってきていたが。


 とうとう身バレして、炎上、解雇。 で、この状況だ。

 守ってやろうとした妹に逆に心配されている。



 20代ももうすぐ終わる。

 何もない、何もなし得なかったのに。

 また就職活動か…………。


 やる気など出るはずもない、再びなりたくもない何かになるために努力するなど

 苦痛でしか無いではないか。

 無力感がのしかかって来て、抗いがたい眠気に落ちた。


 自分なら世界を変えられると信じていた、10年前の自分の夢を見た気がした。


 夢の中でアパートが爆発して、その煙の中からロボットが現れる。

 変な夢。


 これ夢だよね?


 コクピットで目を覚ましたパイロットスーツ姿の凜子は

 メインモニターに映し出されたフェアリー・オプション(ドローンみたいなやつ)がとらえた映像。

 そこにある巨大ロボこそ今自分が乗り込んでいるこの操縦席の外観なのだと理解した。



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