第8話 変な帽子をかぶってるわね

「くそっ……こいつ本当に無職なのかよっ……」

「強すぎる……」

「うぅ……乙女の顔ばかり狙うなんて……酷すぎ……」


 金目の物を奪おうとしていた三人組を返り討ちにしてやった。


 同レベル帯の天職持ち、しかも三対一という不利な条件ではあったが、所詮は弱い同業者を狙って小遣い稼ぎばかりしているちんけな連中だ。

 戦い方の基本すら理解できておらず、グラワルをやり尽くした俺が負けるはずもない。


「あ、あたしたちが悪かったわ……っ! お願い、これで許して!」


 涙目のリーネが差し出してきたのは、淡い緑色の刀身を持つ剣だった。


―――――――――

〈ウィンドソード〉使うと暴風を生み出す剣。耐久が低いため、直接攻撃には向かない。攻撃+10

―――――――――


 使うと暴風を生み出す魔法の剣で、ゲームの初期では非常に役立つ武器である。


 俺があえてこのイベントに乗ったのは、こいつを手に入れたかったからだ。

 ゲームと同じでよかったぜ。


「待てよ……?」


 そこでふとある考えが脳裏に浮かんだ。


 ……もっと要求できるんじゃないか?


 ゲームだと、この〈ウィンドソード〉と引き換えに、彼らを放免してやる流れとなる。

 一時的に操作ができなくなり、ペコペコ頭を下げながら去っていく彼らを見送るしかないのだが、これは現実世界だ。


「ダメだな」

「えっ?」

「まさかこんなものだけで、俺の気が収まるとでも思っているのか?」


〈暗闇のナイフ〉を片手に、そう脅しをかける。


 するとリーネが真っ青な顔で、手を震わせながらお金を差し出してきた。

 1万ゴルドである。


「これだけか?」

「あ、あたしはもう何も持ってないの! ラウルっ、あんた何か出しなさいよ!」

「な、何で俺がっ!」

「こいつを怒らせたらマジヤバイわよ! 女の顔に平気で石を投げてくるようなやつなのよ!? 逆らったら何されるか分からないわ!」

「ちっ」


 ラウルは舌打ちしつつ、剣を放り投げてきた。

 恐らく予備のものだろう〈青銅の剣〉だ。


「こ、こっちの剣はやれねぇぞ!? かなり高かったんだぶげっ!?」


 メイン武器である〈鋼の剣〉を胸に抱きかかえ、必死に訴えてくるラウルの顔面に至近距離から石をぶつけてやった。


「ん? 聞こえなかったな? なんだって?」

「こ、こっちの〈鋼の剣〉を差し上げます……」


―――――――――

〈鋼の剣〉鋼製の剣。これを装備できれば一人前。攻撃+25

―――――――――


 よしよし、〈鋼の剣〉が手に入ったぞ。

 まぁ新人狩りをしているようなやつには、分不相応な武器だ。


 俺は続いて視線をバルアに向ける。


「お前はその服だ」

「っ!?」

「ほら、とっとと脱げ」


 バルアからは〈盗賊の服〉を巻き上げる。


―――――――――

〈盗賊の服〉盗賊が好んで装備している服。防御+5。敏捷+5

―――――――――


 防御力は低いが、敏捷が少し上がるのが嬉しい。

 ラウルが身に着けている〈皮の鎧〉でもよかったのだが、しばらくは盗賊っぽい戦い方をしていく場面の方が多いため、〈盗賊の服〉を選んだ。


 パンツ一丁となったバアルを余所に、俺は〈上等な布の服〉を脱いで、すぐに〈盗賊の服〉を身に着ける。


 ……ちょっと臭うな。

 ゲームならこんなことはないはずだが……洗濯してからにした方がよかったかもしれない。


 もちろん〈上等な布の服〉の方は持ち帰るつもりだ。

 売ったらそれなりの値段になるはずだからな。


 さらにバアルが持っていた宝石類も奪ったところで、


「さすがにこんなところか。一人じゃそんなに持ち運べはしないからな。〈アイテムボックス〉があれば、持ってるアイテムも装備も残らず巻き上げていくんだが」

「「「鬼畜……」」」

「あ? どの口が言ってんだ?」

「「「ひっ」」」


 それにしても上手くいったな。

 ゲームだと〈ウィンドソード〉だけだったのに、色々と手に入ってしまった。


 ゲームと同じ世界ではあるが、ゲームとは違う行動を取ることができる。

 ゲーム時代の常識にとらわれずに行動していけば、より効率的にこの世界を攻略していくことが可能になるかもしれない。


 ――称号〈強奪返し〉を獲得しました。


「む? なんか称号を覚えたぞ?」


―――――――――

〈強奪返し〉強奪者を返り討ちにし、逆に金品を奪った者。強奪の意志を持つ者を見抜くことができる。

―――――――――


 こんな称号、ゲーム時代にあったか……?


 称号は非常に数が多く、しかも獲得には、かなり限定的な行動をとらなければならないものも少なくない。

 そのため、まだまだ見つかっていない称号があると言われ、さすがの俺もすべては把握できていなかった。


「あるいは、現実になったこの世界オリジナルの称号が存在している可能性も……」

「グギャギャギャッ!」


 そのとき不気味な鳴き声が響いて、俺は視線を転じる。

 特徴的な鳴き声から、てっきりゴブリンが現れたのだろうと思っていた俺は、思わず息を呑んだ。


「レッドキャップ、だと……?」


 見た目こそゴブリンと大差ない。

 だが赤いとんがり帽子に、悍ましい血塗れの大振りナイフ、そして腰には同族――ゴブリンのものと思われる頭蓋をいくつもぶら下げている。


「なんだこいつは?」

「ゴブリンのくせに、変な帽子をかぶってるわね?」


 暢気にそんなことを口にしているラウルとリーネは、どうやらこの魔物のことを知らないらしい。


 次の瞬間だ。

 レッドキャップが地面を蹴ったかと思ったときには、その大振りナイフでリーネの首を狩り取ろうとしていた。


「へ?」

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