第9話 見えていないと言えば見えていない
レッドキャップは、このダンジョン『岩窟迷宮』に出現する凶悪なユニークモンスターだ。
ユニークモンスターは、通常の魔物と違い、同じダンジョン内に同時に一体しか存在していない。
その点ではボスと同じなのだが、恐ろしいのがボスに準じる強さを持つにもかかわらず、ダンジョン内を自由に徘徊しているのである。
『岩窟迷宮』の推奨攻略レベルは45。
そしてボスのレベルも同等の45なのだが、このレッドキャップのレベルは39。
レベル20前後では、手も足も出ない相手である。
さすがの俺も、レベル18の無職では絶対に戦いたくない。
そんなレッドキャップが、一瞬で距離を詰め、大振りのナイフでリーネの首を斬り飛ばそうとする。
ガキイイイインッ!!
すんでのところで、俺は〈鋼の剣〉でそれをパリィしていた。
いや、攻撃力に差があり過ぎて、ナイフを弾くところまではいかなかった。
それでもレッドキャップはまさか攻撃を止められると思っていなかったのか、俊敏な動きで距離を取る。
「な、な、な、な……」
自分が今、死にかけていたことを理解したのか、言葉すら出ないリーネ。
「なんだ、こいつは!? 全然動きが見えなかったぞ!?」
ラウルも愕然としたように叫ぶ。
「あいつはレッドキャップ。このダンジョンのユニークモンスターだ」
「ユニークモンスターだとっ!? ふ、普通、もっとダンジョンの奥にいるはずだろう!?」
「ああ、本来ならな。だがごくごく低確率で、浅い場所に現れることもある」
ユニークモンスターはダンジョンの深いところほど遭遇しやすく、浅くなるほど遭遇確率は大きく下がる。
ここはまだまだ浅いところなので、まず出会うことなどないはずなのだが……運が悪かったとしか言いようがないだろう。
「ちなみにレベルは39だ」
「39!? ぜ、絶対に敵わないじゃない!? ああ、終わったわ……あたしの人生……悪いことばかりしてたから、天罰かも……」
レッドキャップが厄介なのが、圧倒的な敏捷値の高さだ。
俺たちのレベルでは、もはや目で追うことすら難しく、攻撃されたのも分からないまま殺されてもおかしくない。
「動きすら見えないとか、どう考えても勝ちようがねぇ……い、いや、待てよ……? お前、今あいつの攻撃を弾き返したよな!? もしかしてお前には見えてるのか!?」
「見えていると言えば見えているし、見えていないと言えば見えていない」
「いやどっちだよ!?」
「っ、来るぞ!」
レッドキャップが移動モーションに入った。
本来なら速すぎてその瞬間を見極めることなど不可能なのだが、俺にはしっかりと見えていた。
〈超集中〉スキルの効果だ。
一時的に極限まで集中し、時間が引き伸ばされるような感覚を得るというのが、このスキルである。
実は先ほどリーネを狙った一撃も、このスキルを使用することでギリギリ防いだのだ。
現在のステータスでレッドキャップを相手取るには、こいつを最大活用するしかない。
もしこのスキルを習得していなかったとしたら、逃げの一手だっただろう。
無論、今からでも俺だけ逃走することは可能だ。
〈気配隠蔽〉スキルを使用し、この三人を囮にすれば、敏捷の高いレッドキャップからも、ギリギリ逃げることができただろう。
さすがに彼らを見殺しにはできないと思ったから?
違う。
「こういうヒリヒリした戦い、嫌いじゃないからだよ!」
正面からでは再び攻撃を防がれると思ったのか、レッドキャップは俺の後ろに回り込むような動きで距離を詰めてくる。
〈超集中〉で周囲の光景がスローモーションになっても、自分自身が速く動けるようになるだけではない。
そのため振り返る遅さにもどかしさを覚えつつ、俺はあえて装備を〈鋼の剣〉から〈暗闇のナイフ〉に切り替えた。
〈鋼の剣〉ならともかく、〈暗闇のナイフ〉では、レッドキャップの大振りナイフをパリィすることはもちろん、ガードすることもできない。
なので相手の攻撃動作からナイフの軌道を予測し、スローモーションの中でどうにか身体を反らして回避する。
すぐさま反撃したいところだが、まだだ。
レッドキャップの攻撃は基本的に連続攻撃。
その代わりすべて躱し切れば、一気に隙ができる。
二撃目、三撃目、四撃目――
〈超集中〉の効果時間は残り3秒……ギリギリだ。
――最後の五撃目、よし、今だ!
連続攻撃を避け切った俺は、〈暗闇のナイフ〉の刺突を、レッドキャップの急所である胸にお見舞いした。
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