第33話 詳しい事情を聞かなくても分かる
ダンジョン『深淵穿孔』。
最下層まで続く巨大な穴を中心に、全部で三十もの階層を持つ。
穴の部分から下層に降りることができれば簡単なのだが、残念ながらそこは垂直の崖となっている上に飛行系の魔物がいる。
無防備な状態で攻撃を受けたら、最下層まで一直線なので、自殺志願者を除けばそんな危険なルートは選ばない。
穴の周辺に洞窟状の道が幾つも存在し、そこには下層へと続く階段もある。
かなり複雑で大幅な遠回りにはなるものの、こちらのルートを選ぶのが普通だ。
俺が地下一階の洞窟を進んでいると、早速、魔物と遭遇する。
犬の魔物、コボルトだ。
他の個体よりも大柄なエルダーコボルトと、それに率いられた数体のコボルトが、群れを成して襲い掛かってくるのがこのダンジョン上層の特徴である。
「ワウッ!」
「ワウワウッ?」
「ワオオオンッ!!」
〈気配隠蔽〉を使っているため、こちらの姿には気づいていないはずだが、嗅覚の強いコボルトは何か違和感を覚えたようだ。
互いに吠え合って警戒している。
「〈ファイアアロー〉」
俺は〈アイテムボックス〉から〈ワイズマンロッド〉を取り出すと、そこへ魔法をぶち込んでやった。
「「「~~~~ッ!?」」」
魔法の威力は魔力値に比例する。
〈ワイズマンロッド〉で魔力が+95も上昇した状態で放った〈ファイアアロー〉は、一撃で三体ものコボルトを火だるまにしてみせた。
「ワオオオオオオンッ!!」
いきなり配下を全滅させられたエルダーコボルトが、怒りの咆哮と共にこちらに躍りかかってくる。
魔法を使ったことで、居場所がバレてしまったのだ。
俺は武器を〈鋼の剣〉に持ち替え、迎え撃った。
その鋭い牙で噛みついてこようとしたのか、エルダーコボルトが勢い任せに頭から突っ込んできたので、顔面に斬撃をお見舞いしてやる。
「ギャンッ!?」
スタン状態となるエルダーコボルト。
すかさず二撃目、三撃目と叩き込み、回復する前に一気に片づけた。
ほぼ瞬殺だったが、それも当然。
俺のレベルが38であるのに対し、コボルトのレベルは26で、エルダーコボルトのレベルは35だ。
まぁ無職はステータスが低いため、油断していると普通にやられてしまうのだが。
ちなみにレベル的に格下なので、残念ながら倒したところでほとんど経験値にはならない。
効率よく経験値が稼げる中層まで早く進みたいところである。
巨大な二本の鋏をガシャガシャさせながら、巨大な蟻の魔物がこちらに迫ってくる。
レベル47の魔物、シザーアントだ。
その身体は硬い外骨格に覆われているので、通常の攻撃がほとんど通らない。
「〈ファイアアロー〉」
「~~~~ッ!?」
幸い炎が効くので、〈ファイアアロー〉をお見舞いしてやる。
シザーアントの全身が炎に包まれ、悶え苦しみながら動かなくなった。
ガシャガシャガシャ。
だが仲間の屍を余所に、別のシザーアントが次から次へと襲いかかってくる。
こいつらはコボルト以上に群れる魔物なのだ。
俺は踵を返し、いったんその場から逃走する。
〈逃げ足〉のお陰で敏捷値が上がっているため、シザーアントの群れなど容易に引き離す。
そして魔法を詠唱するのに十分な距離を取ったところで、
「〈ファイアアロー〉」
「~~~~ッ!?」
再び赤魔法を直撃させる。
これを繰り返していくことで、危なげなくシザーアントの群れを全滅させたのだった。
―――――――――
【レベル】41→42
―――――――――
俺は地下十五階までやってきていた。
ちょうどこのダンジョンの真ん中に相当する、中層部である。
「パオオオオンッ!!」
「今度はバウンドエレファントか」
通路に立ちふさがったのは、ブクブクと太った象の魔物だ。
レベルは52。
見た目通り超重量の持ち主で、踏み潰されたら一巻の終わりなのだが、なぜかボールのように地面を跳ねながらこちらに迫ってくる。
中層では一、二を争う厄介な敵だが、弱点の鼻を狙い撃ちできれば簡単に倒せる。
こいつも魔法が効くため、〈ファイアアロー〉でもいいが、
「〈フリージング〉」
俺は青魔法を選択した。
猛烈な冷気がバウンドエレファントの巨躯を『凍結』させる。
固まったバウンドエレファントが動かなくなったところで、弱点の鼻を剣で攻撃しまくった。
HPを削り切る前に『凍結』から回復してしまったが、もう一度同じことを繰り返すだけだ。
―――――――――
【レベル】42→43
―――――――――
巨体が光の粒子と化し、再びレベルが上がる。
そうして中層で順調にレベル上げをしていると、
「た、助けてくださいっ!!」
【僧侶】の天職持ちと思われる若い女が、そんなふうに叫びながら涙目でこちらに駆け寄ってきた。
「な、仲間がっ……モンス――」
「分かった。とりあえずそこまで連れていってくれ」
「えっ!?」
言い終わる前に応じたので、女が一瞬唖然とする。
だがすぐに我に返って、
「わ、分かりました、こっちですっ!」
女が息を荒くしながら来た道へと走り出す。
俺はすぐに後を追った。
詳しい事情を聞かなくても分かる。
これはゲームでもあったあのイベントだ。
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