第13話 ギルドカードを見せてみろ

 遠くに魔物の群れが見えてきた。

 猛烈な土煙を巻き上げながら、こちらに向かってきている。


 その数、五百以上。

 それを迎え撃つ主力は、領主が保有する騎士団と冒険者たちで、騎士団が二十人ほど、冒険者が百人ほど。


 天職とステータスがモノを言うこの世界では、個人の戦力差が大きい。

 そのため少数精鋭が基本なのである。


 数の上では、戦力差は四倍以上。

 しかも暴走状態のダンジョンの魔物は通常よりも強化されているため、簡単には倒せない。


 こちらに有利な点を挙げるなら防壁の存在だろう。

 都市を護る高さ十メートルほどの防壁を上手く利用することで、数の不利を覆そうとしているのだ。


 作戦としては、防壁の正面で魔物を食い止めつつ、同時に左右から挟み撃ちにするというものである。

 右手には騎士団が、左手には冒険者たちが、それぞれそのときを待っていた。


 地上で直接、魔物とやり合うため、当然ながら相応の実力が求められる。

 そのため冒険者の場合、こちらの一団に加わることができるのはDランク以上だけだった。


 ちなみにレベルでいうと、だいたい30前後からがDランクといったイメージである。


「もちろんこっそり交ざっているけどな」


 俺はFランク冒険者ながら、そんな一団に勝手に交っていた。

 まぁ無職でさえなければ、俺もすでにDランクに相当するレベルなのだが。


 何人かの冒険者たちから「あまり見たことない顔だな」という目で見られたものの、平然とした顔でやり過ごしている。

 まさか自分からこんな危険に飛び込もうとする下級冒険者などいないとでも、思ってくれたのかもしれない。


 このまま上手く切り抜けられるかと思いきや、


「おいおい、何でこんなとこにガキがいるんだよ? こっちに加われるのはDランク以上だぞ?」


 年齢は二十歳手前ぐらいといったところだろうか、肩に大きな剣を担いだ青年に目をつけられてしまった。


「ほんとだわ。こんな年齢でDランク? そんなのがいたら、話題になってるはずだけど?」

「全然知りませんね」


 さらに青年のパーティメンバーと思われる二人の女性からも、疑いの目を向けられる。


「お前、何ランクだよ?」

「あ~、ええと」

「怪しいな、おい? ギルドカードを見せてみろ」


 と、そのときだった。

 一人の若い女性が防壁の上に姿を現したのは。


 白銀の美しい鎧に身を纏う、金髪碧眼の麗人に、こんな状況ながら冒険者たちが息を呑んだ。


「セレスティア王女殿下だ……」

「ちょうどこの都市に滞在されているとは聞いていたが……」

「何度見てもお美しい……」


 この国の第三王女、セレスティア=セントルアである。

 ゲーム時代にも登場し、その凛々しくも流麗なキャラクターデザインから、男女問わずプレイヤーたちから人気が高かった女性キャラの一人だ。


【戦乙女】という天職を有し、高い戦闘能力を持っている彼女は、王女ながら騎士としても活躍し、この国の英雄だった。


「冒険者の皆さん! 我が国が誇る栄都ロンダルのため、その力を貸してくれて心から感謝します! 敵は五百を超える魔物の大群です! ダンジョン深部の凶悪な魔物も数多くいるでしょう! ですが何の心配も要りません! 勇猛果敢なロンダルの冒険者諸君ならば、必ずや奴らを殲滅し、この危機を共に乗り越え、全世界にその名を知らしめることでしょう!」


 美しい英雄から直々に鼓舞されて、冒険者たちが一斉に雄叫びを上げた。


「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 途端、身体が少し軽くなったような感覚があった。

 ステータスを確認してみると、すべての能力値が10%も上昇している。


【戦乙女】が使えるスキル〈戦意鼓舞〉の効果だろう。

 一定時間、仲間全員のステータスを上昇させるという、破格の性能のスキルである。


 強化率こそ人数が多いほど下がるものの、これだけの人間たちに効果を及ぼすことができるというのは驚きだ。


 そこへついに魔物の先頭集団が突っ込んできた。


「ちっ、もう来やがったか!」

「こいつのことは気になるけど、放っておきましょ」


 先輩冒険者たちの追及から逃れることができ、俺は安堵の息を吐く。


 直後、防壁の上に控えていた魔法使いたちが、一斉に攻撃魔法を放った。

 さらに弓から射られた無数の矢という矢が、雨のごとく魔物の群れへと降り注ぐ。


「「「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」


 いきなり破壊的な豪雨を浴びせられ、先頭集団の魔物が次々と光の粒子と化して消えていく。

 だがそれでも群れの勢いは収まらなかった。


 猛攻の中を駆け抜けた数体の魔物が、ついに防壁へと辿り着く。

 そのまま壁をよじ登って、街の中へと侵入しようとした。


「させるかっ!」

「~~ッ!?」


 しかし防壁の上にいた冒険者たちが、魔物を攻撃して叩き落す。

 そこかしこで激しい攻防が繰り広げられた。


「今です! かかれえええええええっ!!」


 そのとき戦場に響き渡る怒号。

 先ほどの第三王女が、防壁の脇に控えていた騎士団と合流し、一気呵成に魔物の群れへと突っ込んでいったのである。


「我らも殿下に続くぞおおおおおおっ!!」


 それに呼応し、防壁の反対側から叫んだのが、冒険者たちをまとめているベテラン冒険者だ。

 今回の作戦に参加している中では最上級の、Cランク冒険者である。


 見覚えがある。

 確かゲームでも登場したキャラで、名前はバークだったか。


 冒険者たちが一斉に飛び出し、俺もまたその流れに乗った。

 あっという間に、横合いから魔物の群れに激突する。


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